自民党・平井卓也議員に聞く デジタル・ニッポンの社会構想

自民党はデジタル技術を活用した行政改革に関する提言「デジタル・ニッポン2023」を2023年5月に公表、政府にガバメント・トランスフォーメーションの実現を強く促した。提言のとりまとめを主導した自民党デジタル社会推進本部長の平井卓也衆議院議員にポイントを聞いた。

平井 卓也(衆議院議員、自民党デジタル社会推進本部長)

── デジタル庁はまもなく3年目に入りますが、あらためて発足当時の目的と現在の動きについて教えてください。

これまでわが国では幾度かデジタル改革の動きがありましたが、省庁の縦割りや自治体の業務が壁となり行政全体の改革までは及びませんでした。しかし、クラウド技術の登場により国と自治体の共通のシステム基盤「ガバメントクラウド」を設計することが可能になりました。これは新しい政府をつくることと同等のインパクトがあり、その推進をミッションとするのがデジタル庁です。

デジタル庁は自ら進んでシステムを作りながら法律も提出し、マイナンバー関連事業や各省庁の行政システムの最適化・調達も責任を持って進めています。ビジョンとしては「ガバメント・アズ・ア・スタートアップ」と「ガバメント・アズ・ア・サービス」の二つを掲げており、スタートアップのように自己変革し、挑戦することで社会を変革する組織を志向しています。

とはいえ、3年経過すると日々の業務が多くなり、当初掲げた大きなビジョンが見えづらくなっていることが現在の課題です。そこで今年の提言では、最新の技術動向を踏まえて大きな挑戦事項を重点的に挙げました。

── 2023年提言の基本方針と理念を教えてください。

人口減少と高齢化が進み、今後社会問題が顕在化しても、行政組織の持続可能性を確かなものにし、成長の種をつくることが重要です。わが国に閉塞感が停滞し、新しいことになかなか取り組めない空気があるとしても、トランスフォーメーションと共に社会問題を解決していくことが日本の競争力を取り戻すことになると考えています。そのために2025年をターゲットに取り組むべきガバメント・トランスフォーメーションをまとめました。

DMPの活用を提言
民間にも大きな事業機会

── 様々な政策が提示されましたが、ポイントは何でしょうか。

提言ではクラウド技術やSaaSモデルの活用に加え、行政でのDMP(デジタルマーケットプレイス)活用についても触れました。SaaSを比較可能なDMPに業務アプリケーションを載せ、調達の仕様に対して最も適切なものを選択し、契約することができる新たな仕組みです。これまでは自治体が同じような業務で別々のシステムを作っていましたが、DMPならば迅速・公平な調達が促されるとともに、多様な事業者の参入が促進され、IT産業振興につながることが想定されます。

DMP(デジタルマーケットプレイス)活用のイメージ
出典:デジタル・ニッポン2023)

このように、テクノロジーの進歩にあわせて新たな機能を実装していくことで、国家運営の持続性と成長性を高め、わが国の将来不安を払拭することができると考えています。また、提言は2025年に向けて実施すべき産業構造の転換策や国・地方のガバナンスの在り方を明らかにし、社会全体、特に民間が予見性を持ってDXを進められるようにすることも重視しました。DMPに見て取れるように、国の行政DXとあわせて、民間も新たなビジネスモデルに挑戦して頂きたいと思います。

「令和の大行政改革」を推進

── 自治体がDXを推進する上での課題は何でしょうか。

国も自治体も同様ですが、デジタル人材が不足しています。人材育成ももちろん大切ですが、一番重要なのはマインドセットを変えて、民間と行政でデジタル人材を補い合うことでしょう。実際の例としてデジタル庁は行政・民間を問わず人材が集まり、一種の学びの場として機能しています。官民の人材がそれぞれの強みを活かしつつ働き、またここで学んだことを各々に還元していく「リボルビングドア(回転ドア)」の組織と言えます。これは自治体でも実現可能だと思います。

いま自治体では住民向けの窓口サービスの改革として「書かない窓口」に注力しています。子育てや引っ越しなどのライフイベントに関わる行政への申請をワンストップでできるようにする思想ですが、ゆくゆくは窓口に行かなくとも実現できるように、マイナンバーの普及や新機能の実装を進めていきます。このように、これまで社会活動を支えてきた制度や人材、統治の方法をデジタル前提で作り直す「令和の大行政改革」に国と自治体で挑戦していきたいですね。

── 民間企業はこの流れにどう対応すべきでしょうか。

経営者の皆さんには、政府のデジタル改革と歩調を合わせ、新事業開発や人材獲得、各社のDXなどを進めて頂きたいと思います。特に地方はチャンスです。デジタル化の利点は距離と時間の概念を変えることにあり、自治体にとってはこれまでハンデと思われていたことがチャンスになる。デジタル田園都市国家構想はまさにその点を意識しています。中小企業においても今後の持続可能性を考えたときに、実際に提供するサービスがデジタルと関係なくとも、事業プロセスにデジタル技術を取り入れることは必須となるでしょう。

さらに大きな視点で言えば、今後は終身雇用を一企業の中で目指すのではなく、社会全体で形成していくことが大事です。今や個人がSNS等を利用して趣味の世界で稼ぐことができる時代です。個人が培った経験やスキルを活かして、東京になくても多様なキャリアを築くことも可能でしょう。

昔は読み書きそろばんがスキルの指標でしたが、現代は数理、データサイエンス、AIが新たな重点スキルと言われています。これから社会で活躍する若年層、高専や大学の生徒はこれらを必修科目として学んでいます。昨今話題の生成系AIについても、AIの得意な点と苦手な点を理解し、使いこなすことができる人が今後の社会で活躍できる人材でしょう。

── 最後に読者に向けてメッセージをお願いします。

人口減少と少子高齢化が進むわが国では、国内だけでなくグローバルで連携することが重要です。国は日米の共同構想として米マサチューセッツ工科大学と連携した「グローバル・スタートアップ・キャンパス」を都内に立上げる予定です。今後、日本から世界最先端のイノベーションを起こしていきたいと思います。

 

平井 卓也(ひらい・たくや)
衆議院議員、自民党デジタル社会推進本部長

 

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