創業120年の石油商社 脱炭素社会を見据えた新規事業開発

脱炭素化や燃料価格の高騰が石油業界の経営を圧迫する中、新潟県で120年以上の歴史を持つ石油商社ハヤマは、時代の要請に応える新たな事業開発を進めている。4代目社長の早山康弘氏に、新規事業開発の経緯や大学院での学びなどの話を聞いた。

早山 康弘 ハヤマ 代表取締役社長、事業構想修士

脱炭素化に貢献する
新たな成長ドライバーを模索

古くから石油を産出し、現在も日本一の産油量を誇る新潟県。この地で1899年に製油業として創業したハヤマは、1942年に昭和シェル石油(現出光興産)の前身である昭和石油の設立に参画。その後、昭和石油の特約店となり、急速なモータリゼーションの発展とともに成長し、県内業界において確固たる地位を確立した。現在は、新潟を拠点に陸運業・船舶業・製造業等への産業用エネルギーの販売やガソリンスタンドの運営を行っている。

新潟県は明治以降全国有数の産油県となり、ハヤマ初代の早山与三郎氏は昭和石油の設立にも参画した人物だ(写真は1930年代頃の新津油田)

ハヤマ代表取締役社長の早山康弘氏は同社を2010年に承継し、以降はミニローリーによる灯油の巡回販売や、法人向けの高圧電力の販売などの新規事業に取り組んだ。曽祖父の代から続く家業を守り育てていく中で、「エネルギー業界を取り巻く環境の変化を見据えると、脱炭素化に貢献する新たな成長ドライバーが必要でした。会社が長期にわたり生き残るためには、従来型のMBA的なアプローチが重要だと感じる一方、全く新しい領域で事業を構想し、将来の事業の柱としていく必要もあると考えました」と振り返る。こうした想いを胸に、早山氏は事業構想修士(MPD)を育成する事業構想大学院大学東京校への入学を決めたという。

「新潟からの通学には片道3時間が掛かりますが、1年次は週末の講義を中心に受講し、2年次はオンライン講義を活用するなどの工夫により、興味のある科目を柔軟に履修することができました」

脱炭素社会を見据えた新規事業
洗車専門店を5月にオープン

今年5月1日にオープンした県内最大級の洗車専門店「スーパーウォッシュ東新潟」は、ドライブスルー方式により最短60秒で洗車が終了する設備の他、カーコーティング専門ブースを設置。ガソリンスタンドに行かなくてもスピーディーに洗車できるだけでなく、コーティング技術EX1級資格を持つ技術者によるハイレベルなコーディングや、しつこい臭いや汚れを落とす車内清掃などのサービスをワンストップで受けることができる。「ガソリンスタンドに行かなければ洗車ができない」、「洗車の待ち時間をなるべく短縮したい」「従来の洗車機だと、洗い残しや傷が気になる」など、これまでの洗車に対する不満を解消するビジネスモデルと言える。

 

最速60秒で洗車ができるドライブスルー洗車やカーコーティング、車内清掃などがワンストップでできる洗車専門店「スーパーウォッシュ東新潟」を5月にオープン

この洗車ビジネスの事業構想計画書で、2020年にMPD修士号を取得した早山氏は「ガソリンで走ろうが、電気や水素で走ろうが、今後も自動車は残ると仮定すると、車をきれいにしたいというニーズが消えることはないと考えました。また、当社では直営給油所を複数経営していますが、ガソリン需要の減少や後継者不足などにより、今後は給油所が減少していくことが予想されます。そのため、給油所に行かなくても洗車ニーズを満たせるよう、洗車を給油所と切り離したビジネスに活路を見出したのです」と話す。

洗車ビジネスの構想自体は入学前から温めていたものだったが、入学後は実務家教員による2つのゼミを受講し、洗車の不満に関するアンケートを実施するなどして、構想に磨きをかけていった。

「洗車をしたいタイミングは、雨の後の晴れの日が多いため、洗車をしたい日が集中し、給油所に行列ができることが多くあります。そうしたアンケートから見えてきた不満を全て潰していったのが、今回の新規事業です」

新聞の折込チラシなどの従来型のマーケティングに加え、インターネットやSNSを活用したオンラインによる告知も実施したところ、「オープンニングイベントでの反響は大きく、予想を上回る来店がありました」と語る早山氏。今後は、路面店だけでなく、ショッピングセンターなどの駐車場を利用した小規模店を手掛けるなど、他店舗展開も視野に入れている。例えば、コンビニやコインランドリーのように、フランチャイズ経営で横展開を図っていく。

新規事業開発部を新設し
新たなビジネスの創出へ

目下の目標は新潟を拠点に他地域での横展開を図ることだが、昨年から新規事業開発部を立ち上げ、今までの延長線上にはない新しいビジネスの創出も目指している。

「新規事業を開発したい方はたくさんいますが、リスクを取って経営者になるよりも、企業と雇用契約を結び、社員として新規事業に携わりたいという方も多くいます。そうした方と一緒にビジネスプランを立案し、新たに事業を複数立ち上げたいと考え、外部から新規事業に意欲的な人材を新たに3名採用しました。会議を進めるに際し、大いに参考になったのが事業構想大学院大学でのゼミのスタイルです。毎週、事業アイデアを発表し、それに対して同期や教授から意見をもらったりディスカッションしてきたように、今度は私がうまく会議をファシリテートしながら、満足度の高い合意形成ができるように進めています」。現在は、今冬に障害者雇用の支援事業を開始できるよう、スピード感を持って事業開発を進めているという。

大学院での学びについては「毎週新規事業案を考えて発表するなど、実践的なカリキュラムに四苦八苦することもありましたが、社会人としての経験が豊富で、優秀かつ熱心な同期たちに助けられることも多く、同期の存在があったからこそ卒業まで通い続けられたのだと感謝しています。この2年間での経験は経営者としての礎になったと感じています」と早山氏は語る。

今後も地域に根ざした老舗企業として、ハヤマは地域と共に持続可能な発展を目指していく。