救急車難民を救え 若き医師が立ち上げた時間外救急サービス

救急車の出動が加速度的に増え、需要に追いつかないことが社会問題になっている。この解決のために、現役の若き医師が立ち上げたビジネスが、2022年度グッドデザイン金賞を受賞したファストドクターだ。同社の共同代表取締役である水野敬志氏から創業経緯と現況を聞いた。

文・矢島進二 日本デザイン振興会 常務理事

水野 敬志(ファストドクター 共同代表取締役)

ファストドクターの創業者であり代表医師の菊池亮氏は、大学病院勤務時代に整形外科と救急科にて勤務。その際の当直で不要不急の救急受診が多く、医師も患者も疲弊している現場をいくつも経験する。その後出向した小規模の関連病院でも、大病院での集中治療が必要な重症患者にも関わらず、人員不足により19もの病院に転院を断られる現実に立ち会う。菊池氏は、多くの救急リソースが軽症患者に割かれるなど適正な仕組みが整っていない矛盾と、通院困難な患者は緊急性に関わらず救急車の呼び出し以外の選択肢がない点などが原因だと気づき、2016年に31歳で起業する。

しかし、毎晩電話を受け、車で移動し、往診までを菊池氏1人で行うような状態が続き、クリニックとして事業化するのか、プラットフォームとして広げていくか、明確な事業構想を描くことに葛藤していた。そこで、外資系戦略コンサルティングファームで様々な企業の事業計画策定などを行い、その後、楽天で戦略や組織マネジメントを担っていた水野敬志氏が翌2017年にジョインする。

水野氏は、事業のスケール化と継続的な収益モデル構築に着手。さらにシステムのIT化とともに、診療体験をスムーズにする医療DXの構築に注力していく。

偶然、2017年冬にインフルエンザが大流行し、問合せが同社に殺到する。電話は鳴りっぱなしで確実にニーズが存在することを確信するが、実はほとんどが話し中で、応答率が2%しかなかったことが事後わかり、ITを駆使したオペレーションフローの構築の必要性を実感した。そして水野氏が中心となり資金調達を行い、コールセンターを含む組織づくりと人材集めやシステム開発を推進した。

医師が患者の自宅に出向く往診自体は、昔からあり月間約40万件にのぼるが、初診の患者は受け入れていないのがほとんどだ。再診であれば診療に必要な患者情報が整っている状態で処置や薬剤の用意は容易となるが、初診では診療の目安がつきづらく救急病院と同じような態勢を整える必要があり、また保険情報や支払いの信頼性、ひいては医師の安全性などが把握できないのが要因だ。

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