シリコンバレー発VCに聞く エネルギー転換技術の6トレンド

アメリカを中心に、グローバルで成長する脱炭素ビジネス。シリコンバレー発VCのペガサス・テック・ベンチャーズのアニス・ウッザマン代表に、投資動向や技術トレンド、注目のスタートアップについて聞いた。

アニス・ウッザマン(ペガサス・テック・ベンチャーズ 代表パートナー兼CEO)

ビッグテック企業が投資をリード

アメリカ・シリコンバレーに本社を構えるVC、ペガサス・テック・ベンチャーズは、世界中で220社以上のスタートアップに投資を実施している。世界30社の大手企業からLP出資を受け入れており、日本でも大手企業と連携したCVC運営やオープンイノベーション支援を行っている。

同社代表パートナー兼CEOのアニス・ウッザマン氏は、カーボンニュートラルや再生可能エネルギーの投資状況を次のように説明する。

「コロナ禍による経済活動の停滞で、世界のCO2排出量は減少しましたが、一方で再生可能エネルギーの新規導入容量は過去最高を記録し、およそ前年比45%増の278GWに到達しました。アメリカでは2020年に全発電量に占める再生可能エネルギーの割合が21%となりました。これは第1位の天然ガス(40%)に続く第2位で、原子力(20%)や石炭(19%)を上回っています。2020年に全世界でのエネルギー転換(再生可能エネルギー、二酸化炭素回収・貯蔵、水素等)への投資額は5,010億ドル(前年比9%増)となり、そのうち約3,000億ドルは再生可能エネルギーでした」

アメリカで再生可能エネルギーへの投資をリードしているのはGoogleやAmazonなどの巨大テクノロジー企業だ。

Amazonは世界最大の再生可能エネルギーの調達企業であり、230 以上の再生可能エネルギープロジェクトを世界中で展開し、合計容量は10GWを超える。同社は2030年までに全世界の事業を100%再生可能エネルギーで賄うという目標を掲げている。

Appleは2030年までにサプライチェーンを含む企業活動全体でのカーボンニュートラルの実現を目指しており、部品サプライヤーなどへ大きなプレッシャーをかけている。同社が2017年に完成したカリフォルニア州クパチーノの本社「Apple Park」は全ての電力が再生可能エネルギーで賄われている。

Appleは2030年までにサプライチェーンを含む企業活動全体でのカーボンニュートラルの実現を目指す(画像はApple Park、Photo by Arne Müseler)

これら2社と比較して「よりスマートでインテリジェントな取り組み」を進めているとアニス氏が指摘するのがGoogleだ。Googleは2030年までに5,000億円以上を投資し、世界で5GWの再生可能エネルギーの利用を実現し、自社やデータセンターでのエネルギーを100%カーボンフリー化することを目指している。

「さらに、Google CloudはDeep Mindの機械学習を利用してデータセンターの冷却に必要なエネルギーをすでに30%削減しています。データの動きやサーバ稼働をうまくAIでコントロールして省エネを実現しているのです。Googleはこの技術を空港や病院、ショッピングセンターなどの施設にも導入し、エネルギーの最適制御に役立てています」。このほか、GoogleマップやGoogleフライトなどでCO2排出量が少ない行程を提案するなど、脱炭素社会の実現に寄与するためにサービスのアップデートを行っている。

GoogleはAI活用でデータセンターの消費エネルギー30%削減に成功、同技術を空港や商業施設にも展開している(画像はイメージ)

エネルギー転換6つのトレンド

アニス氏によれば、日本の大手企業も投資家などからのプレッシャーもあり、カーボンニュートラル領域への投資意欲が高まっているという。ただし「カーボンニュートラルへの取り組みは避けて通れないと認識している企業は多くても、具体的に何をすればよいのか、どの分野に投資すればよいのかわからないというケースが少なくありません」と指摘する。

アニス氏はカーボンニュートラル・エネルギー転換技術のトレンドとして、太陽光発電、風力発電、蓄電、デジタル化、グリーン水素、CO2回収・貯留の6つを挙げる。

まず太陽光発電だ。2021年中には世界の太陽光発電の新規設置量が前年比30%以上増加すると予測されている。特に注目を集めているのがペロブスカイト型太陽電池だ。プラスチックフィルムなどにも塗布・加工でき、軽く曲げられるため、建物壁面や曲面などこれまで設置が難しかった場所にも適用できる。変換効率も向上しており、実用化に向けて大きく期待されている。ただ、日本同様に世界でも太陽光発電の用地不足が課題になっている。そのため水上太陽光発電の成長が著しく、農地上部に太陽光発電を設置するソリューションが注目されているという。

風力発電では洋上風力発電への投資が盛んで、2021年の世界の新規導入容量は前年比約2倍の10GWに達すると見られる。特に石油・ガス業界からの注目が高く、例えば石油大手のShell(イギリス)は、2021年にウェールズ沖ケルト海の浮体式風力発電プロジェクト「Emerald」の過半数の株式取得を発表した。Emeraldは将来的に1GWの発電規模を予定している。

太陽光発電や風力発電の導入拡大とともに、蓄電技術への投資も拡大している。「太陽光・風力発電の出力増加を補完するための大規模な蓄電池施設への投資が盛んになるでしょう。蓄電により周波数調整、負荷分散、グリッド管理など、複数のエネルギーサービスを同時に提供することが可能になります」

デジタル化やAIもカーボンニュートラルに向けた重要技術だ。送電網と接続されている無数の機器を管理するためには、より効果的な保護・制御・自動化・通信システムが重要になる。複雑なオペレーションを管理したり、発電機器の故障を事前に予測してメンテナンスを効率化するといったAIソリューションに期待が集まっている。

太陽光・風力などの自然エネルギーの電力を利用し水を電気分解して生成されるグリーン水素もカーボンニュートラルの切り札として期待されている。「グリーン水素にはヨーロッパを始めとする世界中が投資しており、特に重化学工業、化学工業、輸送など電化が困難な分野での利用が期待されています」

地球温暖化の原因となるCO2を発生源で捕集し、封じ込めるCO2回収・貯留(CCUS)技術にも注目が集まっている。アメリカでは2021年1月、イーロン・マスク氏が100億円の賞金を掲げて、同技術のコンテストを発表し、世界中から革新的技術を募っている。各国政府がCCUS技術・産業の育成に取り組んでいるが、その先頭を行くのがイギリスだ。石油・ガス産業における蓄積を活かして2010年以来CCUSの産業化を進めており、2030年までに10メガトンのCO2除去を目標に、国内4カ所の炭素回収クラスターを開発する方針を打ち出している。

注目の脱炭素スタートアップ
太陽光や地熱の新技術が登場

再生可能エネルギーやカーボンニュートラルに寄与するユニークな技術やビジネスモデルを保有する企業を市場は高く評価し、多額の投資が集まっている。その筆頭が2003年に設立、2010年にナスダックに上場し時価総額は 100兆円 を超えるTeslaだ。

アニス氏に、今後企業価値が大きく成長しそうな同分野のアメリカ及び海外のスタートアップについて聞いた。

Heliogen(アメリカ)は集光型太陽光発電システムで注目を集めるスタートアップで、2021年12月にニューヨーク証券取引所に上場した。AI技術を駆使して、多数のミラーの動きを調整・最適化することで太陽光を凝縮し、1,000度以上の状態を生み出す技術を開発。脱炭素化を目指すRio Tinto社がカリフォルニア州ボロンにあるホウ酸塩鉱山に導入済みであるほか、同システムを用いたグリーン水素製造の実証実験にも成功している。

Heliogen(アメリカ)の集光型太陽光発電システム

Mainspring Energy(アメリカ)は、スタンフォード大学の熱力学研究所で開発された新しい発電システムの実用化に挑む。この発電機は、熱や化学エネルギーを利用して、直線運動を磁石と銅コイルで電気に変換する装置であり、水素やアンモニアを燃材料として利用可能。2021年3月にアメリカの電力・再生可能エネルギー大手NextEra Energyと発電機の購入、融資、全米展開のために1億5,000万ドルの大型契約を結び注目を集めている。

Vortex Bladeless(スペイン)は羽根のないスティック型の風力発電機を開発するスタートアップ。この風力タービンは、風が構造物を避ける際に発生する「渦流」と呼ばれる空気力学的効果によって共鳴・振動し、オルタネーターシステムを介して発電する。羽根がないため騒音や鳥類への影響が少なく、製造コストはこれまでの風力発電機の約53%に抑えられるという。高さ2.75m、出力100Wの「Vortex Tacoma」は住宅用や農地用に展開しており、出力1kWクラスの大型機も開発中だ。

Vortex Bladeless(スペイン)は羽根のないスティック型の風力発電機を開発

Eavor(カナダ)は、既存の地熱発電の欠点を克服する巨大な地下ラジエーター構造のクリーン地熱発電システム「Eavor-Loop」を開発した。深さ2,500~3,500mにループ状のパイプを埋設し、内部の水を地熱で150度まで加熱し、発生した蒸気で地上のタービンを回して発電するという仕組みだ。温度の低いものが下に沈みやすい性質を利用してポンプ不要で自然に水を循環させることができる。2021年には石油大手のBPやChevronから40億円超の資金調達を実施するなど、その技術と構想はエネルギー業界から高く評価されている。

Eavor(カナダ)のクリーン地熱発電プラントとシステム概要図

CO2回収・貯蔵、クリーン燃料

Blue Planet Systems(アメリカ)は、発電所などの排気ガスに含まれるCO2を回収し、コンクリートへ固定化する技術を開発する。この技術は、貝類が殻を作るのと同様のプロセスでCO2からコンクリート用石灰岩を生成するもので、CO2の精製と濃縮を必要としないため、回収中に消費されるコストとエネルギー消費量を削減できる。すでに本技術を活用した骨材が、サンフランシスコ国際空港の改装工事で使用されている。

Infinium(アメリカ)はCO2と再生可能エネルギーからクリーン燃料を生成する技術を開発する。再生可能エネルギー由来の水素とCO2から触媒反応によって生成した合成ガスを液体燃料化するもので、航空機や船舶、トラックなどの燃料をネットゼロ炭素燃料に転換できる。2021年にはAmazon系ファンドや三菱重工業が出資し、製造プラントの建設や商用化を進めている。

蓄電用リチウムイオン電池の需要が拡大する中で注目されているスタートアップが、海水からリチウムを抽出する技術を保有するLilac Solutions(アメリカ)だ。同社のイオン交換技術・採鉱技術は、従来の蒸発法とは異なり蒸発プロセスがないため、リチウム抽出にかかる時間を大幅に削減することが可能だという。同社はEV用蓄電池への供給拡大を目指している。

このほかにも、空気中からCO2を直接回収し、固体状で地中貯留する装置を製造するClimeworks(スイス)や、先進的な溶剤技術で火力発電所及び産業プラント等で発生する排ガスから高効率・低価格にCO2を回収するCarbon Clean Solutions(イギリス)、川の10メートル以下の落差を活用し低コスト発電を実現する水力発電企業のNatel Energy(アメリカ)などを注目スタートアップとして挙げた。

再生可能エネルギーやカーボンニュートラルに関する技術や装置は、研究開発のために長期の時間や大型投資が必要だ。アメリカでは2000年代後半から2011年頃にかけてクリーンテックブームが起こったが、多くのスタートアップは長期的な資金調達を行えず、事業から撤退していった。

クリーンテックは再びブームで終わるリスクはないのか。アニス氏は「10年前と今とでは大きく状況が異なります」と述べる。

「環境問題やカーボンニュートラルに関する関心と責任感は世界中に広がり、企業や政府の予算には当然のようにカーボンニュートラル対策が組み込まれるようになっています。昔の価値観ならばCO2回収・貯留にコストをかけることは信じられませんが、今ではビジネスとしてしっかり成り立つようになりました。この分野へのスタートアップ投資は持続的に行われていくでしょう」