DXツールは増えたのに、なぜ業務は減らないのか   株式会社Marsdy・武藤大揮氏が挑む「自動×手動」の第三の道

今日、多くの企業でDXツールの導入は加速している。しかし「ツールは増えたのに業務は減らない」という現象が起きている企業も多いのではないか。DeNAやGunosyといったDXの最先端企業を経て起業した武藤大揮氏は、この現実から新たな可能性を見出した。「全ての企業の『誰にでもできる仕事』を0に」を掲げ、自動化と手動オペレーションを融合させた「AutoDate」で企業の本質的な価値創造を支援する。ツールでも人力でもない「第三の道」とは何か。武藤氏にその構想を聞いた。

 

トップ企業での経験が生んだ新たな視座

 ── DeNAやGunosyという「DXピラミッドの頂点」を経験された後、独立してコンサルティングを始めて発見されたことはございましたか?

 

実に多くの気づきがありました。DeNAに新卒で入社し、その後Gunosyでセールス・マーケティング部門のマネージャーを務めていた時は、高度なDXが当たり前の環境でした。当時はDXという言葉すら使われていませんでしたが、振り返ってみれば、両社ともDXの最先端を走る企業でした。

2018年に独立して、マーケティングコンサルタントとして様々な企業の支援を始めると、大きなビジネスチャンスがあることに気づきました。多くの企業がツールを導入しながらも、その真価を引き出せていない。そこには明確な理由があり、解決の道筋も見えてきました。

特にSaaS系の案件を手がける中で、ツールを導入しても、エクセルでの数値管理や複数ツール間でのデータ転記作業が残っているケースを多く目にしました。これは企業にとって大きな機会損失であり、同時に私たちにとっては価値を提供できる領域だと確信しました。

 

株式会社Marsdy 代表取締役CEOの武藤大揮氏


ハイブリッドという革新的アプローチ

 ──その気づきから新たなソリューションを開発されましたが、どのような価値を提供していますか?

私たちは、ツールとコンサルティング・BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング‐業務プロセスの一部を一括して専門業者に外部委託すること)の長所を融合した、「AutoDate」を開発し、新しい価値を創出しています。従来のツールでは、導入企業側で設定や運用の負担が発生し、十分な活用に至らないケースがありました。一方、コンサルやBPOは包括的なサポートを提供しますが、コスト面での課題がありました。

AutoDateは、それぞれの利点を統合した画期的なソリューションです。お客様は業務を安心してお任せいただけると同時に、私たちは高度な自動化によってコスト効率を実現しています。自動化できる領域は徹底的に効率化し、人の専門性が必要な部分は手動オペレーションで価値を付加する。このハイブリッドアプローチこそが、私たちの競争優位性の源泉です。

興味深いことに、当初はSMB(中小企業)からスタートしましたが、現在では大企業からの引き合いが急増しています。大企業ほど複雑な業務フローやレガシーシステムとの連携という高度な要求があり、私たちのソリューションの価値がより明確に認識されているのです。

 

「ことに当たる」という本質追求の文化

 ── 急成長する組織をどのように構築されていますか?Gunosyでの経験はどのように活きているのでしょうか。 

Gunosyでは25人から200人規模への成長という貴重な経験を積みました。現在はまさに、その知見を活かして組織の基盤を構築している段階です。0から20人というフェーズは新たな挑戦ですが、その先の成長軌道は明確にイメージできています。

組織文化の核心は「ことに当たる」という価値観です。これはDeNAで培われた思想で、前例や権威に囚われず、本質的な価値と目的に向かって行動するという考え方です。この文化が、イノベーティブな発想と実行力の源泉となっています。

採用活動には特に力を入れており、私自身が毎日複数のカジュアル面談を実施しています。そこで必ずビジョンと文化について深く対話し、「誰にでもできる仕事をゼロにしたい」という理念に共鳴する人材を迎え入れています。

興味深いのは、従業員の平均年齢が30歳を超えていることです。これは、実務経験を通じて課題を肌で感じ、その解決に情熱を持つプロフェッショナルが集まっている証左です。メンバー全員が「ツールだけでは不十分」という実感を共有し、より高い価値の創造に向けて邁進しています。

 

未来を見据えた柔軟な組織設計

 ── 組織づくりでもハイブリッドアプローチを採用されているそうですね。

 

はい、正社員と業務委託のハイブリッド組織を戦略的に構築しています。現在、正社員は少数精鋭体制ですが、業務委託メンバーを含めると充実した陣容となっています。

重要なのは、業務委託の方々も価値創造のパートナーとして位置づけていることです。サービスのビジョンや企業文化を共有し、稼働時間の違いはあれど、一つのチームとして価値を生み出しています。

これは、労働生産人口の変化を見据えた、持続可能な組織モデルだと考えています。優秀な専門人材の知見を柔軟に活用し、正社員は長期的なコミットメントが必要な領域に集中する。それぞれの強みを最大限に活かす組織設計です。

この思想は、AutoDateのサービス設計と完全に一致しています。自動化すべき領域と人の専門性が必要な領域を明確に定義し、それぞれに最適なリソースを配置する。組織もサービスも、同じ哲学で進化させているのです。

 

AI時代における新たな価値創造

 ── 今後の展望について、特にAI技術との融合についてはどのようにお考えですか?

 

AIは私たちの事業における中核的な要素です。重要なのは、技術トレンドへの追随ではなく、AIの本質的な価値を最大化できる独自のポジションを確立することです。

AIエージェントが高度化しても、ビジネスの現場では必ず人間の洞察と判断が必要となる領域が存在します。どこまでを自動化し、どこから人間の専門性を活かすか。この最適なバランスを見極め、実装することこそが私たちの提供価値です。

技術が進化すればするほど、私たちのハイブリッドアプローチの重要性は増していくと確信しています。AIによる自動化の可能性を最大限に引き出しながら、人間にしかできない創造的な判断や繊細な調整をシームレスに統合していく。

日本の労働生産性向上は待ったなしの課題です。「ツールを使いこなせない」という状況を超えて、誰もが高度な技術の恩恵を享受できる世界を創造する。それが「全ての企業の『誰にでもできる仕事』を0に」というビジョンの実現であり、日本企業の競争力向上への貢献だと信じています。

武藤 大揮(むとう・たいき)
株式会社Marsdy 代表取締役CEO
2012年、株式会社ディー・エヌ・エーに新卒入社。マーケティング・プロモーションの戦略策定・ディレクションに従事。2015年、株式会社Gunosyにジョインし、セールス・マーケティング部門のマネージャーに就任。2018年に独立し、株式会社Marsdyを設立。代表取締役CEOに就任(現職)。早稲田大学国際教養学部卒。