第9回 「熱の脱炭素」に向けた木質バイオマスの活用事例
木質バイオマスエネルギーを地域で利用する一つの方法が地域熱供給である。小規模では経済性を高めることが厳しいが、事業規模をむしろ小規模にして複数並列させることによって、燃料供給側ともマッチングをとり、事業性を確保できる可能性がある。
地域熱供給をインフラとした地産地消
木質バイオマス利用を推進するうえで、今回は地域熱供給に注目する。地域熱供給とは、拠点となるエネルギーセンターにボイラ等の設備を設置し、熱配管を使って近隣の建物に熱を供給するシステムを指す。日本では都市の中心市街地に多数導入されている。一方で、ヨーロッパでは比較的小規模な地域熱供給も多数見受けられる。冬季の温熱負荷が多く、建物がセントラルヒーティングであるなど、日本とは環境条件が異なるため単純に比較はできないが、デンマークでは地域熱供給が国中に分散している。デンマークは国策として脱化石燃料を早くから掲げており、コペンハーゲン周辺では大型の地域熱供給が導入されている。地方には大規模な太陽集熱器を組み合わせた、メガソーラーではなく、メガ太陽熱が立地する。
木質燃料を利用する地域熱供給
日本でも小規模な地域熱供給が全くないわけではない。山形県最上町では病院・福祉施設からなる複合施設と周辺の農業用施設に木質バイオマスによる熱供給が行われている。北海道下川町の特筆すべき事例は集住化地区である。広範囲に分散する高齢者世帯を新たに開発した住宅地区に集住化し、負荷密度が上がることを活かして木質燃料による地域熱供給を実現した点は、地域の暮らしとエネルギーを一体的に解決する試みとして興味深い。
岡山県西粟倉村の取り組みも広く知られている。村の小中学校、役場、保育園等を対象に地域熱供給が導入されている。筆者は、現地視察時に運よく、地域熱供給の断熱材で覆われた配管が埋設される工事に出会した。ヨーロッパ製のものかと思って現場の人に尋ねたところ、驚くなかれ日本製で、温泉の配湯用に使われる製品であった。ヨーロッパの技術が進んでいると言われるが、日本にも利用可能な技術があることに気づかされた。
岩手県紫波町のオガールプロジェクトも有名である。このプロジェクトは民間提案をきっかけに官民協同で計画され、役場単独で木質ボイラを導入するより、周囲の建物と共同で行うのが環境対策として効果的であり、経済的でもあるとの考え方から企画された。民間建物と合わせて役場等の公共施設が立地することに加え、隣接して住宅地区が開発されている。この住宅も含めてエリア全体の建物に木質バイオマスを燃料とした地域熱供給が導入された。事業主体は民間の紫波グリーンエネルギー株式会社である。ここでは冷房供給も含むため、バイオマスを燃焼した熱で冷水を製造する吸収冷凍機が設置されている。地域熱供給プラントの設計および施工元請は大阪の業者に依頼したそうである。前回書いた通り、日本には木質バイオマスを使うプラントの設計技術が確立できていない点に課題が指摘されている。紫波町のプラントの運用やメンテナンスには予想以上に苦労されたとのことである。需要家側の熱交換器の大きさを小型にすると伝熱面積が不足し、温水温度を上げないと必要な熱量が取れない。温水温度が高くなれば配管での熱損失が増えてしまう。需要家側を含めたプラント全体の適切な設計が必要な所以である。
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