開業率が全国ワースト1位の秋田で起業 地域課題に向き合い価値を育む

(※本記事は経済産業省近畿経済産業局が運営する「公式Note」に2024年8月29日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

株式会社なんで・なんで 代表取締役の須田氏の写真

秋田市に拠点を置く株式会社なんで・なんでは、キャリアオーナーシップの開発を専門とする人事に特化したコンサルティング会社だ。さまざまな人にとって、自分の人生を自分で決めているか?という問いかけをしていきたいという思いで、2023年10月に以前の「あきた総研」から、「なんで・なんで」に社名を変更した。

近畿経済産業局公式noteマガジン「KEY PERSON PROFILE」、シリーズ「地域と価値とビジネスを巡る探求と深化」第7回は、株式会社なんで・なんでの代表を務める須田紘彬さんです。東北経済産業局とのコラボ企画です。

取材日(場所):2024年1月(於:株式会社斉藤光学製作所/秋田県美郷町)

須田さんが社名を変えたその背景には、自分で物事を決めていく人が自分は幸せに生きていると思うことができる、という考えが根本にあるからだ。ある研究では、自己決定率が幸福感を高めるというデータもある。

そんな同社の事業内容は、組織内部の制度設計・コンサルティング、企業研修や町内会のファシリテーションまで多岐に渡り、ある意味で教育事業も近い領域だ。そんな取組を進める須田さんに、社会的な価値と利益とは何か、という問いを投げかけ、インタビューは始まった。

キャリアオーナーシップと秋田の地域課題

起業したいという思いは子どものときからあったが、秋田に帰って就職したいような会社がなかなか見つからなかった。では、自分で作ってしまえと、新卒で入ったリクルートの人材の知識と経験を生かして起業した。

今までの人材業は、とにかく企業に人が入ればいいというような考え方が多かった。しかし、われわれは一人ひとりにとって働くとは何か、何のために働くのか、何のために生きるのかを考える中で、キャリアオーナーシップを持てる人を増やす人材会社を目指してきた。

そのためにはリスクを取る勇気のある、キャリアオーナーシップを持った経営者も増やしていくことが必要だ。そのなかで、自分たちが事業で「背中で見せる」ことは大事だと思っている。地域や業界に言い訳を見つけだすときりがない。やってみるしかないし、やり方を変えなければ好転しないということを、コンサルである自分たちが実践することが重要だ。

2019年度の都道府県別に見た開廃業率の表
2021年度版小規模企業白書では、秋田県の開業率は最も低い状況(中小企業庁,2021)(※画像クリックで拡大)

秋田県には、宿泊者数が少ないという構造的な問題がある。

他県に比べて25%ほどベッド数が少なく、その分、食事や飲み屋に落ちるお金も少ない。

だから、秋田県の開業率は全国でワースト1位。それでは、起業をしたりチャレンジする意欲も低くなってしまう。基本的なパイを増やしていくためには、泊まる場所とコンテンツという付加価値が必要だ。

そこで去年、「夜にそれがあるから泊まる」という仕組みのためのナイトコンテンツとして焚き火の事業を秋田県と実証実験することになった。

焚き火の写真
初めて会った人でも仲良くなれる取組として「焚き火」に取り組む(株式会社なんで・なんで

結果は、地元の方も含めて当初の想定参加者が50人だったところに、10倍の500人の方が来て、オペレーションが回らないほどの盛況となった。

地域課題にメスを入れる価値創出の事例として手応えを感じた一例だ。

グラデーションの社会を目指して

われわれが目指すのは、グラデーションの社会だ。

いまの社会は、経営者と従業員、先生と生徒、民と官といったように至るところに境界線があって分断が生まれている。自身も、教育現場での一律な対応に生きづらさを感じてきた経験がある。「若いからダメ」ではなく、もっと相手の中身を見て考え、お互いに価値観を尊重しあえる関係を目指して、生きづらさが解消された社会的価値を実現していきたい。

そのために事業が与える価値はなにか。キャリアをデザインするのは、偶然をどう作るかという機会創出でもある。偶然をチャンスや仕事に変えてゆく。そして人が人を呼び、地域を巻き込む。

須田さんと齊藤さんが話している様子
顧客と事業者という境界を超えて中長期的なキャリア論を語る須田さん(左)と齊藤さん(右)の光景そのものが、グラデーションが起きている風景ではないだろうか

進学も就職もそうで、孔子の「三十にして立つ、四十にして惑わず」という言葉があるが、高校生や大学生にやりたいことが簡単に見つからないのは当たり前で、予期せぬところに価値があると考えている。

その上で、それぞれが自分の人生を最大化するにはどうすればいいか考え、自己判断できるキャリアオーナーシップを育むことを目指している。

須田さんのワークショップを受講された経営者の声

「須田さんが開催されている働く目的を考えるワークショップに参加して思ったのは、『まずは自分を知ること』がとても大事だということです。自分の過去や、大事にしてきた価値観、行ってきた意思決定を振り返ることで、自分の心が求めていることがようやく理解できてくる。すると『じゃあどうすればいいか』が、自ずと浮かんでくる感覚が体験できてとても新鮮でしたし、代々受け継いだ事業をどうしたいのかに悩んでいた背中を押していただけました。須田さんに出会えた事は、秋田に帰ってきて良かったことの一つです。近々、自社の社員に向けたワークショップも、開催したいと思っています。
株式会社斉藤光学製作所 代表取締役 齊藤 大樹 さん

やるべきことのために稼ぐ

金銭的利益の優先度は必ずしも高くない。機会創出という観点で地域への投資を重視し、クリエイティブな人材との仕事を通じて、地方でもこういう働き方ができるという姿を見せている。稼ぎたくて稼いでいるのではなく、やるべきことのために稼いでいるという意識でいる。

ある意味で、価値はイコール覚悟に近いと思っている。評価や制度設計をしてもノーという経営者もいる中で、それを受け入れる覚悟があるからこそ価値に対する金額という金銭的利益も生まれるのではないか。

須田さんの写真
「そもそも働くってなに?」というような根本的な問いを探究し、発し続けるため、「なんで・なんで」はこれからも偶然性を大切に進み続ける

「なんで・なんで」という、地域で疑問を投げかけていく会社名にした以上、既得権益で回っているものに対してお客様が受け取る価値を問い、それが本当に地域で継続すべき存在であるかを問いかけたい。

そして、事業でリスクを取って挑戦を続け、地域に対して影響力を発揮していきたい。若者に対しても、秋田でもキャリアオーナーシップを持って生きていける可能性を示すことで、今後も社会的価値を実現していきたいと思っている。

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