国が伴走支援するゼロカーボンシティ構築 脱炭素で魅力あるまちに

脱炭素に取り組む地域には、国も様々な伴走支援を行っている。デジタル田園都市国家構想ウェビナーにおける講演「ゼロカーボンシティの具体策〜庁内組織体制と戦略ビジョン〜デジタル田園都市国家構想総合戦略における地域脱炭素の位置付けと取組」を紹介する。

布施田 英生
内閣官房 デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
審議官(肩書は撮影当時)

脱炭素の実現には
デジタルの力も不可欠

2022年12月に閣議決定されたデジタル田園都市国家構想総合戦略は、「デジタルの力を活用して地方創生を加速化、深化させる。そして全国どこでも、誰もが便利で快適に暮らせる社会を目指す」ことが基本的な考え方だ。そして、戦略の中における施策の目的は、「デジタルの力を活用した地方の社会課題解決です」と布施田氏は話す。

戦略の中では、地方が実施すべき取組に対する柱として、「地方に仕事をつくる」「人の流れをつくる」「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」「魅力的な地域をつくる」という4つが設定されている。そのうち、「魅力的な地域をつくる」という柱に盛り込まれているのが、脱炭素に関する取組だ。地域が目指すモデル地域ビジョンとして、スマートシティやスーパーシティ、SDGs未来都市、デジ活中山間地域などが挙げられる中に、脱炭素先行地域が含まれる。これらのビジョンを掲げ取り組む自治体に対しては、国も伴走型支援を実施。2025年度までに少なくとも100カ所の脱炭素先行地域を選定、かつ、2030年度までに、選定された脱炭素先行地域において、家庭部門及び業務その他部門である民生部門の電力消費に伴うCO2排出実質ゼロを実現するというKPIが設定されている。

一見関係がないようにも思えるデジタル化と脱炭素。これらが魅力的な地域をつくることとどう関わるのか。布施田氏は、「地域資源を生かした個性あふれる地域づくりには、地域内で資金が適切に循環する経済構造を確立させることが重要。それには、地域資源を生かした脱炭素やエネルギー地産地消のための取組、気候変動への適応、資源循環等をデジタルと掛け合わせ、効率的に地域のエネルギー自給率を高めていく取組が不可欠だ」と述べた。

地方創生と脱炭素の
好循環構築を目指す

続いて布施田氏は、2021年6月に、国・地方脱炭素実現会議が決定した「地域脱炭素ロードマップ」を紹介した。

地域脱炭素ロードマップは、2020年10月、当時の菅内閣総理大臣が、所信表明演説に際し「2050年までにカーボンニュートラル実現を目指す」と宣言したことを受けて発足した、国・地方脱炭素実現会議によって策定されたもの。特に、2030年までに集中して行う取組・施策を中心に、工程と具体策が示されている。「キーメッセージは、『地域脱炭素は、地域課題を解決し地域の魅力と質を向上させる地方創生に貢献するもの』ということ。2030年までに100カ所の脱炭素先行地域を選定することは、このロードマップにも示されています」。2023年7月時点で選定地域は62。選定地域には、200億円の予算から原則3分の2の交付率で、自治体の再エネ設備、基盤インフラ設備、省CO2等設備などの導入支援が行われる。

また、この脱炭素先行地域を含めた、全国の自治体における脱炭素地域づくりに対し、国はほかにも様々な支援を実施している。カーボンニュートラルに取り組む自治体を総合的に支援する交付金は2つ。1つは、「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」で、脱炭素先行地域づくりに取り組む自治体に、脱炭素先行地域への選定を要件として、再生可能エネルギーの省エネ、蓄電池などの蓄エネ設備を支援する。もう一つが、「地域共生型再エネ導入加速化支援パッケージ」。これは、脱炭素に関する知見や専門人材が不足する地域に対し、地域共生型の再エネを導入するための計画等の策定や設備導入等に対して行われる支援だ。

さらに布施田氏は、こういった国の支援は「地方創生と脱炭素の好循環」の創出を目指しているとして、国・地方脱炭素実現会議で示された3つのステップを紹介した。「ステップ1は、水が豊かなところは水力発電、森林資源が豊かならバイオマス発電といったように、それぞれの地域資源に合わせた再生可能エネルギーの導入を試みていただくこと。ステップ2は、それら再生可能エネルギー事業を基盤としたサービスの創出。交通インフラとの掛け合わせや、発電の際に出る熱やその材料を利用した施設園芸などです。そしてステップ3が、ステップ2によって雇用をはじめとした人の流れをつくり、稼げる地域になる、ということ。そうやって地域課題を解決し、地方創生につなげる好循環を目指しています」と話した。

自治体への人材支援制度に
グリーン専門人材枠を創設

国・地方脱炭素実現会議は、脱炭素に取り組む自治体に対し、国が地方創生の取組の中で自治体をどう支援していくかも示している。「人材」「技術・情報」「資金」という3つの観点からまとめられた「地方創生×脱炭素」支援パッケージだ。

人材に関しては、エネルギー分野の専門人材の自治体派遣を強化するため、地方創生人材支援制度にグリーン分野を新設した。「地方創生人材支援制度は、大学の研究者や民間企業の社員を、自治体の首長の補佐役的な人材として派遣するという制度。ここに新設したグリーン専門人材枠は、その地域に行き、社会課題を特定・構造化し、どうすれば解決できるかを、関係者をまとめ、巻き込みながら推進する人材です。2022年度には、13市町村に14名を派遣しました」と布施田氏。脱炭素に対し、何から取り組めばいいか分からない、取り組むメリットを住民や事業者にうまく説明できないといったことに悩む自治体は多い。「それに対しては、素早く、チームワークで取り組む必要があり、そこを支援できる人材を派遣します」。この制度は、派遣される側である企業等にも、実際に地域の現場に行き、まちの中に入り込んで議論するいい機会となるため、ぜひ参加してもらいたいと話した。

技術・情報面では、自治体間の情報共有を推進。「私たち事務局は、地方創生脱炭素推進事業として調査研究も行っています。脱炭素による地方創生がイメージしにくいという意見があり、先進的に取り組んでいる自治体から情報を収集し整理・共有する、というものです」。脱炭素化による地方創生推進マニュアルの作成を予定しており、先行地域における課題特定の仕方、チームのつくり方、事業の運営法などの参考にしてもらいたいと話した。

最後に、資金面支援として、地方に出ていく企業に対するテレワーク交付金や、デジタル田園都市国家構想交付金による支援強化に言及。デジ田交付金には申請案件の数に上限が設けられているが、すでに脱炭素先行地域になっている地域や、地球温暖化法の地方公共団体実行計画の中で地域課題解決に資する取組を行う自治体に対しては、上限が撤廃されることを紹介した。

図 政策間連携におけるデジタル田園都市国家構想交付金の特例措置

地域における脱炭素化の事業効果を地域課題の解決につなげる取組を行う地方公共団体に対し、デジタル田園都市国家構想交付金の特例措置(弾力措置)を適用する