ひとを科学し、課題を解く AI姿勢分析から広がるSapeetの可能性
「ひとを科学し、寄り添いをつくる」をミッションに掲げる株式会社Sapeetは、AIによる身体分析技術やコミュニケーション分析技術を軸に、AI姿勢分析ツールやAIロープレシステムなどのサービスを提供する企業だ。代表の築山英治氏は、東京大学大学院での研究をもとに起業。試着ツールの開発を起点に、顧客の声を反映しながら事業を進化させてきた。ニーズに基づくソリューション提供で信頼を積み重ねる同社の姿勢と、今後の構想を聞いた。
株式会社Sapeet代表の築山英治氏
起業の原点は「服が入らない」
研究から実装へ、事業の出発点
ビジネス界において、AIは生産性向上の為の必須のツールとなり始めているが、市井における活用法は模索中の場合も多い。AIを利用した技術は、画像生成から翻訳、ディープフェイク検知まで、幅広い展開を見せているが、最新のAI技術をコミュニケーションやウェルネス領域の支援に役立てているのが、株式会社Sapeetだ。同社は「ひとを科学し、寄り添いをつくる」というミッションを掲げ、AI身体分析技術や生成AI技術を生かした最先端ツールを提供する。同社の代表である築山英治氏は、東京大学大学院での研究をもとに起業したが、出発点には、経営に対する純粋な憧れがあった。「元々、高校の頃『経営をやりたい』と思い、大学では経済学部に進もうと考えて文系で入学しました。ただ、『ビジネスを考えるなら、プログラムができたほうが良い』と思い直し、東大には、進学振分制度(1年生と2年生の途中までの成績を元に、3年生からの進学先を決めることが出来る制度)があるので、1年生の教養課程を経てから工学部に進学しました」(築山氏)。名だたる経営者に憧れを抱き、技術についての造詣を深め、学士時代には、ビジネスコンテストなどにも参加。当時、築山氏自身がアメフトに打ち込む中で、体重が増えてネットで買った服が入らなかった経験から、ネット試着のサービスに着目。修士課程では、3次元仮想試着ツールを研究した。東京大学で勉学に励みながら、課外活動で得た気づきを基に、大学院で研究し起業へ。これ以上ない順風満帆なストーリーに聞こえるが、その後、茨の道が待っていた。
顧客との対話が導いた姿勢分析
展示会から広がった新たな需要
「大学院在学中に起業して、研究していた内容をそのままサービスにしたので、事業の立ち上げ自体はスムーズでした。ただ、残念ながら、サービス自体は本格的にヒットして軌道に乗る所までは行きませんでした」(築山氏)。当時は、今ほど仮想試着ツールは発達しておらず、ニーズは一定ある市場だったが、実装には、グラフィックの解像度や読み込み時間などユーザー体験に大きな課題が残った。コスト回収の面からも課題感を感じ、別の分野のビジネスを模索し始める。
「ちょうどその頃から、身体の分析技術や測定技術に関心を持つ企業が出てきて、当社の体型測定や3Dアバター生成に関心を示してくれるようになりました。アパレルだけではなく、他業界でも活用ニーズが高まってきていた。そこで、そうしたAI・ソリューション開発を受託する形のビジネスへと転換。ちょうどその過程で、PKSHA社が興味を持ってくれて、グループに入りました。上場を機に連結は外れましたが、現在も協業しながら成長を続けています」と語った。
この受託形ビジネスへの転換が功を奏し、現在の主軸の1つである「AIソリューション提供」に繋がっていく。「当社は基本的にはマーケットイン、『市場のニーズに応える』タイプのビジネスです。受託開発ビジネスがキャッシュフローの安定やニーズ探索チャネルとして機能し、プロダクト開発ビジネスを支えています」と築山氏は説明している。元々、試着ツールで創業した同社であるが、受託ビジネスの中で、顧客の様々なニーズを発見。現在の形態へと進化していった。
“マーケットイン”を徹底する開発姿勢
受託から見出す本質的なニーズ
受託開発の中で、ニーズを発見したAI姿勢分析。初めは「飛び地」のニーズのように見えたが、事業が本格化するにつれ、広がりを見せ始める。AI技術を活用することで、競合製品よりも手軽に使いやすいシステムを作り上げた事で、展示会などでは、思わぬ反響を見せる。「最初にお声がけいただいたお客様はジム経営の方でしたが、そこから整骨院や整体の方からも即日で発注を頂きました。従来の受託開発は数千万円規模のプロジェクトだったので、ご発注いただくまで半年以上かかることもざらでしたが、この姿勢分析ツールは2~3年契約のプランが即日で売れたので、『これはすごい、想像以上のニーズがある』と気づきました。そう感じて、「もっと開発・販売体制を強化しよう」と思ったのが一つのきっかけです」とAI姿勢分析ツールについて語った。当初の仮説の想像を超えたところにあった思わぬニーズとビジネスチャンス。技術に対する知見があったからこそ、可能な方針転換だった。
株式会社Sapeetの全社ミーティングの風景。5つの行動方針の元、成長を目指す。
文化を支える行動指針と組織づくり
進むExpert AIの展開
そんな株式会社 Sapeetには、5つの行動方針がある。「プロチームたれ」「顧客の価値と伴に」「事実駆動」「いいやつであれ」「脳内同期」だ。築山氏は「当社は、理系エンジニア出身の私が立ち上げた会社なので、研究室と部活動を合わせたような文化を重視しています」と説明した。立場よりも事実を重視する姿勢は、研究室での経験、チームワークを重視する姿勢は、スポーツ経験とリンクするモノだ。この「5つの方針」は3年前に作成した指針だ。事業方針の転換がある中でも、こうした指針を持ち、社内カルチャーを保っている。「ずっと成長し続ける事を達成する為に、「『組織』と『事業』の仕組み作りが重要」と築山氏は語ったが、その言葉通り、行動指針だけでなく、カルチャーアワード制度なども構築し、カルチャー浸透に向け注力している。そんな築山氏は、AIエージェント事業についても触れ、「既に営業やナレッジ整備、インサイト創出といった業務を支援するExpert AIエージェントを提供しています。今後も営業にとどまらないそれぞれの専門領域で活躍するExpert AIエージェントを開発予定です」と今後の構想について述べた。研究者としてのマインドを持って、偏見や立場に左右されず、チームとして、新たなソリューションを提供する株式会社Sapeet。今後の動向に注目が集まる。
【代表取締役 築山 英治】
東京大学・大学院にてクラウド着装シミュレーションの研究を行った後、株式会社Sapeetを設立。同社は、AIによる身体分析技術やコミュニケーション分析技術を軸に、AI姿勢分析ツールやAIロープレシステムなどのサービスを提供している。