日本特殊陶業の新事業 カーボンニュートラルを地域と共に

自動車エンジンの内燃機関に使われるスパークプラグの世界No.1シェアを誇る日本特殊陶業は今、カーボンニュートラルをベースとした新事業への取組を加速させている。デジタル田園都市構想ウェビナーでは、「中小規模排出源を対象とした地域連携CO2リサイクル」について紹介した。

梶谷 昌弘 日本特殊陶業株式会社
ビジネスインプリメンテーション本部
カーボンリサイクル課 課長

2023年4月、日本特殊陶業は、それまで「NGK SPARK PLUG CO., LTD.」としていた英文商号を、「Niterra Co., Ltd.」という名前に変更した。ラテン語で「輝く」という意味を持つ「niteo」と、「地球」を意味する「terra」を組み合わせた造語である。梶谷氏は、「持続可能な社会への貢献はもちろん、地球環境全体を輝かせる企業になるという、当社グループの思いや姿勢を表しています」と話す。

スパークプラグNo.1企業の挑戦
地域で完結するCCUを構築

創立は1936年。本社を名古屋に置き、連結企業を含めると約1万6000人の従業員が働く企業だ。自動車の内燃機関に使われる、燃料と空気の混合気に点火するスパークプラグのほか、セラミックスをベースとした、燃費の維持や排気ガスのコントロールに使用するセンサ、半導体パッケージや基板、そして、医療関連製品などを製造している。特に、「NGKスパークプラグ」と呼ばれるスパークプラグは世界シェアNo.1を誇り、売り上げにおける内燃機関製品の比率が80%と非常に高いことが特徴だ。しかしながら、「今後、2040年をめどに非内燃機関事業比率を高めるべく、既存の事業でキャッシュ創出を最大化しつつ、成長・新規事業に積極的な投資を行い、事業ポートフォリオの転換を図ろうとしています」と梶谷氏。

新規事業のベースとなるのが、カーボンニュートラルだ。「自治体の方々と話すと、多くの自治体が、カーボンニュートラル宣言をしても、具体的に何をすればいいのか、市民をどう巻き込めばいいのか分からないとお悩みです」。自治体は、カーボンニュートラルだけでなく、人口減少やコロナ禍による産業の減退など、様々な地域課題を抱えている。Niterraグループは、そういった地域課題を、カーボンニュートラルを手段として解決していくことを目指している。

掲げているのが、「地域CCU®構想」だ。CCUは、Carbon dioxide Capture and Utilization」の略で、CO2を回収して利活用するという意味。「地域CCU®構想」とは、地域の中でCO2、電気、ガスを融通するまちづくりを目指す、というもの。基本的には、工場で排出されたCO2を集め、それを水素と組み合わせて燃料をつくり工場に戻すというサイクルの構築である。そこに活用するため、Niterraグループでは、再生可能エネルギーを使って水から水素をつくるSOEC、水素とCO2からメタンをつくるメタネーションそして、排ガス中のCO2を回収するPSAと呼ばれる技術の開発を進めている。それら技術を使って地域内で完結するCCUが構築されれば、サステナブルで魅力あるまちをつくることができると話した。

図1 地域CCU

地域CCU(二酸化炭素回収・利用)では、CO2からメタンを製造し、地元の様々な事業で利活用する構想を描いている

出典:日本特殊陶業

中小規模の製造業に適した
CCUの仕組みが必要

地域CCU®の構築では、CO2を排出する側である工場が持つ課題の解決が不可欠だ。製造業におけるCO2の主な排出源は熱を使うプロセスであるが、熱プロセスが関わる工場設備をカーボンニュートラル実現のために大幅に変更するには、大きく3つの課題がある。

1つ目は、熱を使用するプロセスは電化のコストが高いこと。設備を変えるためにインフラから更新しなければならないケースが多く、億単位の投資が必要になる。2つ目は、製造プロセスの認証などを受けていると、工程を変えにくいこと。もし、燃料が変わることによって品質に影響が出る、同じものが作れないとなれば、経済的メリットもない。

そして3つ目が、現在想定されるCCUの設備は比較的大規模で、中小規模レベルの排出に対応したものがないことだ。「弊社の試算では、トンネル炉1台から出るCO2をすべて回収するなら、コンテナサイズの再生装置が10個以上必要。それらをどこに置くのか、という問題も発生します」。

この3つ目の課題を解決するアイディアとしてNiterraグループが考えているのが、分散型CO2回収と、集中型の燃料製造だ。「工場の中だけでCCUを完結させるのではなく、工場内ではCO2の回収と濃縮までを行い、それを使った燃料製造は別の場所で集中的に行う。地域の工場から1カ所に集めて大規模に燃料を製造したほうが合理的だという考え方です」。

回収したCO2を効率よく利活用するためには、排出時点でCO2濃度が高いほうが望ましい。従来の空気燃焼では、酸素と、多くの窒素も含む空気と燃料を燃やすため、燃焼後には水とCO2と窒素が生成され、排気ガス中のCO2濃度は5%から10%と低くなる。そこで、空気ではなく酸素と燃料を燃やし、燃焼後に水とCO2のみが生成される酸素富化技術を活用すれば、排気ガスのCO2濃度が理論上は100%となるため、利活用に必要な高濃度かつ分離しやすいというメリットが生まれる。「酸素富化技術を使い、工場内でCO2回収だけを行うという仕組みで、中小規模レベルのCO2排出工場でもCCUのシステムが構築できるのではないかと考えています」と話した。

集めたCO2活用へ
メタネーション実証実験も開始

しかしながら当面は、活用されるCO2の量に対し、実際に回収される量が多すぎるというバランスが悪い状態が続くのではないかと梶谷氏。農産物の成長促進にCO2を活用するなどの取組等はすでにあり、そのほかに、CO2を原料とする新たな化学製品をつくるなどの仕組み構築も不可欠だ。

また今後は、CO2の活用だけでなく、貯留も行うCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage=CO2の回収、利活用、貯留)が必要になってくる。例えば、コンクリートやセメントの中にCO2を固定化するなどの事例もあり、こういった分野を中心に、今後CO2の活用や貯留が進んでいくと考えている。

そこで、Niterraグループがフォーカスしている新分野の一つが、水素とCO2を反応させて合成メタンをつくるメタネーションだ。政府は、2050年に、e-メタンを従来の燃料と同等レベルの価格まで下げるという野心的な目標を掲げているが、充分な量のe-メタンが行きわたるまでには時間がかかる予測だ。Niterraグループでは、2023年4月にメタネーションの実証機を完成させ、実証実験を進めている。「まだデータは少ないですが、現在の段階でCO2と水素を使いメタンが80%できるというところまで分かっています。今後このメタン濃度を更に上げていけるよう実験を継続します」。

今後、自治体や他企業の工場とともに、地域CCU®構想の実現に向けて取り組みたいと梶谷氏。「関心のある方はぜひ連絡頂きたい」と話した。

 

お問い合わせ


電話番号:0568-58-0802
メール:m-kajitani@mg.ngkntk.co.jp
地域CCU®https://www.ngkntk.co.jp/rd/innovation/ccu.pdf

 

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