金融系企業の広報担当 業界外へも伝わる発信を考える貴重な機会に

実務を続けながら専門職大学院で学び直すことで、何が得られるのか。コミュニケーションデザイン研究科で「リスク・コミュニケーション」について研究した修了生と橋本純次 専任講師が語り合った。

(左から)社会構想大学院大学コミュニケーションデザイン研究科 専任講師 橋本 純次氏、
修了生 正木 孝枝氏。

「知識の蓄積がない」ことへの不安

橋本 正木さんは入学当時、金融系企業の広報担当者として経験を積んで3年目くらいのタイミングでしたね。

正木 広報の職に就いてから3年、先輩に仕事を教わりながら日々の業務に取り組む中で広報の面白さを感じていました。その反面、業界や社会の環境が変化し、新たなメディアも次々に登場する状況で、会社としての知識の蓄積がないままそこに対応できるのだろうかという不安も抱くようになっていました。社会の変化について他社の広報担当者がどう考えているのだろうか、ということにも関心を持っていた時に、会社から大学院を紹介されたのです。仕事との両立が可能であるかなど迷うこともあったのですが、最終的には入学を決めました。

橋本 実務が多忙な中で2年間の大学院生活を送ったわけですが、学び直しと実務を両立するコツのようなものは見つかりましたか?

正木 自分の中でのタスクをこれまで以上に細分化してスケジューリングすることです。そしてまわりの人に話して協力を仰ぐこと。コツはこの2つだったと思います。周囲も「学びたい」という気持ちに共感してくれましたし、「学んだ内容を教えてくれるとありがたい」とも言ってもらえました。特に授業で学んだ他社事例については頻繁に情報共有をしていました。

橋本 自分ひとりが学ぶだけではなくて、ほかの方への刺激も与えられたわけですね。印象に残っている授業はありますか?

正木 「オーディエンス・リサーチ」で学んだことは最大の収穫でした。広報はメディアへの働きかけだけではなく、社会動向を知らなければいけない立場ですが、そのための社会調査の手法を学ぶ機会がなかったからです。この学びは非常に意味があったと思います。あとは、授業の中で毎回のようにディスカッションがあったのですが、他業界・他社のみなさんと継続的に話をする中で、特定の業界や個別の会社でしか通じない用語や感覚がたくさんあることに気づかされました。そうした状況を前提として「他者に何かを伝えるためにはどうしたらいいのだろう」ということを考え続けることができたのは貴重な時間でした。「学び」というものが大学生の頃とまったく違う世界になっていることにも驚かされましたね。

図1 コミュニケーションデザイン研究科での「学び直し」で身につくこと

修了後も「学び」が習慣に

橋本 研究成果報告書は「企業におけるリスク・コミュニケーションの在り方について −リスク認知と共考を中心に−」というタイトルでした。苦労した点はありましたか?

正木 論文そのものの書き方が分からないということもあったのですが、それ以前に何か疑問を持った時に「なぜ自分はこれを疑問に感じたのだろう」、「それを証明するにはどうすればいいのだろう」ということを突き詰めて考えたことがなかったと気づきました。ところが取り組んでみると、これが意外と面白くて、論文のテーマとしては人が飛びつくような内容ではないのですが、大きな満足感を得ることができました。今後もさらなる学びにつなげていきたいと考えています。

橋本 企業のリスク担当者がしばしば直面する疑問や問題に正面からぶつかる研究でしたね。研究の方法や論理構成も含めて、後輩の皆さんもずいぶん参考にしているようです。学び直しをして「これが一番良かった」というものは何ですか?

正木 一番は「今、世の中で起きていることを言語化するには学ぶしかない」と気がついたことです。修了後の現在も日常の中で学問との接点を持っていたくて、仕事の合間に論文を読むことが習慣になりました。「専門職大学院」と聞くと、通常の大学院と比べてアカデミックな部分に質的な差があるのかと思っていたのですが、2年間の学びを通して、そこには違いがないということを実感しました。一方で専門職大学院ならではだと感じたのは、社会人学生の実務との両立への配慮が行き届いていること。働きながら学び直しをしたい方にお勧めできます。

職場を越えた関係構築の大切さ

橋本 コロナ禍での大学院生活でしたが、ハイフレックス形式の授業(対面授業のオンライン同時配信)はいかがでしたか?

正木 チャットで気軽に質問できたり、緊張せずに授業に参加できたりと、良いところばかりでした。授業中の日常的な対話を通じて、ほかの学生とも強いつながりを持つことができました。修了後にも関係が続いていますので、自分が仕事をしているだけでは絶対に知り合えない方々と仲良くなれたのは財産ですね。そうした方々との対話を通じて新しい考え方がお互いの中に生まれてくる体験ができたのは、とても良かったです。

橋本 コミュニケーションデザイン研究科に向いているのはどのような人でしょうか?

正木 業務に行き詰まっている人、たとえば「今の仕事の仕方で十分なのか」とか「現状の方法論でこれから先も対応できるのか」といった問いを少しでも持っている人にはぜひ門を叩いてほしいです。今の自分に満足していない、あるいは「新たな知見を得たい」という思いがある人ならば、誰でも何かしらの発見が得られると思います。文系・理系や所属業界もバラバラの学生が集まっている学びの場なので、社会人生活では得られないつながりや視野の広がりが得られると思います。

 

橋本 純次(はしもと・じゅんじ)
社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科 専任講師

正木 孝枝(まさき・たかえ)
修了生

 

社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科
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