「ビジネスをEntertaining化する」経営戦略 株式会社アートリーが実践するCX重視の価値創造
「マーケティングは手段に過ぎない。本質的な価値は人の手によって創られるものに宿る」――。こう語るのは、「ビジネスを楽しく、おもしろく。」というパーパスを掲げる株式会社アートリーの佐藤丈亮社長だ。単なる「楽しさ、おもしろさ」ではなく、感動、驚き、挑戦といった心を動かす力としての「Entertaining」を事業の核に据え、顧客体験価値(CX)を重視した独自の経営手法で注目を集めている。
アートリーの社名は、設立当時の社名「アーティファクトリー」に由来する。「アーティファクト」と「ファクトリー」を組み合わせた造語は"文化財の工房"を意味し、文化的価値を創出する場として名付けられ、現代表号である「アートリー」へと会社を発展させてきた。比叡山延暦寺でのファッションショープロデュースなど文化的プロジェクトを手がける一方、AIとの共創、メタバース開発、クリエイターエコノミーの参入など、次世代型ビジネスモデルの構築に挑戦している。
従来のマーケティング手法を超越した価値創造とは何か。変化の時代に求められる組織戦略の本質とは――。創造性とビジネス性を高次元で統合する佐藤氏の先進的経営哲学を探る。
感動と驚きを生む「Entertaining」概念
ー顧客体験価値を軸とした戦略的アプローチ
アートリーは、クリエイティブソリューションとデジタルマーケティングを軸に、企業の課題解決と新たな価値創造を支援する企業である。設立以来、従来のサービス提供の枠を超えた「体験価値」の創出に戦略的に取り組んできた。
「この『ビジネスを楽しく、おもしろく。』という理念の原題は『Make Business Entertaining』です。Entertainingは単なる楽しさやおもしろさだけでなく、感動、驚き、挑戦、夢の共鳴、インスピレーションの連鎖といった心を動かす力を意味します」と同社社長の佐藤氏は説明する。
理念の組織内外への浸透を図るため、同社では「アートリーアカデミア」というエンタメソリューション番組コンテンツを制作し、戦略的に発信している。社内においても同様の番組企画を通じて、従業員が出演者として当事者意識を持ちながら理念の深化と共有を進めている。
震災を契機とした価値創造の進化
ー独自性・社会性・永続性の統合的追求
「創業の原点は、『人が死んだあと、そのSNSはどうなるのか?』という問いから始まりました。そこから着想を得たのが、死者のデータを"忘れられていく存在"としてではなく、"つながりの記録"として捉え直し、アカウントの痕跡から人類の系譜を編んでいく――そんな構想でした。創業メンバーが全員アーティスト気質で、才能やポテンシャルを社会に還元するという強い志を持っていました。しかし、東日本大震災で同様のアイデアを目の当たりにしたのを機に、アイデアだけでは不十分であり、何を、どう創り出すかという表現そのものの質が、価値を決定づけると考えるようになりました。そこからは、創造の精度や意味にも意識を向けるようになりました」
この重要な転換点を経て、同社は独自性の創出により一層注力するようになった。Webサイトの戦略的構築から始まった差別化のアプローチは、やがて「文化財の工房」を意味する「アーティファクトリー」という社名への昇華。独自性・社会性・永続性を統合した「文化財」を創造する場として、現在の「アートリー」へと発展を遂げた。
物の価値に宿る本質的価値
ーマーケティングを超越した価値創造論
「LVMHのアルノー氏も語るように、"価値は表層ではなく内在に宿る"という考え方は、私たちの哲学にも通じるものがあります。本質的な価値は、意志をもって創られた表現や、心に残る体験の中に宿ると考えています」
この哲学に基づき、同社は一過性ではなく永続的な社会価値を生み出す「文化的資産」の創出を志向している。この考え方は、昨今のCX重視のマーケティング潮流とも合致する先見性を持つ。
「顧客体験価値を重視することで、顧客にインスピレーションを提供し、感動を創出し、顧客の課題解決を実現し、さらに第三者の新たなインスピレーション創発へと繋がります。この価値循環こそが文化的資産の創出基盤だと考えています」
この経営哲学は、事業構想における実践的な試みとしても体現されている。比叡山延暦寺でのファッションショープロジェクトでは、単なるイベント企画の域を超えて、伝統と現代の融合による文化的価値を創造するとともに、モデルたちがSNSを通じて自身の想いを発信し、それに応えるかたちでWeb投票が展開された。視聴者は投票や参加体験を通じて表現に共鳴し、インスピレーションが多方向に広がっていく構造が設計されていた。
比叡山延暦寺VEDUTA COLLECTION×伝燈LIVEの様子
表現が他者の創造意欲を触発し、新たな循環が生まれていくこの仕組みは、クリエイティブソリューションによる課題解決を掲げる同社の思想を体現した、創造を軸とした価値共創モデルの一つと言える。
統合的リブランディング戦略
ークリエイターエコノミーとの戦略的融合
現在、同社が戦略的に推進しているのが包括的なリブランディングである。「常に多様な構想を描いていますが、現在特に注力しているのが統合的なリブランディング戦略です」と佐藤氏は語る。
この戦略は、単なる事業拡張ではなく、企業としての立ち位置や社会との接点のあり方を見直す戦略的アプローチであり、「これまで重視してきた"アーティファクトリー"、アートリー、Make Business Entertainingという多層的な価値概念を、統合的かつ一貫性のある形で言語化し、視覚的にも伝えていくことが重要だと認識しています」
特筆すべきは、自社スタジオをレンタル事業として開放し、クリエイターエコノミーとの戦略的融合を図り始めている点。「自社リソースの内部開放により、新しい有機的な繋がりが創発され、革新的なコンテンツの可能性が広がります。スタジオを共創の拠点にして新たな価値創造を実現できると確信しています」と話す。
これはリブランディングと同時に、変化する社会環境に応答しながら共創の基盤を築こうとする同社の姿勢の表れともいえる。
メタバースを活用したライブコマースやオンラインイベントを通じた、物理的制約を超越した価値創造空間の提供構想も進行中である。ポストコロナ時代の働き方や創作活動の変革に対応した先進的な取り組みといえる。
アートリーアカデミアの様子
AI時代の戦略的人材開発
ー創造性と適応力の統合的育成
人材戦略においても、佐藤氏は独自の先進的視点を展開している。「AIとの共創能力を備え、新時代に適応できる人材の育成に注力しています。既成概念にとらわれることなく、常に新しいツールや技術を学習し、活用できる人材こそが必要です」
同氏の人材開発観は、従来の「スキル習得」の枠を超えた「マインドセット変革」に重点を置いている。特に重視しているのは、AI時代における人間固有の価値の発見と開発である。
「AIが担当する領域は積極的に委譲し、人間でなければ実現できない創造性や企画力、感情に訴求する力の向上に集中していく必要があります。プロデューサーやディレクターといった、全体を俯瞰し、ストーリーを構築する能力を持つ人材の育成が、当社の競争優位性の源泉となっています」
変化への適応力と創造性を統合した人材開発は、同社の持続的成長を支える戦略的投資として位置づけられている。感動、驚き、挑戦を創出するEntertaining概念を軸とした価値創造は、次世代ビジネスモデルの核心的要素として、今後ますます重要性を増していくものと期待される。
株式会社アートリー 代表取締役
佐藤 丈亮(さとうじょうすけ)
2歳から15歳までインターナショナルスクールに在籍し、多様な文化や宗教観に触れながら、英語力とコンピュータ技術を習得。中学3年の二学期に公立中学へ転校後、音楽に目覚め、ボーカル、ラジオパーソナリティ、モデルを経て、2011年にアートリーを設立。独自のWebアプリケーションフレームワークの設計・開発や、映像・音楽・ライブ配信を統合したマルチメディアスタジオ「ATELIER ARTORY」の空間設計・構築、比叡山延暦寺で史上初のファッションショーを開催し、2Dメタバースとライブコマースを融合させた演出を実施するなど、Web・システム・映像・アート・マーケティングを横断するプロデュースを得意としている。また、シンガーソングライター「JOSUKE」として音楽活動も行っており、フランスやイタリアなど海外のJ-POPチャートで1位を獲得するなど、起業家とアーティストを両立している。