社会人院生に聞く 広報・コミュニケーションの学び直しを選ぶ理由

広報プロフェッショナルを養成する社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科には、日々忙しく仕事をしながらも、学び直しに励む社会人学生が集まる。その原動力は何なのだろうか。対話を重ねる中で、4つの理由が見えてきた。

多忙なのに「学び直す」理由

コミュニケーション戦略を専門とする国内唯一の専門職大学院「社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科」の社会人院生は、日々「コミュニケーションの本質」を捉えるための学びに取り組んでいる。

本研究科の入学定員は1学年30名で、今年で2017年の開学から7 年目を迎えているので、これまでに200名を超える社会人が本学の門を叩いた計算になる。日々の仕事に忙殺されるなかで、国内では(まだ)一般的とはいえない「学び直し」の場に飛び込むことは大きな覚悟が必要な決断といえるかもしれない。本稿では、本研究科の院生がなぜそれでも「広報・コミ ュニケーションを学びたい」あるいは「学ぶしかない」と考えるに至ったのか、実際の声をふまえて解説する。筆者が院生や修了生と対話を重ねるなかで見えてきたのは、図に示されるような、それぞれ相互に重なり合う4つの理由であった。

図  コミュニケーションデザイン研究科で学び直す4つの理由

プロフェッショナルになりたい

本学を含む専門職大学院は「社会の変化に対応できるプロフェッショナル」を養成しているので、図の左上のように「広報・コミュニケーションの専門家になりたい」と考える入学者が多いのはある程度予想できるかと思う。たとえば、これから専門家としてのキャリアを歩んでいきたいと考えている方は、業務の前提としての「思考力を鍛えたい」、あるいは「他社(他者)への助言ができるようになりたい」といった意識から入学を決めている。もちろん、この分野の「専門性を示す資格」として大学院の学位取得を目指す方もいる。

一方で、ある程度の実務経験を積んだ方々には「経験から独自の理論を打ち立てたい」あるいは「後進にやりがいを伝えたい」といった目的意識もみられる。これらは「自身がこれまでに蓄積してきた広報・コミュニケーションの実践知を他者に伝達できる形式知に進化させたい」と言い換えることもできるだろう。

本研究科には20代から60代以上まで多様な年代の院生が所属しているが、実務歴の長い方とそうでない方との間でも「学び合い」の場が生まれることは、社会人大学院ならではだ。

理論と実践を体系的に学びたい

図の右上「理論と実践を体系的に学びたい」は、これまでに同分野の学びを経験してこなかった方々が抱く危機感がその背景にある。厚生労働省の「職業能力評価基準」にも示されるように、国内における「広報・コミュニケーションの学び」はそのほとんどがOJTによるものであり、それを体系的に学んだ専門家が全国的に確保されているわけではない。

本学の院生にとって、職場に「体系立てられたナレッジがない」こと、そして「経験や感覚に頼ることの限界」を感じたことは、大学院進学の大きな要因となっている。さらに、社会が急速に変化するなかで、既存のマニュアルを含む「前例踏襲の限界」は明らかであり、そうした状況を打破するために「多様な仲間と出会う場がほしい」と考えるのも自然なことといえるだろう。「ハウツーを超えた戦略の提案」に取り組むためには、これまでとは異なるコミ ュニティで新たな視点を身につけることが必要不可欠なのだ。

具体的な業務課題を解決したい

入学者の多くが本研究科の教育課程に期待するのは、図の左下、すなわち大学院で身につけた知見を用いて「組織の抱える課題を解決したい」というものだ。本研究科の授業では、「理論と実践の融合」の視点のもと、机上の空論にも特殊な事例の焼き直しにもとどまらない学びが提供されている。また、2年間を通じて院生一人ひとりがコミュニケーション課題に関連する特定のテーマを設定し、その解決策を提言する「研究成果報告書」を作成することも本研究科の特徴のひとつだ。

具体的には、医薬品業界など「広報活動が法令で制限される」場合にどのようなコミュニケーションデザインが有効なのか、「重要なのに社会の関心が薄い」事業についてどのようにステークホルダーとの関係構築を図っていくべきか、 あるいは組織内での部門のプレゼンスを高めるため「広報のKPIを策定したい」といった課題が研究されている。

この点については、もちろん実際の課題が解決されることが望ましいものの、「課題を構造化し探究するプロセスを経験すること」それ自体が、ビジネスの場にも応用可能な一連の能力を養うチャンスであると考えられる。

社会の変革に貢献したい

先に述べたように、情報技術の発展やコロナ禍を経て、社会は急激な変化を経験している。誰にも正解が分からないなかで、たとえば「共生のための対話を実現したい」あるいは「新たな価値観に沿った事業展開を支援したい」というときに、コミュニケーションの専門家が果たすことのできる役割はますます拡大している。

図の右下「社会や組織の変革に貢献したい」とあるように、状況に振り回されるだけでなく、コミュニケーションの観点から社会や組織を変革していきたいと考える方にとって本研究科は理想的な環境といえるかもしれない。昨今では「アフターコロナのコミュニケーションを構想したい」という院生も多く在籍しているが、そのような、これまでに誰も考えたことのない事柄について探究するためには、先に述べた「体系的な学び」や「他者との対話」がショートカットを提供するだろう。

そして、これまでに紹介した「4つの理由」にかかわらず、すべての院生・修了生に共通していたのが、図の中央「まわりに専門人材がいない」というものだ。これらが多忙な社会人が本学で学ぶ理由、あるいは学ばねばならなかった理由であると整理できる。

なお、本学では2020年度以降、主に4月から新しく広報・コミュニケーション業務の担当者になった方を対象として9月入学の制度を整備している。対面の授業をリアルタイムでオンライン配信する「ハイフレックス形式」を採用しており、地方在住の社会人院生も多く在籍しているので、この機会にぜひ「学び直し」を検討いただきたい。

 

橋本 純次(はしもと・じゅんじ)
社会構想大学院大学 専攻長・准教授

 

社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科
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