100カ所で「脱炭素先行地域」を創出、脱炭素が生む地域の活力
今年6月に国・地方脱炭素実現会議が公表した〈地域脱炭素ロードマップ〉では、今後5年間で政策を総動員し、地域の脱炭素化を積極的に支援するとしている。また、100カ所の『脱炭素先行地域』を創出し、再エネ導入などさまざまな重点対策を進めていく。
2030年度までに100カ所の
『脱炭素先行地域』を創出
昨年10月、菅義偉首相(当時)は国内の温室効果ガス排出を2050年までに実質ゼロとする方針を打ち出すカーボンニュートラル宣言を行った。宣言を受け、政府は2兆円の『グリーンイノベーション基金』を創設し、脱炭素に向けたイノベーションを推進することとなった。また、今年6月には国・地方脱炭素実現会議で〈地域脱炭素ロードマップ〉が取りまとめられた。
「カーボンニュートラルに向けた温室効果ガス排出削減は『我慢を強いられる』というイメージをもたれがちですが、そうではありません。そのための戦略は、現在の不健康な経済や社会がもたらす地球の危機と向き合い、健康体にするための成長戦略です。ロードマップは、カーボンニュートラルをテコに地域がよくなり、地域経済が回ってさまざまな課題を解決できるという発想でつくりました」
環境省事務次官の中井徳太郎氏は、こう語る。ロードマップでは、今後5年間で政策を総動員し、人材・技術・情報・資金の面で地域を積極的に支援するとしている。そして2030年度までに少なくとも100カ所の『脱炭素先行地域』をつくるほか、全国で再エネ導入をはじめとするさまざまな重点対策を実施していく。
「重点対策は、100カ所の先行地域から全国に広げていきます。先行地域における対策は、まず民生部門の電力消費に伴う二酸化炭素(CO2)排出をゼロにするところから入ります。今からできることはたくさんあり、再エネ導入やサーキュラーエコノミー(循環経済)への転換を促進します」
8つの重点対策を通じて
再エネ普及を進める
ロードマップでは、脱炭素の基盤となる8つの重点対策を整理している。それらは①屋根置きなど自家消費型の太陽光発電、②地域共生・地域裨益型の再エネ立地、③公共施設などを含む業務ビルなどにおける徹底した省エネと再エネ電気調達、それらの建物を更新・改修する際のネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)化への誘導、④住宅・建築物の省エネ性能等の向上、⑤ゼロカーボン・ドライブ、⑥資源循環の高度化を通じた循環経済への移行、⑦コンパクト・プラス・ネットワーク等による脱炭素型まちづくり、⑧食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立だ。
図 脱炭素の基盤となる重点対策の例
このうち、住宅・建築物について環境省は昨年11月、関係省庁と連携し、関連業界の協力も得て『みんなでおうち快適化チャレンジ』キャンペーンを開始。断熱リフォームやZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)化、省エネ家電への買い換えを呼びかけてきた。
一方、ゼロカーボン・ドライブの促進では、再エネ電力と電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド自動車(PHEV)、燃料電池自動車(FCV)の利用を促進する。昨年度の第三次補正予算による補助事業では、再エネ電力とセットでEV等を購入する場合の補助額を、EV補助上限額を従来の40万円から80万円に倍増させる施策を始めた。これによって今年度のEV・PHEV・FCV販売台数を、従来の年4万台から年5万台に増やす目標を立てている。
地域循環共生圏と両輪で
脱炭素と地域活性を目指す
ロードマップではまた、3つの基盤的施策として①地域の実施体制構築と国の積極支援のメカニズム構築、②グリーン×デジタルによるライフスタイルイノベーション、③社会全体を脱炭素に向けるルールのイノベーション、を掲げている。
①では、自治体や地域の金融機関、中核企業を核にした体制を構築し、ここに多様な地域企業や公共機関が参画することにより、地域課題の解決につながる脱炭素化の事業や政策を企画、実行してもらい、国がさまざまな形で支援していく。
「他省庁とも連携し、人材、情報・技術、資金の面から支援します。その際、資金支援の仕組みを抜本的に見直し、複数年度にわたって継続的かつ包括的に支援できるようにしていきます」
同時に民間投資を促進するための出資など、金融手段の活用を含めて、事業の特性をふまえた効果的な形での実施を目指す。あわせて、環境・社会・ガバナンスに関するESG地域金融の案件形成や体制構築も支援していく。
②では、国民に脱炭素に向けた行動を自発的に選択してもらうためのライフスタイルイノベーションを目指す。そこではまず、製品やサービスの温室効果ガス排出量を見える化し、消費者が排出量の少ない製品やサービスを選択できるようにしていく。
また環境省は来年度、『グリーンライフ・ポイント』制度を創設する。この制度では、消費者がプラスチック製スプーンの受け取りを辞退したり、環境に配慮した商品・サービスを購入した場合などにポイントを発行する。さらに、脱炭素アンバサダーを任命し、脱炭素につながる行動に率先的に取り組んでもらう。
③では、改正地球温暖化対策推進法に基づき、地域共生・裨益型の再エネを促進するほか、環境アセスメントの最適化などによる風力発電の促進、地域共生型の地熱発電の開発加速、住宅・建築物分野の対策強化に向けた制度的対応を進めていく。
一方、環境省が第五次環境基本計画で打ち出した地域循環共生圏(=ローカルSDGs)は、地域の資源を活かして自立・分散型の社会を形成し、各地域が特性に応じて支え合うことで最大限の活力の発揮を目指すものだ。そこでは脱炭素社会、循環経済、分散型社会の3つに移行するための経済社会のリデザイン(再設計)を進める。これを後押しするため、環境省では人・モノ・金・ワザをつなぐ『環境省ローカルSDGs ―地域循環共生圏づくりプラットフォーム』も運営しており、事業構想大学院大学も連携協力を行っている。
中井氏は「地域循環共生圏では、都市から人やお金が農山漁村に回り、農山漁村から都市へは自然資源としてのエネルギーや食などが回ることを目指します。さらにCO2排出削減の取り組みが、地域の防災力向上や雇用創出、特産品の魅力向上などにもつながるような構想を展開していきます」と力強く締めくくった。
- 中井 徳太郎(なかい・とくたろう)
- 環境省 環境事務次官