再生医療の産業化に向けリ・スタート 議員の会で提言まとめる

iPS細胞を利用した治療など、独自アプローチで再生医療の研究が進む日本。2023年4月、「再生医療を推進する議員の会」(会長・加藤勝信氏)が「再生医療推進リスタート元年」を実現する提言をまとめた。その内容を解説するとともに、再生医療の産業化に向けた思いを聞いた。

加藤 勝信 衆議院議員

本格的な産業化を見据えて
再度の再生医療推進

「再生医療を推進する議員の会」は2008年に国会議員有志で発足。2012年に、iPS細胞を開発した山中伸弥氏がノーベル生理学・医学賞を受賞して以降、政府も再生医療分野の研究開発費の投入のみならず、規制改革により、再生医療分野の研究開発を後押ししてきた。一方で、再生医療等製品は安全性の確認などを含めて開発に時間を要する。新規治療の開発に挑戦した一部のベンチャー企業は撤退を余儀なくされており、制度運用上の課題なども指摘されているのが現状だ。

「再生医療は、日本が世界を先導できる数少ない科学技術領域であり、iPS細胞を使うものを含めた様々なシーズが臨床研究・治験の段階まで進んでいます。今こそ本格的な産業化を見据えて取組を加速していく必要があります」と、衆議院議員で「再生医療を推進する議員の会」会長の加藤勝信氏は指摘する。「再生医療を推進する議員の会」は2023年を「再生医療推進リスタート元年」と位置づけた。「再生医療を改めて推進していくために制度をもう一度見直していく必要があると考え、提言をとりまとめました」とそこに込めた思いを語る。

研究開発費のさらなる確保を
VCからの資金も期待

提言では再生医療の産業化を見据えた7つの具体的な課題とその解決の方向性が示されている。

まずは「研究開発費の更なる確保」だ。「科学技術の進歩においては、アカデミア・製薬企業・スタートアップ企業などによる研究開発を一体的に進めていくことが重要」としたうえで、再生医療分野については、「ゲノム編集など新たな技術が次々に出現しており、技術的な親和性の高い遺伝子治療分野との融合研究による新たな価値創出が求められる。基礎から臨床応用まで一貫した研究費の確保が必要であり、再生医療分野の研究開発費を更に多く確保すべき」と述べる。再生医療を含む創薬分野のスタートアップ企業には、認定ベンチャーキャピタル(VC)が出資することを要件として、新薬開発に必要な資金を国が支援しているが、「更に幅広く支援できるよう、認定VCや支援規模を拡充すべき」「VCの目利き力の向上の為、人材育成や人材のVCへのマッチングなど推進すべき」とVCへの支援拡充を唱える。

2つ目は「承認基準の明確化」だ。再生医療等製品については、検証的試験により有効性が確認される前でも、有効性が推定でき安全性が確認できた段階で、条件と期限を付けて承認し、市販後に有効性を検証する「条件及び期限付き承認制度」が、2013年の薬事法の改正によって制度化され、これまでに4品目が承認された。ただ、製薬企業などからは、「有効性の推定」の定義が曖昧であるという指摘がなされている。そこで、厚生労働省に対し、条件及び期限付承認制度が適用となる範囲、市販後の調査や試験の考え方などを規定した「条件及び期限付承認に係る申請ガイドライン」を2023度中に策定すべきと促している。

QbDによる品質管理の
手法開発を

3つ目は「品質管理の指針整備」だ。従来の工業製品の製造法であるQbT(Quality by Testing)を、再生医療向けの細胞製剤に適用すると製造効率が極端に悪化することをふまえ、「QbD(Quality by Design)の考え方に基づき品質をコントロールする手法の開発を推進すべき」と主張。現在、日本医療研究開発機構(AMED)の研究事業において進んでいる「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業(QbDに基づく再生医療等製品製造の基盤開発事業)」の成果を踏まえて、QbDをベースにした薬事規制の検討を2023年度中に開始し、いち早く政府としての考え方を取りまとめるべきであると記している。

4つ目が「リスク分類の見直し検討」だ。再生医療等安全性確保法においては、再生医療等技術をリスクに応じて第一種から第三種の三段階に分類し、リスクに応じた手続きを課している。ここで他家細胞を用いた再生医療等技術は最もリスクが高い第一種と分類されている。しかし、特に間葉系幹細胞を用いた再生医療等技術は、他家細胞を用いたものであっても副作用が少ないという意見もあるため、手続きを緩和するなど環境を整えることを検討すべき、と述べる。

5つ目が「レジストリ・データベースの充実」だ。「条件及び期限付き承認制度」における市販後調査では、効果を無作為化比較試験で検証することは困難だ。そこで、当該製品を使用せずに治療した患者の治療成績という外部データとの比較により有効性を確認する計画を立てている。こうした外部データとの比較は、製薬企業など申請者にとっては医療機関との調整が負担になる。また規制当局としても、データにバイアスがかからないかなどの懸念が生じている。そこで、「承認取得を目指す製薬企業等が、再生医療学会のみならず、各疾患学会と連携し、レジストリ・データベースを活用するなどにより、対照群のデータが円滑に収集できるよう、政府や医薬品医療機器総合機構(PMDA)の支援を強化すべき」と提言する。

魅力ある市場の形成に向けて
薬価や診療報酬にも配慮

6つ目が「研究開発成果の実用化」だ。「アカデミアやスタートアップ企業の実用化・産業化のための取組に対し、国の研究開発機関による製造や品質評価・管理、低コスト化等に関する技術面からの支援を強化すべき」「実用化につながる研究開発成果を安定して創出するため、研究機関における先進的な研究者や、スタートアップ企業における技術者、アカデミアと企業のマッチングを進める人材の育成にも注力すべき」としている。

7つ目が「魅力ある市場の形成や評価の在り方の検討」だ。「製品毎に、医薬品または医療機器の制度で薬価を決める現在の仕組みは再生医療等製品にフィットしていない。結果として、再生医療等製品の開発に挑戦する企業は次の研究開発投資の原資を得られていない。再生医療等製品特有の価値や特徴について適切な評価を検討すべき」という。また医師・医療機関が最新の再生医療技術提供を躊躇する事がないよう、医師の手技と医療機関による提供体制の整備に対して、診療報酬などによる適切な見返りを検討すべきだともしている。

加藤氏は「今後この提言を実装していく中で課題が見つかれば、さらにその解決に取り組みます。経済産業省も巻き込みながら再生医療産業にイノベーションを起こしていきたい」と産業化に向けた意気込みを語った。

 

加藤 勝信(かとう・かつのぶ)
衆議院議員