2024年パリ五輪、セーヌ川の水で地域全体の冷房を省エネ化するしくみ

パリでは、初のカーボンニュートラルなオリンピックを開催するための野心的な取り組みの一環として、排出量削減型の冷房システムが拡張された。

五輪が飾られたパリのエッフェル塔を見上げた写真
Copyright:Amada MA / Unsplash

(※本記事は『Reason To Be Cheerful』に2024年7月25日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています。なお本記事はReasons to be Cheerfulとthe Outrider Foundationとで共同制作されました。)

パリ市は2024年夏季オリンピックに向けて10年間準備を進めてきた。大会開始にあたっては、セーヌ川での船上パレードで出場選手たちが歓声に応え、エッフェル塔を背景にドラマチックな開会式が行われた。これらを含めた準備の一環として掲げられた野心的な目標のひとつが、史上初のカーボンニュートラルなオリンピックの実現である。

これを実現するための戦略は広範囲に及び、既存インフラ・仮設インフラ(※大会後も利用できる設備のみ)の約95%を利用し、食料の80%を地元から調達する。さらに選手や観客の快適性確保については、従来の空調設備を使用せず、セーヌ川の水を利用した全てのオリンピック関連施設を冷却する代替システムを導入している。

この運用を支えるシステムは「地域冷暖房・熱源ネットワーク」と呼ばれ、技術そのものは今大会よりもはるか昔から存在する。この種のシステムとしては1962年に米コネチカット州ハートフォードで構築されたものが最初の事例で、現在では世界最大級の規模に成長している。当時、同市の市営ガス会社は周囲の州間パイプラインに接続し、夏季に使用されない余剰ガスをハートフォードに持ち込んだ。そのガスを活用して水を冷却して夏季に建物を冷やし、冬季には蒸気を供給する地域冷暖房システムが構築されたのである。

パリにあるENGIE社の地域冷暖房プラント
ENGIE社の地域冷房システムはセーヌ川の水を利用している。Copyright:ENGIE

1991年にパリで構築されたネットワークはすでにヨーロッパでは最大規模で、現在はパリ南部の2,000件以上の建物にサービスを提供している。オリンピックの気候変動対策目標に合わせた最近の拡張により、その規模はさらに大きくなった。

同ネットワークの地域冷房システムを運営するエネルギー大手の仏ENGIE社は、セーヌ川の水とデータセンターからの回収熱を利用して競技用プールに温水を供給している。また、ENGIE社が構築するオリンピック選手村向けの冷房システムは、大会終了後に一般向け住宅に転用される予定の建物にも継続供給される。選手村は持続可能性を念頭に置き、標準的な建設方法に比べて温室効果ガス排出量を50%削減する方法で建設されており、小規模な建物には木材を、大規模な建物には低炭素コンクリートを使用している。これらの住宅には手頃な価格の物件も含まれる予定だ。

さて、ではこの排出量削減型の空調システムはどのように機能するのだろうか。

続きは無料会員登録後、ログインしてご覧いただけます。

  • 記事本文残り61%

月刊「事業構想」購読会員登録で
全てご覧いただくことができます。
今すぐ無料トライアルに登録しよう!

初月無料トライアル!

  • 雑誌「月刊事業構想」を送料無料でお届け
  • バックナンバー含む、オリジナル記事9,000本以上が読み放題
  • フォーラム・セミナーなどイベントに優先的にご招待

※無料体験後は自動的に有料購読に移行します。無料期間内に解約しても解約金は発生しません。