『準公共をデザインする─〈公〉と〈私〉が溶けあう居場所の実践』
『準公共をデザインする─〈公〉と
〈私〉が溶けあう居場所の実践』
- 矢島 進二 編著
- 本体2,400円+税
- 学芸出版社
- 2026年4月
「公共」と聞くと、多くの人は自治体の施設や公園、道路のような場所を思い浮かべるだろう。一方で「民間」の空間といえば、住宅や店舗、企業活動の領域を指すことが多い。本書が扱うのは、その二項対立の間に生まれつつある、新しい「準公共」空間である。
「準公共」が注目を集める背景には、人口減少や自治体職員の減少によって、行政だけでは地域課題を支えきれなくなっている現実がある。同時に企業側にも、利益追求だけではなく、地域や社会課題への関与を前提にした活動が広がっている。そうした変化のなかで、「公」と「民」、「パブリック」と「プライベート」が重なり合う「コモンズ的な領域」が各地で生まれている。
例えば、東京都渋谷区の「笹塚十号のいえ」は、元八百屋を改修した地域福祉拠点だ。「屋根のある公園」をコンセプトに、誰でも自由に休憩できる場所として開かれている。福祉作業所の商品販売やフードパントリー、学生ボランティアの活動、生涯学習企画などが同時並行で行われ、複数の非営利団体が協働で運営する。有料と無料、サービス提供者と受益者の境界を曖昧にすることで、用事がなくても立ち寄れるユニークな場となっている。
また、大阪府大東市の「morineki(モリネキ)」は、市営住宅の建て替えを民間主導で進めた国内初の公民連携プロジェクトだ。老朽化した市営住宅の跡地約1haを、民間賃貸住宅、商業施設、オフィス、芝生広場などを含むエリアへ再編し、市民が日常的に集まる風景をつくり出した。単なる再開発ではなく、「市民が誇れる場所をつくる」という視点を軸に据えている。その結果、行政側にも賃貸料収入や税収増加などの利益が生まれ、イメージ向上や人口減少抑制にもつながっている。
ほかにも、奈良県生駒市の「まほうのだがしや チロル堂」では、子ども食堂でも飲食店でもない仕組みを通じて地域と福祉を接続し、埼玉県さいたま市の「団地キッチン田島」では、シェアキッチンやマルシェを通じて団地を地域へ開いている。いずれも、「行政が整備し、市民が利用する」という従来型の公共観から距離を取り、人々が関係を持ち続けられる場をどう維持するかに焦点を当てる。その上で「公共性」を理念として語るのではなく、具体的な運営、資金、空間設計、人の関わり方にまで踏み込む。
公共施設の老朽化、人口減少、行政負担の増大といった自治体の課題に対して本書が示すのは、「行政が縮小するから民間に任せる」という単純な民営化論ではない。公と民の境界を固定せず、地域に関わる人を増やしながら、居場所や風景を育てていく実践の積み重ねである。まちづくりや福祉、公共空間、コミュニティデザインに関心を持つ読者に、ぜひ一読を勧めたい。
全文をご覧いただくには有料プランへのご登録が必要です。
-
記事本文残り53%
月刊「事業構想」購読会員登録で
全てご覧いただくことができます。
今すぐ無料トライアルに登録しよう!
初月無料トライアル!
- 雑誌「月刊事業構想」を送料無料でお届け
- バックナンバー含む、オリジナル記事9,000本以上が読み放題
- フォーラム・セミナーなどイベントに優先的にご招待
※無料体験後は自動的に有料購読に移行します。無料期間内に解約しても解約金は発生しません。