医療データの混沌に秩序を──ランジェが目指す“社会に橋を架ける”情報インフラ

株式会社ランジェ 代表取締役 山崎淳氏

ICT×データサイエンスで切り拓く、新しい医療経営のかたち

「この国の医療情報は、もはや“カオス”だと思ったんです。」

そう語るのは、医療系のオープンデータ可視化サービスを手がける株式会社ランジェの代表取締役、山崎淳氏だ。

膨大な医療データが日々生成されながらも、体系的に整理され、医療現場や経営判断に有効活用されているケースは、決して多くない。病床数、稼働率、疾患別件数、手術件数──それら一つひとつが、病院や地域医療の運営に欠かせない情報でありながら、形式も粒度もバラバラで、現場の誰もが直感的に使える「地図」は存在しなかった。

「だからこそ、情報を“整理整頓”するプロフェッショナルが必要なんです。」そうした想いを、フランス語で“整える”を意味する「ranger(ランジェ)」という社名に込めた。

「医療機関は、社会を支えるインフラだ」

山崎氏のキャリアは、医療やICT領域にとどまらない。かつて日本最大級の民間病院グループに在籍しグループのICT基盤の構築に携わった後、病院運営支援や電子カルテ等、幅広く医療介護の分野で事業展開をする事業会社に転籍、そこで匿名化レセプトデータによる医療機関の経営分析サービス事業を作り上げた。

「医療従事者の誰もが、多忙な業務の中で“見えない情報”に日々翻弄されている。情報共有ができていないことが、医療の質や経営に与える影響の大きさを、肌で実感しました。」

医療という社会インフラを、経営・情報の視点から支えたい──。そうした強い動機から、2022年にランジェを創業。以来、ヘルスケア関連企業や自治体、医療法人などに対しデータ利活用を支援する活動を行ってきた。

データを「使える」かたちにする、という挑戦

医療情報は、制度改正や地域政策とも密接に関連する。ただしオープンデータとして公開されている各種データはそれぞれが固有の目的を持って公開されており形式も更新頻度もバラバラで、一元的にそれらを取り扱い分析に利用するまでにはかかる工数が膨大になる。

「例えば、“このエリアにはどんな病院があって、どんな診療に強みがあるのか”を調べるだけでも、複数のデータを横断して、何重にも重ねなければ見えてこない。それは本当に大変だし途中で心が折れ思い描いた所までたどり着けない。データ活用の意思はあるのに辿り着けないのは本当に残念ですよね。」

こうした課題意識から生まれたのが、ランジェが独自に開発した可視化ツール「ランジェMAP」だ。全国の病院データを統合し、地図上に可視化。施設単位での診療実績、専門性、地域との関係性などを直感的に把握できる。しかも、それは単なる「地図」にとどまらない。

ランジェMAPシステムイメージ

医療経営と社会保障に効く“新しいインフラ”

ランジェMAPの特長は、技術的な完成度の高さだけではない。医療従事者、行政、経営者、そして医療政策に関心を持つ学生や研究者に至るまで、誰が見てもわかりやすく、使いたくなる設計がなされている。

その根底にあるのは、「情報は“届けたい人に届いてこそ”初めて意味を持つ」という哲学だ。
「オープンデータは、あくまで“素材”。それを誰が、どう組み合わせ、どう届けるかで社会的価値は大きく変わる。私たちは、情報を“橋”として設計している感覚に近いです。」

病床機能、患者数の推移、在宅医療の導入率などのデータを組み合わせることで、地域医療連携の実態や偏りを可視化できる。自治体の医療政策立案、病院の経営戦略立案、そして患者への情報提供──あらゆるプレイヤーに新しい視点を提供している。

情報を共有から「共創」へ

今、ランジェMAPは全国の病院約8,000施設をはじめとして様々な医療・介護情報に対応し、業界内外から注目を集めている。医療の可視化は、もはや一部の専門家のものではなくなった。情報の力で、医療の未来を「みんなで構想する」時代が始まっている。

「情報を整理し、届け、議論を起こす。そこから新しい解決策が生まれることを、私たちはこれまでも、そしてこれからも目指していきます。」

今後は、医療機関だけでなく、介護、福祉、地域包括ケアなど、より広い社会保障領域へも展開を進めるという。「ランジェMAP」という“秩序をもたらす地図”は、まだその進化の途上にある。

医療データの力を、社会の力へ

医療は、人の命と生活に直結する分野でありながら、経済性・制度設計・地域性といった複雑な要素に支えられている。その中で、情報という共通言語を軸に橋を架けていく存在──それが、ランジェであり、ランジェMAPなのだ。

膨大なデータの海に光を当て、誰もが使えるインフラへと昇華させる。その試みは、単なる医療DXを超え、社会の未来を構想する“道しるべ”になる可能性を秘めている。

株式会社ランジェ 代表取締役  山崎 淳氏
株式会社ランジェ 代表取締役 山崎 淳氏

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