進化を迫られる自治体 政策にグローカルな視点はあるか

自治体経営におけるSDGsの実践について、海外事例も交え考察してきた本連載。最終回の今回、内田氏が提言するのはSDGsの本来の意義の再確認だ。都市経営において、複数の視座からの政策立案・ガバナンスの透明性確保は今後欠くことのできない視点となるだろう。

これまで5回にわたり「SDGs時代の都市経営」をテーマに、SDGsの歴史的な背景、自治体およびイクレイが果たす役割、先進的な取組を進めている世界の自治体の事例を紹介してきました。最終回となる今回は、これまでの論点を振り返りながら、今後への提言を述べたいと思います。

SDGsの背景と本来の意味

第1回で述べた通り、環境問題が国際的な課題として認識されたのは、第二次世界大戦後、経済発展と都市化が顕著になったことがきっかけでした。1972年に国連環境計画(UNEP)が発足され、開発行為と環境保全の両立の道が模索されてきましたが、この間にも地球環境は急激に、かつ大きく損なわれてきました。

1972~2015年の間に世界の人口は倍増し、都市に住む人口も約37%から54%にまで増加しました。技術の進歩や環境意識の向上により、資源の有効活用や保全活動が進んでいる側面もありますが、拡大する経済活動により環境負荷は減るどころかむしろ年々増加しています。多くの科学者が恐れていた通り、またはそれ以上のスピードで気候変動が起きていることも実測値からわかってきました。人類の社会・経済・文化の発展を育んできた安定的な気候や環境は崩れ、資源が失われつつあります。私たちが享受してきたこうした恩恵を将来世代は得られないでしょう。

2009年に「地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)」という概念が提唱され、人類が問題なく活動するために必要な9つの環境条件が示されました。これに人類が安全かつ公平に活動するために必要な社会的基盤を加えた考えが2012年に提唱され*、人類にとって安全かつ公正な空間の中で社会・経済の発展を実現するためには、個別の課題に対してアプローチするだけでは不十分であり、より統合的な取組を進めていく必要性があるという考えにつながっていきます。こうした概念も手伝い、2015年には持続可能な開発目標(SDGs)が定められました。

日本国内では、SDGsは17の目標のうちのいくつかを達成していればよいのだという考えも見受けられます。しかしながら、SDGsは本来、地球規模の切迫した課題を強く意識して作られた指標であり、社会・経済のあり方に対して根本的な変革を求めているということを理解しなければなりません。世界第3位の経済規模を有し、資源やエネルギーの大半を海外に依存している日本としても、今後の発展の方向性を見つめなおす必要に迫られているのです。

進化を求められる自治体

第2回でも述べた通り、持続可能な開発の実現には、国だけでなく、市民の生活に密接に関わる自治体の参画が必須です。それだけでなく、持続可能な開発を目指すプロセスの中心的な要素は、地方政府の質・効率・透明性・参加型の性質を強化することにあることを忘れてはなりません。現在も猛威を振るう新型コロナウィルスへの対応を見ても、各自治体が世界的な公衆衛生危機の最前線に立たされていることは明らかです。日本の自治体が、市民の期待に応えるべく、相当の労力をかけて質の高い行政サービスを提供していることは事実ですが、これからの自治体には、将来予見される自然災害や感染症などのリスクを念頭に置き、中長期的な視点で自らのあり方を問い直す姿勢が必要です。

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