温泉とアートで別府をリゾート地に 大分県「ガレリア御堂原」

大分県別府にできた「ガレリア御堂原」は、「温泉・アート・交流」をテーマに、別府を世界的なリゾート地にすることを目指した意欲的なプロジェクトだ。関屋リゾート林太一郎CEOと、BEPPU PROJECT山出淳也代表理事に構想を聞いた。

文・矢島進二 日本デザイン振興会 常務理事

林 太一郎 関屋リゾート代表取締役CEO

関屋リゾートの発祥は別府で明治末期に開業した小さな家族経営旅館で、林氏が4代目社長となってから独自の展開を始め、現在はテイストの異なる3つのホテルを手掛けている。この15年間で売上は10倍に成長し、コロナ禍でも高い稼働率を保っている。

東京の大学からUターンした林氏は、大分の建築資材卸会社を経て、26歳で実家に入る。当時の旅館は旅行会社との取引はなく、集客策を何も行っていなかったため、90年代半ばから厳しい経営状況に陥り、最盛期6千万円の売上が半分に落ち込んでいた。

このまま継続しても先が見えないと考えていた際に、金融機関から新規旅館開業の提案を受ける。林氏は「別府の他の宿泊施設がやっていないこと」「本物」に焦点を絞りプランニングを始める。

テレビ番組「情熱大陸」で知った旅館プロデューサーの松葉啓氏にアプローチし、わずか6室の純和風旅館「別邸はる樹」を2005年に開業。デザインに特化し客室に露天風呂を設けるなど、いち早く団体客でなく個人客に絞り、客単価を倍以上に引き上げたにも関わらず人気を博した。2015年には1,000坪に14室の大人向けの宿「テラス御堂原」を開業。ここは各部屋に絶景のテラスと天然温泉の半露天風呂を備えたリゾート系ホテルだ。

林氏は言う。「2つのホテルが事業的に成功したので、同じスタイルのものを、別府以外で横展開するのが通常のビジネスメソットかもしれません。しかし私は全国展開をしたい訳でなく別府のために事業を行っているので、テイストが違う人を呼べるような“小規模多店舗化”を目指しました。異なる魅力を複数つくれば地域全体の価値が向上していくと考えたのです」

この考えのもと4年間の構想を経て2021年に開業したのが「ガレリア御堂原」だ。「テラス御堂原」の近くの高台に建ち、従来の価値観からすると「街の中心部からも海からも遠い」と思われていたが、ゆったり滞在したい個人客にとっては好都合の立地だ。

ガレリア御堂原はグッドデザイン・ベスト100を受賞

「敷地的にはもっと部屋数を増やせるのですが、海外のリゾートの栄枯盛衰をリサーチしていくと“欲張ってないホテル”が残っていることに気づいたのです。そんな自分の経験値から敢えて、35室に抑えました」

別府への旅行客の7割は九州内で、その多くは1泊であり、満足度を高めるために会席料理などで豪華さを出す必要があるという。連泊客のためのメニュー変更は宿側の負担が大きく、客の満足度も落ちてしまいがちだ。

連泊が多い海外客を主たる対象にすると、旅館の2食付きシステムはミスマッチで、不自由なものになる。そのため「ガレリア御堂原」は、夕食は館内のレストランでとるだけでなく、街の店で食べる、自分で食材を買って食べるなど客に任せることにした。

50年先を見据えたデザインで
別府の新たなランドマークに

コンクリート壁面の独特のブラウンは、地下を掘った際の土の色味から採ったものだ。風景に馴染んだように見える理由はそこにある。林氏曰く「ヨーロッパでは多少の不便さはあっても『美しい』ものが残っています。別府のために100年後に残る魅力的な建築があるべきですし、そうした心意気がこの業界には欠けていると感じていました。木造建築の減価償却は17年ですが、『ガレリア御堂原』は鉄筋コンクリート造なので耐用年数は47年と、経営に長期の視点をもたないといけません。総事業費は予定より4億円増え計22億円となりましたが、50年先を見据えたデザインを目指しました」

設計は「テラス御堂原」と同じく大分で活動する設計事務所DABURA.mで、林氏とも意気投合して進んでいたが、設計の途中で「もう一つ大事なものが欠けている、アート作品が必要だ」と頭をよぎったという。

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