耕作放棄地とIoTで実現する 日本発の持続可能な陸上養殖

地方の耕作放棄地を活用し、海水を排水しない循環型システムで、日本初のエビの陸上養殖に成功したSeaside Consulting。CMエンジニアリングのIoTプラットフォームと連携し、簡単・低コストに陸上養殖に参入できる仕組みを構築。持続可能な陸上養殖への挑戦について、両社の代表が対談する。

平野 彩 Seaside Consulting 代表取締役
栗田 敏明 CMエンジニアリング 代表取締役社長

 

耕作放棄地を活用した陸上養殖場と、CMエンジニアリングのセンサー

環境に配慮した陸上養殖を日本で

――まずはSeaside Consultingの平野代表に、耕作放棄地を活用した陸上養殖事業を始めるきっかけとなった課題感・問題意識を伺います。

平野氏 もともと我々は、環境問題をはじめとした社会課題の解決に資する事業をしたいと考えていました。あるご縁で中国に行った際、同国で盛んに行われている陸上養殖において、薬剤の多用や排水による環境汚染が問題になっていると知りました。こうした養殖法が業界標準になるのは問題です。一方で日本では、陸上養殖はまだまだ黎明期。ならば、環境に配慮した陸上養殖を日本で行えないかと考えました。さらに、近年、高齢化や過疎化の進んだ地域で耕作放棄地が問題になっています。使っていない土地があるなら、そこで環境に配慮した陸上養殖を行えば、様々な社会課題の解決に繋がる、と発想したのが、事業構想のきっかけです。

Seaside Consulting代表取締役の平野彩氏

――千葉県鋸南町とのご縁は?

平野氏 養殖業をするための農地を探すところから始めましたが、農地を農業以外に使用することは、思った以上にハードルの高い試みでした。数十の自治体に問合せ、いいお返事をいただいたのが千葉県鋸南町でした。

鋸南町と農地交渉を始めたのが2018年9月、農地を借りられたのが2019年6月で、千葉県から農地を活用したエビ養殖の許可が下りたのが2020年末。約20年耕作放棄されていたビニールハウスを再整備し養殖漕を設置して、実際にバナメイエビの養殖を開始したのが2021年8月です。

――陸上養殖の仕組みは?

平野氏 水を原則排水しない、閉鎖式循環型陸上養殖システムを構築しています。養殖したバナメイエビは「Bianca(ビアンカ)」というブランドで販売していますが、 美味しいと好評です。食品分析機関の結果では、「ビアンカ」の旨味成分は海外産と比べ桁違いに高いと出ています。耕作放棄地を活用した自然に配慮した循環型の養殖という点でも、多くの事業者や消費者に興味を持っていただいています。

――ビジネス的にも持続可能という意味で、収益性などは?

平野氏 陸上養殖は、イニシャルコストで数億円はかかるのが普通で、これをいかに抑制するかがカギになります。耕作放棄地を活用することで、初期投資回収が通常17年はかかるところを、約7年まで縮めることができます。今回の事業では補助金なども活用し、事業開始から3年で黒字転換する見込みです。

陸上養殖をIoTシステムでサポート

――CMエンジニアリングでは、今回の陸上養殖事業にIoTシステムを提供しています。Seaside Consultingとの出会い、システム導入の経緯は?

栗田氏 今回の陸上養殖事業については、テレビを見て知りました。耕作放棄地を活用した、低コストで持続可能な陸上養殖。非常に面白いと感じました。

我々のIoTシステムは、簡単・低コストで様々なアプリケーションを作れることが特長です。将来的には、デジタルツインで未来予測を可能にすることを目指しています。例えば、Seaside Consultingの持つエビ養殖のノウハウをソフトウエアに組み込みデジタルツインで未来予測すれば、餌のタイミングや水温管理など、最適なエビの管理方法をソフトが教えてくれるシステムの構築が可能になります。

そうしたシステムをパッケージとして事業者や自治体に提供すれば、養殖のノウハウがなくても、簡単かつ低コストでエビの養殖が始められる。それを通じて、環境に優しい陸上養殖を全国に広げるお手伝いができるのではないかと考えました。

CMエンジニアリング代表取締役社長の栗田敏明氏

――簡単・低コストにシステムを構築できる理由は?

栗田氏 IoTシステムのコア部分がプラットフォーム化されていることがポイントです。アプリケーション毎に通常ならシステム全てを最構築しなければならないところを、センサを変えるだけで対応できます。例えば陸上養殖な ら、魚の種類や養殖場の規模により現場への最適化が必要ですが、そうしたシステムも1~2カ月で作れます。コストに関しても、現在Seaside Consultingに導入しているシステムは、同業の標準の半分程度で実現しています。

社会課題を解決するエビ

――持続可能な陸上養殖について、今後の展開、可能性をどうお考えですか

平野氏 今回のように、耕作放棄地を活用し、ある程度の面積を陸上養殖に転換できれば、日本の食料自給率を押し上げることに繋がります。さらに、地方に新たな事業と仕事を生み出すこともできる。将来的には農福連携で単純作業については、障害者の方の雇用も進めていければと考えています。

鋸南町だけでなく、日本全国にこの取り組みを広げていくことで、いくつもの社会課題を解決する道筋をつけられるかと思っています。今後は、色んな意味で社会課題を解決するエビ「ビアンカ」のブランドを、日本国内だけでなく、世界にも発信していければと思っています。

栗田氏 養殖はエビ以外にもウナギやヒラメなど様々あります。将来的には各養殖に合わせたシステムを提供していくことで、新しい養殖業をサポートできるかと考えています。

また、耕作放棄地と同じく問題となっている地方の廃校を活用した事業の可能性も社内で議論しています。廃校にはプール、体育館、給食室があります。プールや体育館で養殖した学校名ブランドのエビや魚を給食室で加工し教室で食べられる。そんなビジネスモデルも可能かと考えています。

我々はベトナムにも拠点を持っていますが、ベトナムではエビの養殖によるマングローブの森の破壊が社会問題となっています。ベトナムで日本発の循環型陸上養殖システムを構築するといった取り組みも、Seaside Consultingと共同で今後進めていきたいと思っています。

 

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