盛岡市「AI人流・交通分析システム」を導入 データで進化するまちづくり

盛岡市等が出資するタウンマネジメント機関である、盛岡まちづくり株式会社は2023年3月、市中心市街地にAIを活用した人流・交通分析システムを整備した。人流分析・交通分析はまちづくりをどのように進化させるのか、市関係者とシステム開発を行った民間企業に聞いた。

人流分析のイメージ画像

人流・交通量を常時把握

行政運営やまちづくりにおいて、人流や交通量の把握は極めて重要だ。盛岡市と盛岡まちづくり株式会社はデジタル田園都市国家構想推進交付金を活用し、2023年3月に盛岡市中心市街地に「AI人流・交通分析システム」を導入した。市街地各所に設置されたカメラが撮影した映像内の人物や車両について、AI技術を用いて時間帯毎の属性を分析し、WEB上のダッシュボードへ分析データを出力表示するシステムで、リアルタイム計測にも対応する。

分析結果はダッシュボード上にわかりやすく表示

 

導入の背景について、盛岡市経済企画課の小野哲治氏は次のように語る。

「盛岡市ではこれまで、人手による人流・交通調査を行っていましたが、年2日間のみの調査に留まり、行政運営に活かすための十分なデータの取得ができていませんでした。また、市や盛岡商工会議所が出資して設立した盛岡まちづくり株式会社のタウンマネジメント機能を高めるためにも、有用なデータの取得が必要だと考えました。そこで、最新のAI技術等を用いて人流・交通を常時把握できるシステムの導入検討を始めました」

システム開発を担当したのは電気興業(DKK)、サイバーコア、コスモ通信システムの3社。DKKはカメラソリューション及び全体のシステムインテグレーションを担当、サイバーコアは画像分析AI技術およびクラウド技術を提供し、コスモ通信システムが施工を行った。特にサイバーコアは米国国立標準技術研究所が実施した顔認証技術のベンチマークテストで世界9位、日本企業中1位になるなど、その技術力の高さは世界的に認められている。

民間ビジネス支援や、
データに基づく政策立案を実現

「プロジェクトでは、盛岡駅前や大通り交差点など市街地に13台のソーラーパネル付きカメラを設置しました。電源不要で運用コストも抑えられます。固定式に加えて可搬式カメラシステムも2台導入し、『盛岡さんさ踊り』などのイベント時の人流分析に役立てる予定です」(DKK・北條義勝氏)

取得・分析されたデータは、Web上のダッシュボードに出力表示される。マップ上から設置場所ごとの人流・交通量を時系列で分析できるほか、人流は世代属性(4階層)や性別、交通では大型車・普通車・二輪車・自転車といった車種も表示される。こうした詳細分析はデータ取得の翌日に表示できるほか、リアルタイムでの人流の速報値を公開している。

盛岡まちづくり株式会社の北島学氏は「これまで目視でなんとなく判断していた客層を、いつ、どんな年齢層の方が来ているのかまで細かく分析し、わかりやすいグラフで表示できるようになりました。システムを各商店街に紹介していますが非常に好評で、特に青年部を中心に『こんなことに使えるのでは』と活発にアイデアが出てきています。従来の人手による人流・交通調査に比べてランニングコストはかなり抑えられる見込みで、運用面でも手応えを感じています」と語る。

北島 学 盛岡まちづくり株式会社

データは地元の商店・企業をはじめとする民間企業のマーケティングや事業活性化への活用に加えて、行政における政策立案や地域課題の解決にも役立てていく。

「盛岡市では中心市街地活性化まちづくりプランを策定し、その成果指標として、『歩行者・自転車通行量』を掲げていますが、これまでは把握することができなかった時間帯別や曜日別の人流・交通量について年間を通して把握できるようになったことで、より確かな根拠に基づいた施策の立案や評価が可能になると考えています。また、市が掲げる『ウォーカブル推進都市』の実現に向けて、街中の回遊性・滞留性の向上が、消費の活性化につなげられるようなイベントの企画や、新規出店の支援などにも活用できると考えています」(盛岡市・小野氏)

データ蓄積で「予測」も可能に
全国の自治体にシステムを展開

AI人流・交通分析システムは導入がゴールではない。盛岡市とプロジェクト参画各社は、データの蓄積や連携を通じて、さらにシステムを進化させていく方針だ。

「今後は天気情報データや、商工会議所や商店街などが出資している会社が運営する地域循環型決済アプリの決済データと連携することで、地域経済の立体的な把握の足掛かりとなり、イベント時などの客足や消費行動の“予測”といったより高度なデータ分析も可能になると考えています」と盛岡市の小野氏。サイバーコアの坪内弘毅氏も、「約1年分の人流・交通データを収集できれば、客足の予測は可能になるでしょう」と述べる。さらに、「今後、画像分析AIの進化や設置するカメラの台数の増強によって、外国人観光客の判別も可能になる見込みです。このほか、獣害対策などにもAIカメラは活用できるでしょう。今後もシステムの高度化を通じて、地域でのPDCAサイクルの精度が向上する仕組みの構築に貢献していきたいと思います」と意気込む。

DKKとサイバーコア、コスモ通信システムのそれぞれの強みを活かして開発されたAI人流・交通分析システムは、今後、他の地方自治体や公的機関、民間企業にも販売していく。「人流・交通調査に関する悩みは全国の自治体に共通することですので、行政運営やまちづくり、地域活性化に有効なシステムとして、積極的に提案して参ります。また、可搬型カメラシステムでは、全国の大規模イベントや交通量調査会社との連携も目指していきます」(DKK・高尾英久氏)

高尾 英久 電気興業 営業統括部 ソリューション営業部長

 

盛岡市長 谷藤裕明氏

ポストコロナにおけるまちの賑わい創出に向け、中心市街地におけるCity WiFiの整備に加えて、AIなどのデジタル技術を活用した人流・交通分析に係る新たな仕組みを構築したところです。今回の未来技術の社会実装や、データの利活用にむけた官民連携の取組は、自治体の事例としても先進性が高いものであり、今後も商店街や地域企業が活用しやすいプラットフォームを目指し、積極的な展開を図っていきたいと考えております。ニューヨークタイムズ紙の「2023年に行くべき52カ所」でロンドンに次ぐ2番目に紹介された盛岡市のまちづくりに注目いただきたいと存じます。

 

【お問い合わせ】 盛岡まちづくり株式会社
TEL:019-605-8886
メールアドレス:value01@ccimorioka.or.jp
URL:https://denkikogyo.co.jp/

【お問い合わせ先】 電気興業株式会社
TEL:03-3216-9435
メールアドレス:chuo5g-eg@denkikogyo.co.jp
URL:https://morioka-machidukuri.jp

 

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