『サイエンスとテクノロジーの経営学』 論文から最先端の知を獲得

論文には最先端の知が宿る

本書はアントレプレナーシップやイノベーションをテーマとしているが、特徴は、多数の定量論文をベースに同テーマについて議論を展開していることだ。

先端的な研究はまず論文という形で世に出るため、最先端の知を獲得するには論文を読む必要がある。そして学術的な審査を得て出版される論文は科学的なエビデンスを伴ったものであることが多い。定量的な分析や研究をもとに執筆された優れた定量論文を通じて、知の創造、新事業の創造について最先端の知見を提供することが本書の狙いである。

著者の牧兼充氏は技術経営、アントレプレナーシップ、イノベーション、科学技術政策などを専門としており、早稲田大学ビジネススクール准教授として「科学技術とアントレプレナーシップ」の授業を担当するほか、カルフォルニア大学サンディエゴ校ビジネススクールの客員准教授を兼任している。日米における豊富な研究・人材育成の経験を活かし、事業開発の重要テーマとそれに関する選りすぐりの論文が紹介されている。

テーマごとに3つの論文を紹介

具体的には、「イノベーションは誰が担うのか」「アントレプレナーシップはどこから生まれるのか」「アントレプレナーの活動を促進するものは何か」「スターサイエンティストはなぜ重要か」「大学発ベンチャーはイノベーションを促進するのか」などの章ごとに、著者が厳選した先端的な論文を3本ずつ取り上げている。

例えば「インセンティブは発明とビジネス化にどの程度重要なのか」という章では、研究者の創造力を高めるために研究費の中間評価は有効か、成果主義はイノベーションにつながるのか、どのようなキャリアの人材にどのような環境を提供すれば意欲的な研究が行われるのか、といったテーマについて、論文やその実験内容をもとに詳細に解説している。

アントレプレナーシップやイノベーションに関する書籍は世の中に溢れており、著者(多くは成功した経営者である)の体験から理論が構築されている書籍も少なくない。もちろん、体験から学べることも多々あるが、本書のように、最先端かつ優れたアカデミックの理論をベースにイノベーションやアントレプレナーシップを学ぶことも、事業構想家にとって不可欠だろう。企業の経営者や新規事業開発担当者はもちろん、行政・自治体の政策立案者にとっても多くの学びが得られる書籍である。

また、本書では定量論文の読み方や探し方についても多くのページを割いて説明している。今までアカデミック論文と縁遠かったビジネスパーソンに新しい知識を獲得するスキルを提供しており、その意味でもぜひ手にとってほしい一冊だ。

 

イノベーターのための
サイエンスとテクノロジーの経営学

組織を強くする冒険人材の育て方

  1. 牧 兼充 著
  2. 本体2,600円+税
  3. 東洋経済新報社
  4. 2022年4月

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