内閣官房と経済産業省の地域経済分析システムRESAS、V-RESAS

人口減少や東京一極集中が急速に進むなかで、地方公共団体に求められているデータ活用とEBPMの推進。内閣官房と経済産業省はそれをサポートするため、2つの地域経済分析システム「RESAS」「V-RESAS」を提供している。その活用について紹介していく。

角田 憲亮 内閣官房 デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
ビッグデータチーム 企画官

対地域経済関連のビッグデータを
可視化する「RESAS」

地方創生版・三本の矢の情報支援として2015年4月から提供がはじまった「RESAS」は、地域経済に関連するさまざまなビッグデータを「見える化」するシステムだ。「初心者でも簡単に使えるため、自治体の現場で幅広く活用いただいており、年間で1000万以上のプレビューをいただいております」(角田氏)。誰もがWeb上で利用することができ、人口マップや地域経済循環マップ、産業構造マップなどの9つのマップと、詳細な86の機能で構成される。

RESASの表示画面の例。統計データに基づき、ユーザーが知りたい情報を可視化できる

主な機能をいくつか見てみると、「人口構成」は年齢階級別に人口構成や人口推移を人口ピラミッド/折れ線グラフの形で表示する。それにより今後のインフラ整備の方向性や医療・福祉政策等の検討、複数自治体をまとめる形で人口構成や人口推移を把握・予想することも可能になる。

「将来人口メッシュ」は、人口および将来推計人口について総数・増減数・増減率を1kmメッシュ単位でヒートマップ表示したうえで、各種施設から指定した距離に居住する人口がどのように変化するかをグラフで表示する。「たとえば、ある図書館周辺の人口の増減がわかるので、今後の施設需要の動向を把握でき、まちづくりの検討に活用することができます」。

「地域経済循環図」は、地域のお金の流れを生産・分配・支出の3段階で「見える化」することで、地域経済の全体像と各段階におけるお金の流出流入の状況を把握に役立てられる。地域の外から何が流入し、何が流出しているのかを分析することができ、地域経済の好循環を実現するうえで改善すべきポイントを検討することが可能になる。

「賃金構造分析」は産業別の雇用者従業者シェアと平均賃金をスカイラインチャートで表示することにより、どの産業に賃金が多く払われているかなど、地域の所得水準の分析ができ、都道府県間で産業別に雇用者・従業者数と平均賃金の関係を比較することも可能だ。

これらの機能をもつRESASは、地方自治体が地方版総合戦略を策定する際に活用するケースが多いという。「徳島市では従業者数の推移から3次産業の割合が多いことを把握され、人口減少が進むことで地域全体の雇用機会の減少が進むことを懸念し、対策を検討されています」。このほかにもニセコ町や鹿児島市などがRESASを用いて現状や課題の把握、対策の必要性の確認、対策の方向性の検討などを行っている。

また、別のケースでは地方自治体の政策判断の際にRESASを活用することもある。「福岡県うきは市は、以前は福岡市への観光PRを行っていたそうですが、RESASを用いた分析により、想定よりも福岡市からの観光客は少ないと判明し、佐賀や大分を含む近隣地域と連携したPRに力を入れています」。同様の事例が北海道札幌市でもあり、REFASが地方で着々と活用され、その効果を証明している。

感染症や災害などの影響を
リアルタイムで可視化する「V-RESAS」

2020年6月から運用スタートした「V-RESAS」は地域経済における感染症や災害等の影響をリアルタイムで可視化するシステム。経済の足元の状況を把握するために速報性を重視した設計で、データ入手後に自動更新される。

V-RESASはその時々の経済の状況を把握できる、より速報性の高い情報に基づくデータを可視化

主な機能を見てみると、「人流」はGPSデータを使って滞在人口や移動人口を掲載。また、「滞在人口の動向」では2019年同週と比較した時間帯別の増減がわかり、対人サービス業など感染症による人流減少の影響を受けた業種の置かれた環境を把握できる。

「地域別時間帯別の滞在人口」は、各地域において域外からの人々の流入状況や、その内訳が県内なのか、または県外であるのかを把握することが可能だ。時間帯別内訳では、1日の中でどの時間帯にどこから人々が流入しているかといった人流の内訳を把握でき、さらに平日と休日における人流の変化を時系列でアニメーション再生することで変化を視覚的に捕捉できる。

「宿泊者数」は宿泊予約サイトの宿泊予約データから宿泊者数を2019年同期比で表示。新型コロナウイルスが流行する以前と比べて、居住地別の宿泊者数の変化などを分析できる。

V-RESASの活用事例も既に生まれている。北海道では道民の道内旅行を対象とする「どうみん割」が2020年の7月からはじまり、V-RESASで北海道の宿泊者を住所別にみると、北海道住民の宿泊が7月から急増しており、この効果が分析できたという。

また、民間事業者でも成功事例が出てきている。「ある温泉観光地において、もともとは団体観光客がメイン顧客でしたがコロナ感染拡大後は団体客が減少し、個人客や男女二人といった少人数での利用者が増加していることがV-RESAS上でも確認されました。このため団体客向けであった商品ラインナップを個人客向けのラインナップに変更することができたそうです」。このような事例が生まれ、共有されることで、V-RESASはさらにさまざまな地域で利用されていくだろう。

研修やアイデアコンテストなど
普及啓発活動を積極的に行う

角田氏が所属する内閣官房ビッグデータチームは、これら2つの地域経済分析システムについて、多様な方法で普及啓発活動を行っている。

たとえばRESAS研修・各局の「出前講座」は、各地方経済産業局の政策調査員により、地方公共団体、教育機関、商工会議所等において、RESAS分析手法や活用事例を紹介する研修活動を行い、年間で200件程度を実施している。

また、「地方創生☆政策アイデアコンテスト」を開催し、RESAS、V-RESASを活用して地域の状況を分析し、データの力で地域を元気にするアイデアを広く募集し、地方創生担当大臣賞等を授与している。今年も1500件以上の応募が寄せられており、12月9日の最終審査会で受賞者が決定する。

ほかにも地方公共団体における政策立案ワークショップの開催、「RESAS Portal」における活用事例の提供、オンラインセミナーの実施、高校等向けに8種の授業モデル(RESAS副教材)の提供など、さまざまな取り組みを精力的に行っている角田氏は、講演の最後に「私どもビッグデータチームでは、ぜひ自治体の皆様にRESASやその普及啓発策をご活用いただいて、データの活用を進めるご支援をさせていただきたいと思っております」と今後の展望を述べ、締めくくった。