自治体新電力の先進地が描く「湖南市版シュタットベルケ構想」

地域の自然エネルギーを活用し、地域循環共生圏と脱炭素の実現を目指す滋賀県湖南市。市民共同発電所や自治体新電力の〈こなんウルトラパワー〉を核に、さまざまな主体と連携しながら持続可能なまちづくりを進め、今後は『湖南市版シュタットベルケ構想』を進めていく。

池本 未和 滋賀県湖南市 環境経済部 環境政策課
地域エネルギー室課長補佐

『地域自然エネルギー地域
活性化戦略プラン』を推進

琵琶湖の南に位置する湖南市では、太陽光や森林などの地域資源を活用した自然エネルギーを核とする、地域経済活性化に取り組んでいる。

「市内には製造事業者が多く、年間約180億円のエネルギー代金が地域外に流出しています。また、市内の二酸化炭素(CO2)排出量は全国平均より高い水準です。このような中、地球温暖化防止の京都議定書が締結された1997年には、市民が1口20万円を出資し合い、太陽光発電所を設置しました。これは市民共同発電所のはしりとなり、湖南市は市民の環境意識が高い地域といわれています」

滋賀県湖南市 環境経済部 環境政策課 地域エネルギー室課長補佐の池本未和氏は、取り組みの経緯をこう説明する。市ではまた、2011年から総務省『緑の分権改革』事業として、人や資源、資金を地域で循環させ、成長していくための施策も実施した。そして2012年には全国初の『地域自然エネルギー基本条例』を制定し、その内容を実施するための『地域自然エネルギー地域活性化戦略プラン』を策定した。

「戦略プランを元に、地域資源を活用したエネルギーと経済の循環による地域活性化を進め、誰もが参画できるまちづくりを推進しています。戦略プランでは、持続可能な開発目標(SDGs)の経済・社会・環境の視点に立った基本方針も定めました」

自治体新電力を核に
地域課題の解決を目指す

一方、市ではスマートエネルギーシステムの導入検討事業や自治体新電力の事業可能性調査を実施した結果、これらの取り組みを通じてエネルギーの地産地消を進めれば、地域活性化につながると判断した。そして2016年には、自治体新電力〈こなんウルトラパワー〉を設立した。

図1 こなんウルトラパワーの実績

出典:池本氏 講演資料

 

その事業目的は、先に定めた戦略プランが掲げる基本方針の実現で、主な事業内容は①小売電気事業、②熱供給・熱利用事業、③新事業やまちづくり事業等地域振興に関する事業となっている。

戦略プランでは、自治体新電力が核となり、小規模分散型市民共同発電や家庭用太陽光発電買取、地域マイクログリッド構築など7分野でプロジェクトを推進するとしている。このうち小規模分散型市民共同発電では、固定価格買取制度を活用して市民から1口10万円の出資を募り、これまで1~4号機の太陽光発電所を設置した。

「大きな特徴は年2%の出資者への配当ですが、配当の支払いや元本の償還は地域内貨幣『こなん商品券』で行います。これは、地域の自然エネルギーを活用した地域経済循環の一助になっています。また、3・4号機は公共施設の屋根に設置し、普段は売電しますが、非常用電源にもなります」

さらに、こなんウルトラパワーでは、小売電力事業の利益を地域課題の解決につなげるさまざまな取り組みも進めている。公共施設の電力切り替えでは、電気料金を従来より11%(年約1000万円)削減できた。他には、保育園での省エネ型エアコン設置や公共施設等でのLED照明導入など、多彩な事業を実施している。

また、2017~2019年度には資源エネルギー庁の『省エネルギー相談地域プラットフォーム』に認定され、地域の中小規模事業者の省エネ相談を推進した。さらに、この事業がきっかけとなり、市内事業者への省エネサービス事業も成立した。

省エネサービス事業では、こなんウルトラパワーが資金を調達して設備を導入し、初期投資なしで学校のLED化や空調更新などを実現している。導入先からは設備利用への対価として、サービス料を受け取るスキームとなっている。

「自治体にとっては初期投資や予算の獲得が大きな課題のひとつですが、こなんウルトラパワーが設備投資を行い、導入先は削減した電気料金でサービス料が支払える仕組みです」

一方、再エネの導入では2018~2020年度に、こなんウルトラパワーの投資によって独自の電源(太陽光発電所4カ所、営農型太陽光発電所1カ所)を開発した。これらの再エネ導入や省エネ関連事業の資金調達で重要な役割を果たしているものに、〈グリーンボンド〉がある。

こなんウルトラパワーは2018年度に、自治体新電力会社では初のグリーンボンドである〈こなんウルトラパワーグリーンボンド1号〉(発行額1.1億円)を発行、翌年度には2号(発行額6000万円)も発行した。

「グリーンボンドは従来、大規模な額でなければ発行できないといわれていましたが、環境省にも相談し、全国で最小規模の額による発行が実現しました。その資金を活用した事業は市内だけでなく、周辺市町の省エネサービス事業にも活用されています」

SDGs未来都市として
シュタットベルケ構想を検討

湖南市では現在、自治体新電力を核として地域の自然エネルギーを活用し、地域循環共生圏の実現とSDGsへの貢献を目指す『湖南市版シュタットベルケ構想』も掲げている。

図2 『湖南市版シュタットベルケ構想』の案

出典:池本氏 講演資料

 

「シュタットベルケ(Stadtwerke)」とはドイツ語で、エネルギーを中心とした地域の公共サービスを担う会社を指す。湖南市の構想では、こなんウルトラパワーの小売電力事業の収益を元に、公共施設の管理や運営、公共サービスなど地域課題の解決につながる事業の展開を目指している。

このような取り組みが評価され、湖南市は2020年度に内閣府の〈SDGs未来都市〉に選定された。そして、昨年8月には脱炭素の実現に向けた『ゼロカーボンシティ宣言』も行った。

今年度から3年間はSDGs未来都市推進事業として、国の地方創生交付金を活用し、シュタットベルケ構想や、林業と福祉を連携させる『林福連携事業』などの検討を進める。

これらの取り組みを通じて、持続可能なまちづくりや地域循環共生圏の創造、そして脱炭素社会の実現を目指す。