ソニーワイヤレスコミュニケーションズ ローカル5Gでエンターテインメント領域での新たな可能性を切り拓く
2020年に設立されたソニーワイヤレスコミュニケーションズ株式会社は、ソニーグループの通信事業における次世代の成長領域として、ローカル5G事業に取り組んでいる。エンターテインメント領域に特化したローカル5Gサービス「MOREVE」を展開し、スタジアムやアリーナでのこれまでにない体験と感動の提供で、新たな価値創出を目指す。実証実験から本格展開へと事業フェーズが移行する中、同社の代表取締役社長兼執行役員の大津康治氏に将来の展望を聞いた。

ソニーグループの新規事業戦略
通信の次なる成長領域に挑戦
ソニーワイヤレスコミュニケーションズ株式会社の設立背景には、ソニーグループの通信事業戦略がある。同グループの通信事業は、ソニーネットワークコミュニケーションズが手がけるNUROが主力だが、通信事業のコモディティ化が進む中、新たな成長領域の開拓が急務となっていた。
「通信業界もコモディティ化が進み、成長率が下がってくる中で、5年、10年後を見据えた新規事業として、ローカル5G事業にチャレンジすることにしました」と大津氏は設立の経緯を語る。
新規事業をソニーグループ本社直下の独立した会社として立ち上げることで、長期的な視点での投資と成長が可能になる。「グループとしての経営資源を活かすことで、適切な設備投資が可能となり、よりスムーズなスタートを切る事ができます」と大津氏は説明する。
同社の事業について、グループ全体の「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスに基づき、「ソニーグループの強みを生かして、まずはエンターテインメントの領域、アリーナやイベントホールなどの現場に新たな価値を創出することだ」と大津氏は語る。

「MOREVE」が切り開く未来の新体験
通信のみにとどまらない多様なソリューションを展開
同社が展開するBtoB向けサービス「MOREVE(モアビ)」は、単なる通信サービスではなく、ローカル5Gを基盤とした総合的なソリューションである。電子決済端末や映像制作キット、来場者分析など、通信プラスアルファのサービスを一体的に提供している。
「私たちのお客様は通信を使いたいわけではなく、通信を利用して何かを解決したい。通信だけでなくソリューションを合わせてご提供しています」と大津氏は説明する。現在はプロサッカーチーム「サガン鳥栖」を運営する株式会社サガン・ドリームスへの提供をはじめとし、ハンドボールなど他競技への横展開も進めている。
特に注目される取り組みが「審判カメラ」だ。「ウェアラブルカメラの映像をローカル5Gでリアルタイム配信し、普段見ることのできない審判視点の映像や、審判や選手の声などの臨場感も届ける」ことで、新しい観戦体験を提供している。世界的に見ても、今年の夏にアメリカで開かれたサッカーの世界大会でも、こうしたカメラ映像は話題を呼んだ。


総務省の『令和6年地域デジタル基盤活用推進事業(実証事業)』総務省の実証事業では、新千歳空港でのアバター案内サービスや、佐賀県におけるスポーツ施設の多機能化実証などを展開した。新千歳空港では、ローカル5Gで伝送されたWebカメラの映像をAIで分析し、困っている利用者を検知し、アバターロボットが案内をするシステムを構築した。また、海外からの旅行者を検知し、多言語で案内することも可能だ。
「通信技術とアバターロボットの連携により、海外から日本に着いたばかりの方でも、英語や中国語などでコミュニケーションがとれます。非常に好評でした」と大津氏は振り返る。このシステムは、空港職員の業務効率化を実現し、従来のインフォメーションカウンターでは対応しきれなかった多数の海外来場者への案内も可能にした。
また、ローカル5G活用は応用範囲が広く、佐賀県鳥栖市におけるスポーツ施設での実証では、株式会社サガン・ドリームスと連携し、選手の競技力分析の他、電子決済システムの導入などにも取り組んだ。こうした取り組みは、ローカル5G活用による新たな可能性を示すとともに、地域スポーツの魅力の向上、利用者の利便性の向上、さらには収益機会創出の可能性も示す重要な事例である。
地域創生への貢献
施設の収益化と地域スポーツの強化を目指す
大津氏が描く将来構想は、通信技術の提供を超えて地域創生への貢献にある。「撮影した映像を蓄積していくプラットフォームを作り、それを活用し、地域を活性化できる構造を作り上げていきたいです。例えば、ある地域がスポーツ大会を誘致した際に、映像配信で収益性を確保できるよう、弊社がローカル5Gを地域や地元スポーツチームに提供するといった形で貢献できる会社でありたいです。」と大津氏は語る。
自治体との連携についても積極的だ。「自治体インフラの収益化と、スポーツによる集客・地域活性化のお手伝いをさせていただければ」と、地域経済への貢献を重視する姿勢を示す。
事業展開においては、現在はエンターテインメント領域に集中し、顧客の声を聞きながらソリューションを充実させる戦略だ。「重点戦略として、この領域の顧客のニーズに応えることで、様々なアプリケーションやソリューションを充実させる」方針だが、将来的にはワイヤレステクノロジー全般に領域を拡大し、ローカル5Gに加えて新技術も組み合わせた最適なソリューションの提供を目指している。

挑戦し続ける企業文化
諦めない姿勢で新市場を開拓
こうした構想を実現していくために、大津氏は、事業立ち上げのフェーズにふさわしい企業文化の醸成を推進している。「事業を成功させるために、職種の壁を越え、社員みんなで協力して取り組んでいく」というワンチームの精神を掲げ、協働を進める。
経営の根幹には、「諦めない」「チャレンジし続ける」姿勢を据え、大津氏自身も、通信業界で豊富な経験を持ちながらも、同社の経営を「挑戦」と位置づける。「通信の自由化により競争が生まれ、お客様がより良いものを得られる時代になりました。今回のローカル5Gを活用できる領域において、お客様のニーズは確実にあるので、我々が先頭を走って新たな価値を提供し続けていきます」と力を込める。
ローカル5G市場はまだ成功事例が限られており発展途上の領域だ。ソニーワイヤレスコミュニケーションズはエンターテインメント領域で、現場の実績を武器に、新たな通信サービス市場の創出に挑戦し続けている。