内閣府 激甚化する災害への対応 デジタル化などが重点分野に

激甚化・頻発化する自然災害から国民の生命や財産を守るため、内閣府では取り組みを強化している。主に改正災害対策基本法に基づく施策や、デジタル化・先進技術の活用、防災教育・人材の育成が進む。デジタル化では将来的に、デジタルツインを利用した災害対策などを目指している。

大野 敬太郎 内閣府副大臣(経済安全保障・防災等担当)

これまで以上に生命や
財産を守る取り組みを強化

災害の激甚化・頻発化によって、国内では近年、甚大な被害が生じている。2019年10月には台風19号(東日本台風)に伴う記録的な豪雨で、死者・行方不明者が108人、住宅の全壊が3229棟となるなど多数の被害が発生した。また、ライフラインやインフラにも多大な被害が生じ、経済活動にも大きく影響した。翌2020年7月の豪雨では、人吉市の球磨川決壊などで多数の浸水被害や土砂災害が発生。熊本県を中心に死者・行方不明者が88人になるなど甚大な被害があった。他にも2021年6月末から7月上旬の豪雨では、熱海市で大規模な土石流が発生したほか、8月には西〜東日本の広範囲な豪雨で多大な被害が発生した。

内閣府副大臣(経済安全保障・防災等担当)の大野敬太郎氏は「毎年大きな被害が生じており、これまで以上に国民の生命や財産を守る取り組みを強化する必要があります」と強調する。「第1に、防災・減災、国土強靭化の取り組みが必要です。そして昨年5月に成立した改正災害対策基本法に基づく取り組みがあります。さらにデジタル化・先進技術の活用、防災教育・防災人材の育成、意識の共有も重要です」。

改正災害対策基本法では
避難勧告・指示を一本化

このうち改正災害対策基本法に基づく取り組みには、まず「避難勧告と避難指示の一本化」がある。

「これまでの災害では、本来、避難すべき避難勧告のタイミングで避難せず、逃げ遅れて被災するケースが多数発生していました。また、避難勧告と避難指示の違いも十分理解されていませんでした」。

このような状況を踏まえ、改正災害対策基本法では避難勧告・指示を一本化し、従来の避難勧告の段階から避難指示を発令することとなった。「市町村においては、新しい避難情報に基づき国民の生命が守られるよう、躊躇なく避難情報を発令いただくよう、お願いいたします」(大野氏)。

一方、2013年には、高齢者や障害者のような「避難行動要支援者」に関する「避難行動要支援者名簿」の作成が義務化された。その後、約99%の市町村で名簿が作成されるなど、改善が進んだ。しかし、災害で多数の高齢者が被害を受ける状況はその後も続き、避難の実効性確保には課題が残る。

のため、改正災害対策基本法では避難行動要支援者に対する「個別避難計画」の作成を市町村の努力義務とした。計画では、避難支援を行う者や避難先などの情報の記載が求められている。大野氏は、「ハザードマップ上で危険な地域にお住まいの介護が必要な高齢者など、優先度の高い避難行動要支援者もいらっしゃいます。市町村には福祉専門職の方などと連携しながら、5年程度で計画作成に取り組んでいただくことになります」と説明する。

計画作成を支援するため、2021年度は普通交付税の措置や優良事例を全国的に展開するモデル事業を実施している。また、2022年度の政府予算案でもモデル事業を計上(約3200万円)、今年春頃の募集を予定している。

図1 事前防災対策の効果

近年の水害の分析から、水害の被害額・復旧費用よりも、事前に対策を整備したほうが、コストを抑えられることが明らかになった

インフラ等の災害情報を
確認できるISUTのサイト

一方、今後、特に重点的に取り組む分野としては、災害対応のデジタル化・先進技術の活用や、防災教育・防災人材の育成がある。このうち、デジタル化・先進技術の活用では、以下のような取り組みを進めている。

第1に、災害発生時におけるSNSの情報活用がある。一般の人々がツイッター等、SNSで発信した災害関連情報(文字・写真・動画)を人工知能(AI)が自動的に抽出し、地図上に表示していく。これによって、報道より詳細で迅速な情報共有が可能になる。

第2に、ドローン映像の活用がある。各災害対応機関が撮影したドローン映像を一元化して集約し、災害時情報集約支援チーム(ISUT)のウェブサイトに掲載することで、他の機関が容易にそれらを確認できるようにする。

熱海市伊豆山土石流災害時には、各機関が撮影したドローン映像を集約し、ISUTサイトに掲載した

第3に、情報の集約がある。各災害対応機関が個別に保有していた被害情報を1つの地図に集約し、被害状況の全容を視覚的に明らかにする。「ISUTのウェブサイトではインフラ等の災害情報などを地図上で確認できるので、自治体の皆様には存分にご活用いただきたいです」と大野氏は呼びかけた。

また、デジタル化・先進技術の活用に関しては2020年12月から21年5月にかけて、防災やITの専門家らから成る「デジタル・防災技術ワーキンググループ」を開催した。そしてワーキンググループの「社会実装チーム」では、「日本版EEI」といわれる災害時に共有すべき情報項目等の策定や進化、自治体等の個人情報取扱指針の策定や徹底活用、防災情報の収集・分析・加工・共有体制の進化に向けた防災デジタルプラットフォームや防災IoTの構築などが提言された。

一方、ワーキンググループの「未来構想チーム」では、防災デジタルツインによる被災・対応シミュレーション、安否・インフラ情報のリアルタイムの情報共有、究極のデジタル行政の能力の構築といった政府の方向性に関する提言がなされた。内閣府では今後、提言された内容の実現に向けた取り組みを進めていく。

内閣府ではさらに、災害対応を行う地方公共団体と民間企業や研究機関等が持つ先進技術のマッチング、効果的な活用事例の横展開などを行う場として「防災×テクノロジー官民連携プラットフォーム」も設置している。また、防災教育・人材の育成では、地方公共団体の首長や職員に向けたトップセミナーや研修も開催している。

大野氏は、「激甚化、頻発化する自然災害から国民の生命や財産を守るための取り組みは、国だけでなく地方公共団体やNPO、民間団体など、あらゆる関係者が連携・協力することで効果を発揮します。皆様方には今後も、国の取り組みにご協力いただくとともに、防災・減災に向けた不断の努力や見直しを行っていただければ幸いです」と講演を締めくくった。