時事テーマから斬る自治体経営 「スマートシティ」の注意点

近年日本で耳にする機会が増えた、「スマートシティ」と「スーパーシティ」。しかし、その違いをきちんと説明できる人は、まだまだ多くないだろう。地方自治体は「スマートシティ」と「スーパーシティ」をどのように捉えて、推進していく上で何に注意していくべきなのか。抑えておくべき基本事項を紹介する。

【問1】スマートシティとスーパーシティの違いを述べなさい。
【問2】スマートシティに関連する用語(概念)を下記からすべて選択しなさい。DX・IoT・AI・DMV・RPA・OMG・IDK

問1と問2は回答できたであろうか。ある程度は仕方ないのかもしれないが、用語(概念)の意味が一部にしか理解できず、住民目線でないような気がする。担当職員であっても、意味不明のまま、漠然と使用している傾向が少なからずある。この点はスマートシティを進める際の注意点の一つと考える。

地方自治体が取り組むスマートシティは住民の福祉の増進に寄与しなくては意味がない。私見かもしれないが、スマートシティに取り組むことが目的化しており、住民の福祉の増進がなおざりになっている事例もあるように感じる。これも注意すべき視点である。

担当職員には釈迦に説法と思われるが、今回はスマートシティの基本的内容について紹介する。

スマートシティと
スーパーシティの経緯

最初にスマートシティ(Smart City)とスーパーシティ(Super City)の経緯を紹介する。図表は、朝日、産経、毎日、読売の各紙における「スマートシティ」と「スーパーシティ」に関する新聞記事の推移である。

スマートシティの記事が初めて登場したのは2009年9月14日の毎日新聞である。記事の中に「……Co2削減の『スマートシティ』構想に取り組むアムステルダムでは(以下略)」とある。ここに「スマートシティ」という言葉が登場している。

近年、注目を集めるスマートシティは、日本だけの取組みではない。世界各国で動きが起きている。スマートシティに取り組む一背景は、人口爆発である。国連は、現在73億人の人口が2050年には95億人になると予想している。人口増加に伴い、2050年の都市部人口は25億人増加すると推計している。都市部に人口が集中することにより、交通渋滞や公害、治安の悪化、ゴミ問題、エネルギー消費が今まで以上に増える可能性がある。これらの課題を解決しようとする試みがスマートシティに求められている。

一方でスーパーシティを検討する。図表を確認すると、新聞記事に登場したのは2018年である。2018年10月11日の読売新聞の記事は「……国家戦略特区諮問会議の民間議員らとの会合で明らかにしたもので、「スーパーシティ」構想と名付けた(以下略)」とある。

図表 主要4紙における1年間に掲載された「スマートシティ」と「スーパーシティ」の記事の推移

出典:@niftyの新聞・雑誌記事横断検索(https://business.nifty.com/gsh/RXCN/)から筆者作成

 

スーパーシティは地方創生に関係して登場してきた取組みと言える。周知のとおり、地方創生は人口減少対策が一つの主題である。その意味で、スマートシティとスーパーシティが提起された経緯は大きく異なる。

スマートシティと
スーパーシティの関係

結論から言うと、スマートシティとスーパーシティの目指す方向性は同じである。内閣府はスマートシティを「ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場」と定義している。一方で、スーパーシティは様々な定義がある。例えば、内閣府は「地域の『困った』を最先端のJ-Techが、世界に先駆けて解決する。企業の技術力を、地域で役立てる構想」と記している。

国はスーパーシティを実現するため、2020年5月に「スーパーシティ法」(正式には国家戦略特別区域法の一部を改正する法律)を制定した。同法は、より柔軟で迅速な規制緩和や特例措置が設定できるように、従来まで規制特例の設定に使われていた「国家戦略特別区域法」を大幅に改定した。その結果、先端技術を活用する際に障害となる規制を地域限定で緩和できるようになった。

筆者の解釈は、スマートシティの日本版がスーパーシティと捉えている。なお、海外で「スーパーシティ」と言うと「大規模都市」と勘違いされるため注意が必要である(ここまでが問1の回答である)。

スマートシティに関係する概念

DX・IoT・AI・RPAがスマートシティに関連してくる(問2の回答)。DX(Digital Transformation)に関して、総務省は「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」と記している。

IoT(Internet of Things)は、あらゆる「モノ」がインターネットに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組みである。

AIとは「artificial intelligence」の略であり、「人工知能」を意味する。人工知能とは、人間の知的ふるまいの一部にソフトウェアを用いて人工的に再現したものである。

RPAとは「Robotic Process Automation」の略称である。事務作業等の定型作業をロボットで自動化することを指す。しばしば「仮想知的労働者」(デジタルレイバー)」とも呼ばれる。RPAは、基本的には人間が設定したルールに従い、忠実に作業を実行する。一方でAIは、ディープラーニング(深層学習)により、作業の改善を深化させていく。

以下は、スマートシティとは関係ない。DMV(Dual Mode Vehicle)は、列車が走るための軌道と自動車が走るための道路の双方を走行できるよう、鉄道車両として改造されたバス車両のことである。赤字ローカル線や廃線の多い過疎地の有力な交通手段になると期待されている。OMGは「Oh My God」であり、IDKは「I don’t know」の略称である。筆者のゼミ生から教えてもらった用語である。

最後になるが、Smartとは「意味賢明な、賢い、頭の良い、気のきいた」などの意味がある一方で「厳しい、激しい、油断のない」なども含意もある。スマートシティは一つ間違えると、私たちにとって厳しく激しい社会になるかもしれない。この点も注意すべき点である。

 

牧瀬 稔(まきせ・みのる)
関東学院大学 法学部地域創生学科 准教授 / 社会情報大学院大学 特任教授

 

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