古都初の地銀の挑戦 地域に根ざした総合ソリューション企業への変革

京都銀行は、1941年の創立以来、地域に根ざしながら、広域展開やベンチャー支援など、地方銀行の常識を覆す、時代に先駆けた挑戦を続けてきた。持株会社体制への移行を経て、今後は地域の顧客とともに、未来を創造する総合ソリューション企業への進化を目指す。

安井 幹也(京都銀行 取締役頭取)

ベンチャー企業に伴走し
成長を支援

京都府内において預金ベース・貸出金ベースともに約3割のシェアを誇り、地域金融機関として強固な営業基盤を築いている京都銀行。前身の「丹和銀行」は、1941年に京都府福知山市で4つの銀行が合併して生まれた。51年に「京都銀行」と改称、53年に本店を京都へ。「地域社会の繁栄に奉仕する」という経営理念を掲げ、市内初の地方銀行として迎えられる。

「当時の京都を支えていたのは繊維産業でしたが、大きな呉服や織物の会社との取引はメガバンクに押さえられており、名もなき地方銀行は門前払いの連続だったそうです。そこで、中小・零細企業に的を絞って営業をかけました。70年代に入ると、新たなマーケットを開拓しようと、勃興し始めたベンチャー企業への支援にも乗り出しました。それが、日本電産(現・ニデック)や京都セラミック(現・京セラ)だったのです」と、安井幹也頭取は語る。

当時から京都銀行は、デッドファイナンスだけでなくエクイティファイナンス(出資)でも金融支援を行うことで、小さな企業と共に成長することを目指していた。人的交流や経営アドバイスなども織り交ぜながら、半世紀以上に渡って「伴走」し続けた結果、京都発ベンチャーが大企業へと飛躍を遂げ、同行の保有株式は巨額の含み益を生む。盤石な財務基盤は、のちの成長投資と健全性を支える原資となった。

大胆な広域展開と
対面接客重視の戦略

地域で認められたとはいえ、90年代まで店舗網は京都府内にほぼ限られており、大阪府の一部と東京都に支店を持つのみだった。ところが2000年に草津支店(滋賀県)を出したことをきっかけに、広域展開へと舵を切る。

「まさにターニングポイントでした。京都府内だけでなく滋賀県、奈良県、兵庫県、あるいは大阪府内にもどんどん店を出していったのです。いまでは174カ店体制となっており、広域展開は、当行の特徴と言えるでしょう」。

それから20数年の間は、不況による店舗の統廃合や相次ぐ金融機関の倒産、マイナス金利の導入など、銀行にとっては逆風であった。そのような中、同行は、他行が店舗の閉鎖や統廃合を進める状況をむしろチャンスと捉え、新たな専門拠点の設置を続けるなど、「逆張り」思考を貫く。フィービジネスとして、M&Aや事業承継、ビジネスマッチング、相続、資産運用といった分野の一層の強化を図った。2017年に地方銀行の子会社としては関西初の京銀証券を開業、翌年には信託業務への銀行本体参入を果たした。

「デジタル化が浸透したことにより非対面チャネルが急速に成長し、ネット銀行がわずかな金利差を競うようになりました。しかし、『金利のある世界』が戻ってくれば、お客様との接点となるリアルの拠点が再び注目されるだろうと考えました。多様化・複雑化するお客様のニーズに対して、タイムリーに必要な情報を提供し、ピンチの時こそ真摯に寄り添うことが信頼につながるだろうと」。

2023年6月に頭取に就任してからは、新しい行員たちを迎えるときに、「やらぬ後悔より、やる後悔」と、果敢なチャレンジを鼓舞しているという。

社員の活躍の場を広げ
総合ソリューション企業を目指す

2026年3月までの中期経営計画では、グループ総合力の強化、コンサルティング強化、DX推進、人的資本経営の実践という4つのテーマを掲げ、「総合ソリューション企業」への変革を進めている。2023年10月に「京都フィナンシャルグループ」という持株会社体制に移行。続いて2024年には、「地域みらい共創事業」を始動させ、グループとして地域経済の持続的発展のサポートを強化する。

人的資本経営を進める京都銀行。人材育成拠点「金融大学校 桂川キャンパス」は、従業員の学ぶ意欲を後押しする多機能な研修施設だ

行員たちの意識も変わってきた。2024年4月に立ち上げた社内ベンチャープロジェクト「WILL(ウィル)」で従業員から事業アイデアを募ったところ、グループ全体で60チームもの応募があった。「初回としては大きな手応えです。銀行外にも活躍のフィールドができたことで、専門職としてやっていきたいという若い人が増え、離職率も下がりました」。

WILLの最終選考。応募者が経営陣らの前でプレゼンテーションした

今年7月に誕生する新会社「京都M&Aアドバイザリー株式会社」についても、「2001年から銀行でM&A支援業務を続けてきたので、十分に人材は育っています」と、安井氏は自信をのぞかせる。後継者不在による企業の休廃業が問題となる中で、単に提携先を紹介するだけでなく、スキームの立案や専門家との連携サポートを進めるなど、グループ内で入口からクローズまで一気通貫のサービスを提供していくのが狙いだ。

温故知新の京都で
記憶に残る行員に

大阪・関西万博の開幕は、観光名所の京都にとっても、さらなるプラス材料となる。この賑わいを一時的なものにせず、終幕後も長く持続させるには、地域経済活性化をブーストする施策が必要だ。そこで同行では、事業承継ニーズを持つ中小企業を支援するファンドとスタートアップを支援するファンド、それぞれの拡大を決めた。2030年度までに計1,000億円規模の支援を計画しており、関西最大級の規模となる。

地場中小企業向けの「事業承継ファンド」では、存続に課題を抱える中小企業の株式を買い取って経営に参画し、事業を改善することで承継先を見つけやすくする。一方の「KCAPベンチャー1号ファンド」は、関西圏を中心とした革新的な技術・サービスを展開するベンチャー企業や、日本でグローバルトップを狙える可能性があるベンチャー企業が対象だ。

「シード期からレイター期まで幅広いステージの企業をバックアップし、関西圏のスタートアップエコシステムの発展を牽引したいと考えています。行員には、転勤などで担当を離れてからも顧客から名前が挙がる行員、部下から成長のきっかけを与えてくれたと言われる行員、『記憶に残る行員』になって、新しいものと古いものがうまく融合する京都で信頼を築き、『ながーい、おつきあい。』を実現してほしいですね」。

 

安井 幹也 (やすい・みきや)
株式会社京都銀行 取締役頭取

 

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