社員の内なる動機を可視化する EQIQウォール・ケイシー氏が語るマネジメントの未来

モチベーションという目に見えない内的要因を科学的に分析し、職場のコミュニケーションを変革する。EQIQ株式会社が開発したAttunedは、従来の性格診断とは一線を画すモチベーション分析ツールだ。人材紹介業界での経験から生まれた同社のビジョンは、単なる組織効率化を超え人間同士の理解と共感の範囲を拡張するという壮大なものへと広がっている。EQIQ株式会社・代表取締役社長ウォール・ケイシー氏に、モチベーション分析が変えるマネジメントの未来と日本発のSaaS企業として世界市場に挑む戦略について話を聞いた。

WahlCasey
EQIQ株式会社 代表取締役社長ウォール・ケイシー氏

従来の人材評価を刷新する

面接では掴めない、人材の可能性を引き出す

「何千人もの面接をしてきましたが、それでも人のモチベーションは見抜くのが難しいです」。元々、人材関連の事業などにも携わっていたEQIQ株式会社・代表取締役社長ウォール・ケイシー社長は、自身の経験を振り返りそう語る。

「性格診断は山ほどありますが、実際のビジネスパフォーマンスとはほとんど関係がありません。従来の採用・評価手法では候補者の潜在能力を見抜けないことが多く、面接という形式的な場では誰もが『言うべきこと』を言います。本当の価値創造の源泉は可視化されていないのです」。

実際に心理学のいくつかの研究では、面接では候補者の能力や素性を理解する事が難しい事が指摘されている。そうした課題に向き合い同社が3年の歳月をかけて開発したのが「Attuned」である。このサービスでは組織心理学の知見をベースに、『自律性』などからなる11のカテゴリにモチベーションを整理。質問に応える事で、モチベーションの源泉を理解する事が出来る。サービス構築には心理学者などが参画しただけでなく徹底した事前テストも行い、真に「モチベーション理解」が出来るサービスを作り上げた。

企業の持続的成長を支える

次世代マネジメント基盤

Attuned、ひいてはEQIQ社誕生の背景には、ウォール・ケイシー氏の未開拓ビジネス領域への意欲がある。ケイシー氏は会社員時代、取締役会で新規事業やイノベーションを提案し続けるも「今儲かっているから」という言葉に阻まれ続けた日々を経験している。そこには組織の成長停滞とイノベーションジレンマが働いていた。

「既存のビジネスモデルに依存した企業では、破壊的イノベーションは常に拒絶されます。このまま一生続けても、事業は縮小再生産の道を辿るだろうと思いました。そこで、新たな市場を創造したいという起業家精神が独立へと駆り立てたのです」と起業当初の想いを語る。

青山にオフィスを構えていた時代は電話営業に励む日々だったが、面白いことにモチベーションを理解するAttunedのサービスを最初に採用したのはアメリカの教会だった。「繋がりがあったわけではなく、純粋にサービスとして複数年使って頂いた」と語るように、組織変革と持続的成長には国や業界に関わらず普遍的なニーズが存在する事が伺える。

他の導入例では組織内のコミュニケーション円滑化というニーズに対応し、今では戦闘機のパイロットの部隊に使われるケースもあるという。

「戦闘機パイロットは高度な専門性と卓越性を追求する職種で、何年もの訓練を受けたエリート集団です。一方、パイロットを支える整備担当者は安全性と標準化を重視します。全く異なる価値観を持つ人材がいかにして一つの事業体として機能するか、組織設計における根本的な事業課題でした」。

Attunedでは、組織内でモチベーション診断の結果を把握する事が出来る。また、部下とマネージャー双方のモチベーションに基づいたコミュニケーション改善案を提案するAIもリリースされ、単にモチベーションを見抜く為だけではなく組織内のコミュニケーション効率の向上にも役立てる事が出来るという。

「当社のSaaSを3ヶ月使うと、組織内の情報非対称性が解消され、人々は少しずつデータに基づいた対話ができるようになります。これはコミュニケーション効率化の第一段階です。小さな変化のようですが、やがて組織の透明性という見えない土壌が育まれ、そこから社員エンゲージメントが向上し、最終的には業績という実りをもたらします」。

EQIQ
インタビューでは構想や同社サービスのみならず人間の限界やAIの可能性にまで話が及んだ

日本から目指すSaaS事業の青写真

クロスボーダー展開への事業構想

組織心理学を元にモチベーション把握を通じたSaaS開発を進めている同社だが、設立当初からグローバル市場を見据えた開発を進めている。

「日本のSaaS企業が海外で成功した例はほとんどありません。そこで最初からグローバル人材を登用し、マルチ言語対応の製品開発を進める事で、グローバル展開が可能なビジネスモデルを構築しています。こうしたクロスボーダー戦略は日本発のSaaSがグローバル市場で競争するための必須条件となります」。

そんな構想を反映してか、今やナイジェリアからパキスタンまで思いもよらない市場から問い合わせが届いている。

一方でケーシー氏は、産業界でのAIの構想についても語った。AttunedのAI機能では、個々のモチベーション診断に沿ったアドバイスやメール作成が可能だが、同機能は単に便利なだけではなく、マネジャーの能力を拡張するツールでもある。

「AIの発達によりマネジャーの意思決定支援能力は飛躍的に向上するでしょう。従来の情報処理能力では不可能だった、より多くの変数を考慮した戦略立案が可能になります。そして職場でデータに基づいた意思決定が標準化されれば、企業は市場変化への対応力を高め、サプライチェーン全体でもより効率的な協業が生まれるはずです。小さなデジタル変革が、やがて産業構造そのものを変えていくのです」。

1990年代、人類学などの知見を基にロビン・ダンバーが提唱した「ダンバー数」では、一人が円滑に人間関係を築ける限界は150人程度とされており、組織を考える上での一つの常識であり限界とされてきた。しかし、AIによりマネジメント出来る総量と質が向上すれば、各個人はこうした限界を打破する事が出来、組織構造だけではなく産業構造も変化するだろう。

モチベーションという目に見えない企業資産を可視化し、人と組織の潜在能力を最大化するEQIQ株式会社。テクノロジーとデータ分析が交わる場所で、同社は日本のSaaS企業としても新たな経営の可能性を切り拓こうとしている。構想の段階で海外を見据えた視点には、人口減少と向き合う日本での今後のビジネスのヒントが隠されているのかもしれない。

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