SBTi新基準とGHGプロトコル改定 企業の気候変動対応を変える排出量データ戦略
(※本記事はNTTデータ経営研究所ウェブサイト内の「経営研レポート」に2026年9月30日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
はじめに
企業の温室効果ガス(GHG)排出削減目標に関する事実上のスタンダードとなっているSBT(Science Based Targets:科学的根拠に基づく目標)について、2026年6月、SBTi(Science Based Targets initiative)が「Corporate Net-Zero Standard Version 2.0」(以下、CNZS V2.0)を公表した1。2021年の初版以来、最大の改定となる。2027年2月1日に発効し、2028年2月1日以降は、すべての新規目標提出でV2.0の適用が必須となる2。日本はSBT認定企業数が国別で世界最多であり3、その影響は広範に及ぶ。
並行して、排出量の算定・報告のルールであるGHGプロトコルの改定が進行している。2026年7月29日には、新たな基準をISO(国際標準化機構)との共同ブランドで公表する方針が示された。意見募集は2027年第2四半期、公表は2028年第4四半期の見込みとされている4。
目標設定の新たなルールは確定・公表された一方、排出量の算定・報告のルールはこれから動く、という状況にある。重要なのは、この2つを別々の話として捉えないことである。
本稿では両者の動向を整理した上で、次の2点を強調したい。
1点目は、SBTi CNZS V2.0では目標設定の選択肢が広がったが、どの手段を選んでも、サプライヤーなどと連携した1次データ5の重要性は変わらず、むしろ高まることである。
2点目は、GHGプロトコル改定については、その最終的な帰結がSBTiの実務にも及ぶため、今後の議論を注視する必要があることである。
SBTi CNZS V2.0はGHGプロトコル改定の論点を一部先取りしており、Scope2・Scope3で検討されている新たな要件は、既存の算定・管理に求められるデータの粒度と説明可能性の水準を引き上げる方向にある。さらに、AMI(Actions and Market Instruments)の議論により、企業のGHG報告が従来のインベントリ(Scope1・2・3の絶対量)だけではない多面的な軸で評価される可能性も見えてきている。
1 SBTi “The SBTi releases Corporate Net-Zero Standard V2.0 to accelerate corporate climate action”(2026年6月11日)、同 “Corporate Net-Zero Standard Version 2.0”(2026年6月)
2 SBTi Services “Guide for Companies in the Transition to Corporate Net-Zero Standard V2.0”(2026年6月)Table 1
3 2026年6月時点で2,500社以上(中小企業版含む)。SBTiのダッシュボードに基づく。
4 GHG Protocol “Corporate Accounting and Reporting Standard (Corporate Standard), Version 3.0 -Standard Development Plan (SDP)”(Version 2.0、2026年7月29日)
5 企業バリューチェーン内の固有活動から得られるデータ。サプライヤーなどから直接提供を受けた排出量データなど。1次データ活用の意義については、当社経営研レポート「企業に求められる気候変動対応の最新動向 ― Scope3排出量削減に向けた1次データ活用の重要性」(2025年6月)も参照。
1. 目標設定と算定・報告 ― 同時に進む2つのルール改定
現在進行しているのは、2つの異なるルールの改定だ。SBTi CNZS V2.0は「排出削減目標の設定と実施」のルールであり、GHGプロトコルは「算定と報告」のルールである。しかし、両者は密接に関係している(図表1)。
SBTi CNZS V2.0は、GHGプロトコルの「利用可能な最新かつ有効な版」に整合して算定することを求めている6。つまり、GHGプロトコル改定は、SBTiの目標設定・進捗評価の土台に影響を与える。SBTi CNZS V2.0でも、排出量算定に関する規定の修正や移行措置は、GHGプロトコル改定の完了時に検討するとされている。
他方、SBTi CNZS V2.0は、電力の「供給可能地域」や「時間単位マッチング」といった、GHGプロトコル側でまだ確定していない論点を一部先取りしている(後述)。こうしたSBTi側の新たな規定は、GHGプロトコル改定における議論を踏まえて理解することが必要である。
【図表1】2つのルール改定と時間軸(2025年~2028年)
(参考)
・SBTi “The SBTi releases Corporate Net-Zero Standard V2.0 to accelerate corporate climate action”(2026年6月11日)、同 “Corporate Net-Zero Standard Version 2.0”(2026年6月)
・GHG Protocol “Corporate Accounting and Reporting Standard (Corporate Standard), Version 3.0 -Standard Development Plan (SDP)”(Version 2.0、2026年7月29日)
・GHG Protocol “Scope 2 Public Consultation Summary”(Version 1.1、2026年8月25日)、GHG Protocol “Scope 2 Public Consultation Feedback Summary: Executive Summary”(2026年7月29日)
・GHG Protocol “Scope 3 Standard Phase 1 Progress Update”(2026年3月)
・GHG Protocol “Actions and Market Instruments Phase 1 Progress Update White Paper (Version 3 -Request for Information)”(2026年3月)
・SBTi Services “Guide for Companies in the Transition to Corporate Net-Zero Standard V2.0”(2026年6月)Table 1
6 脚注1参照(C3、C5)。以下、本稿における「C○」はCNZS V2.0本文の条文番号を指す。
2. SBTi Corporate Net-Zero Standard V2.0の要点
2.1 「目標設定の認定」から「実施・報告・進捗評価までを含むサイクル」へ
SBTi CNZS V2.0の最大の特徴は、これまで別建てであった短期目標の基準(Near-Term Criteria)とネットゼロ基準を1つの基準に統合し、目標の設定・実施・報告・進捗評価を一連の「目標サイクル」として規定したことである。
従来、SBTは「目標水準に対するお墨付き」として捉えられることが多かったが、CNZS V2.0では、5年間の目標サイクルの終了時に進捗が評価され、その結果を踏まえて次サイクルの目標を設定する仕組みとなる。企業には、目標設定時の作業だけでなく、5年間のモニタリング・報告・評価に耐えるデータ管理体制が問われることになる。
なお、CNZS V2.0では、削減に向けて利用可能なすべての手段に取り組み、障壁を透明に報告する企業は、進捗に不足が生じた場合でも枠組みに残ることができる「ベストエフォート枠組み」が導入された。ただし次サイクルではより大幅な削減とアクションの加速が求められ、その最低進捗要件は今後決定される予定である。
2.2 V1.3.1からV2.0への主な変更点
主な変更点は図表2のとおりである。
【図表2】CNZS V1.3.1からV2.0への主な変更点
(参考)
SBTi “Corporate Net-Zero Standard Version 2.0”(2026年6月)
同 “Main Changes Document for Version 2.0”(2026年6月)など
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