実務家教員の条件「実務経験5年以上」 由来は法科大学院にあり

なぜ「5年以上なのか」

実務家教員には教育指導能力にくわえて、「おおむね5年以上の実務の経験を有し、かつ、高度の実務の能力」が求められている。なぜ「5年以上」なのだろうか。ここにも法科大学院のなごりがみられる。法科大学院の制度をひとつひとつおさらいしておこう。

法科大学院のなごり

法科大学院は、司法制度改革の一部として2003年に専門職大学院のひとつの制度として誕生した。法科大学院は、法曹に必要な学識及び能力を培うことを目的として設置された専門職大学院をさしている。法曹の定義は「一般には、裁判官、検察官及び弁護士となる資格という意味で用いられるもの」(衆議院議員鈴木宗男君提出最高裁判所裁判官の指名等に関する質問に対する答弁書)であり、いずれも「司法修習生の修習」を終えた者がなることができる(特例措置はあり)。司法修習生になるには、司法試験に合格しなければならない。法科大学院と司法試験さらに司法修習は有機的に運用されなければならない制度になっている。

司法修習期間は徐々に短縮されてきた。専門職大学院である法科大学院で理論と実践を架橋した教育を行うことから、一定の実務実習を経たとみなし、法科大学院設置後の新司法試験を合格した者の司法修習期間は1年間とされている。「法科大学院への裁判官及び検察官その他の一般職の国家公務員の派遣に関する法律」には、「法科大学院における教育が、司法修習生の修習との有機的連携の下に法曹としての実務に関する教育の一部を担うもの」と明記されており単純に「司法試験」に合格することを目的とした教育機関ではないことがわかる。

法科大学院の目的は、「高度の専門的な法律知識、幅広い教養、国際的な素養、豊かな人間性及び職業倫理を備えた多数の法曹」が求められており、「法曹に必要な学識及び能力を培うこと」(法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律 第2条)にある。したがって、法科大学院では「将来法曹としての実務に必要な学識及びその応用能力」並びに「法律に関する実務の基礎的素養を涵養するための理論的かつ実践的な教育を体系的」に実施することが求められている。

上述のように、「法曹の養成に関係する機関の密接な連携及び相互の協力の下に将来の法曹としての実務に必要な法律に関する理論的かつ実践的な能力」を身につけさせるため、法曹の実務に関する実践的な教育をおこなうには実務家教員が不可欠である。

単独審担当までに必要な経験

さきにも言及したように法曹とは、裁判官、検察官、弁護士である。これら三者が法曹実務の実務家であり実務家教員になりえる候補である。だからこそ、法令上でも裁判官や検察官を法科大学院へ派遣できるように法整備をしているのだ。まず指摘しておきたいのは、特例措置はあるとはいえ、三者は司法試験に合格している。司法試験は、裁判官、検察官、弁護士になるために必要な「学識及びその応用能力」有するかという判断をするものである。したがって、彼らは最低限の学識と応用能力を有していることになる。

では、頭書に問題としていた「おおむね5年以上」とはどこからきたものなのか。そこで注目したいのは裁判官である。裁判官は、(未特例)判事補、特例判事補、判事と職位が分かれている。判事補は、ひとりで裁判をすることや裁判長になることが制限されている。これらの制限が解除されるのが「特例判事補」である。この特例判事補について定めている「判事補の職権の特例等に関する法律」に、「判事補で通算5年以上」を特例判事補にするということが記載されているのだ。

この法令によれば、裁判官として「5年以上」の実務経験を積んだものを一定の実務経験と実務能力が備わっていると判断している。だからこそ、ひとりで裁判をすることができるように制限を解除しているのだと捉えられる。

したがって、実務家教員の「おおむね5年以上の実務の経験を有し、高度の実務の能力を有する」という水準は、特例判事補の要件をもとにしたと考えればよいだろう。