オープンイノベーション対決 KDDI vs JR東日本

生活者の想像を超える体験価値や利便性を提供し、企業が柔軟に成長していく上で、オープンイノベーションは欠かせない手法となった。通信からライフデザインまで幅広く手がけるKDDI、鉄道を主軸に未来の街づくりを志向するJR東日本の取り組みを見る。

オープンイノベーションに意欲的な巨大企業2社

企業が新たな体験価値や利便性を提供していく上で、オープンイノベーションは欠かせない手法となった。通信からライフデザインまで幅広く手がけるKDDI、鉄道を主軸に未来の街づくりを志向するJR東日本という、膨大な経営資源を持つ2社も、新興企業との共創を意欲的に進める。

KDDIは2011年から事業共創プラットフォーム「KDDI∞Lab」を開始し、鉄道や金融、不動産など様々な領域の大企業とスタートアップ企業を結びつけて、多くの提携事例を生み出してきた。解決したい課題を持つ「パートナー連合」は約70社を数え、スタートアップのアイデアやソリューションにアセットを提供、支援する。また、パートナー連合2社以上で策定したテーマに基づいて新規事業を創出する「∞の翼」という仕組みも用意されている。

2012年に設立されたCVC「KDDI Open Innovation Fund」によるスタートアップへの投資も着実に拡大し、3号ファンドではAIやビッグデータなど先進技術分野での取り組みを強化している。2018年には、斬新なビジネスアイデアを持つ多様なスタートアップが集い、ソリューションの構築・検証をスピーディーに進める拠点として「KDDI DIGITAL GATE」も開設。現在、大阪や沖縄にも展開して地域企業との連携を進めている他、2020年には「ニューノーマル」時代のライフスタイルを研究・共創する拠点として「KDDI research atelier」も開設した。

これから本格化する5G/IoT時代、通信やセンシング、そしてAIの進化によって、暮らしもビジネスも大きく変わる。KDDIが持つ豊富な顧客基盤や先進的な技術インフラはオープンイノベーションによって多様に再構築され、これまでにない革新的サービスの創出や社会的課題の解決に活かされていく。

JR東日本は、2017年からベンチャーとの共創を推進すべく「JR東日本スタートアッププログラム」を開始し、翌2018年、これを強化するためにCVCである「JR東日本スタートアップ」を設立した。その出資領域は、人・モノ・情報を結びつけて利便性を高めるサービスや、スムーズで快適な移動、多様な人々が集い、楽しめる駅づくりなど、JR東日本の持つアセットの価値を最大化する事業を対象とする。

同プログラムでは、これまで、荷物預かりサービスの「ecbo cloak」を開発したecboや、食品ロス削減に向けたフードシェアリングアプリ「TABETE」を展開するCoCooking、群馬県の無人駅・土合駅にグランピング施設を開設したVILLAGEなど、今やすっかり定着したビジネスに出資してきたほか、JR東日本の経営資源を活かす実証実験も数多く実施してきた。スタートアップが巨大組織JR東日本の関連部門を巻き込み、スピーディーに事業化していく上で、JR東日本スタートアップは、文化の異なる両組織の橋渡しとしての役割も果たす。

JR東日本は同プログラムの他、シード、アーリー向けの「未来変革パートナーシップ」も用意し、通年募集している。また、プログラム採用企業や資本業務提携企業に、共創の場として「STARTUP STATION」も開放する。2021年には、東京・新大久保駅ビルにシェアダイニングやコワーキングスペースなどを備えたフードラボをオープンした。様々な国籍の人が行き交う新大久保の地で、食をテーマにした起業や共創、コミュニティづくりを促す実験場だ。駅を起点にビジネスの新たな価値創造を志向するJR東日本の射程は、きわめて広い。

巨大企業が持てるアセットを惜しみなく提供し、スタートアップがそのポテンシャルを最大限に引き出し、さらに新たな価値を加えていく。コロナ禍を経て暮らしやビジネスが大きく変わり、様々なパラダイムシフトが進む今、そうした好循環を生むオープンイノベーションから、さらに革新的な取り組みが生まれることに期待したい。

両社の概要

KDDI

設立 1984年
所在地 東京都千代田区
代表 高橋 誠(代表取締役社長)
資本金 1,418億5,200万円
従業員数 連結:48, 829名(2022年3月)
主な
事業内容
●パーソナルセグメント(パーソナル+ライフデザイン領域、
グロー バルコンシューマー)
-「 au」ブランドのスマートフォン、携帯電話FTTH/CATV
サービス
- コマース、金融、エネルギー、エンターテインメント、教育など
●ビジネスセグメント(ビジネス、グローバルICT)
- 法人向けスマートフォン・ネットワーククラウドソリューション
-「 TELEHOUSE」ブランドのデータセンター
サービス など
主な
グループ
会社数
●移動通信:5社●固定通信:1社●インターネット関連:6社
●コンテンツ・メディア:11社●CATV:1社●リサーチ:2社
●ネットワーク建設:5社●情報通信エンジニアリング:7社
●コンタクトセンター:1社●DX:1社●金融:9社
●物販・EC:4社●エネルギー関連:2社●教育:3社 など
●海外拠点:アメリカ4、アジア・オセアニア30、欧州10

出典:ホームページ(会社概要、投資家情報)

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