2期目を迎えた研究会 製造・品質管理の問題など深掘り
日本が再生医療で世界をリードしていくための構想を考える「再生医療で描く日本の未来研究会」がこのほど都内の事業構想大学院大学で開かれた。2023年度に続く2期目を迎えた研究会の1回目は、再生医療等製品の製造や、安全に治療に使うための品質管理を中心に議論した。
日本発の再生医療の発展を目指し
2期目の議論を開始
「再生医療で描く日本の未来研究会」は、政産官学が一体となって政策立案と実装に向けた議論を行う点を特徴としている。2023年度の成果は提言書にまとめ、武見敬三厚生労働大臣に手交した。2期目を迎えた今年度の研究会は、再生医療の製造・品質管理の課題、アジア展開などの出口戦略、再生医療の医療保険制度のテーマを深掘りして議論し成果を提言書にまとめていく。
2期目の1回目となる今回は、再生医療の製造・品質管理の課題をテーマに発表、全体討議が行われた。冒頭、研究会の常任委員で参議院議員の古川俊治氏が「再生医療は実用化にめどがついてきているが、産業として普通の医療に持っていくまでには制度、技術的課題が横たわっている。再生医療の実用化に深く関わっている様々な分野のトッププレーヤーの皆様に集まっていただき、忌憚のない意見を交わすことによって日本発の再生医療の発展を目指し、あるべき姿を議論したい」と研究会への期待を述べた。
品質上の最大の課題は
製造トラブル
続いて発表に移り、まず独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)スペシャリスト(バイオ品質)の櫻井陽氏が「品質審査から見る再生医療等製品の課題点」のテーマで登壇した。櫻井氏は、再生医療等製品における品質上の最大の課題は「製造トラブル」にあるとし、中でもスケールアップと技術移転で問題が発生しやすいと指摘した。その根底には、「研究費取得目的の拙速な開発が行われていることに加え、そもそも本邦のバイオの製造基盤技術は低く、製造プロセス・製剤設計に作りこみの甘さがある」とし、そのようなシーズでは大手製薬企業からの投資は期待できないと指摘した。
このような課題を解決するカギは、シーズの開発に真剣に取り組むスタートアップ企業と、それを支えるCDMO(医薬品開発製造受託機関)の存在だ。参考事例として、英国には細胞遺伝子治療の開発初期から流通までを専門家が伴走支援する細胞・遺伝子治療カタパルトという産業化支援機関が、また米国では、世界の標準になるベクターの作成などを目指す産官学のプラットフォームがあることを紹介。国内で今後取り組むべきは、「長期的には開発や製造の専門性を持つ人材の教育、アカデミアのシーズがベンチャーに循環しやすい体制の整備、もしくは英国のカタバルト等を参考とした本邦に即した開発支援機関を作ることなどを検討すべきではないか」と述べた。
承認後も製造法を改良する
自家培養皮膚「ジェイス」
次に、J-TECの森由紀夫氏が「市販後を見据えた自家再生医療等製品の開発について~当社製品の事例を交えて~」のテーマで発表した。森氏は、日本における、生きた細胞を用いた再生医療等製品では同種(他家)よりも自家が主流を占め、その中でも投与型は大手企業が担い、組織移植型はベンチャーが担っている構図であることに触れた。そのうえで同社が手がける組織移植型・自家の製品の中でも最も多くの症例を重ねている熱傷治療用の自家培養表皮「ジェイス」についての実践例を紹介した。
熱傷患者から採取した皮膚組織から培養表皮を作成するジェイスは、患者から採取する細胞ごとに、最終製品の品質が異なるという難しさがある。J-TECでは、製造販売承認後に臨床例を重ねながら最適な製造法を模索している。製法の改良事例としては、患者が高齢になるほど採取した細胞が増えにくいため、年齢ごとに皮膚採取量を定めた。また熱傷患者の場合、培養する細胞組織の有菌リスクが高いため、培養の極めて初期に菌のモニタリングをしている。細胞に感染した菌の同定や、抗生物質の感受性などの評価をしたうえで、改めて採皮するかどうかの可能性を探るという。「自家再生医療製品の特異性ゆえの課題を克服するためには、再生医療の工業化・産業化に向け、各主体が連携・協働することが大切です」と強調した。
共通プロセスが多い個別化医療
包括的に承認できる仕組みが必要
最後にC4U株式会社 代表取締役の平井昭光氏が「国産ゲノム編集技術CRISPR-Cas3の産業化」のテーマで登壇した。平井氏は、同社が持つゲノム編集技術CRISPR-Cas3の特徴として「ゲノムの大規模欠損が可能なため、標的遺伝子の機能を破壊するノックアウトの効率が高い。また標的となる部位以外に作用してしまうオフターゲットがほとんどない。さらに、海外で開発されたCRISPR-Cas9よりも特許がシンプルでライセンス料がリーズナブル」の3点をメリットとして挙げる。大手製薬企業や医療機関と連携し、同技術による治療の実用化に向けた研究が進んでいる事例についても紹介した。
CRISPER技術を用いた細胞遺伝子治療では、患者の細胞を取り出し、病気のもとになっている遺伝子を改変したうえで培養し、再び患者の体内に戻す。「ジェイス」と同様の製造面の課題として、患者自身の細胞を用いる製品であるがゆえの品質のばらつきがある。またCRISPER技術特有の課題としては、複数の精製たんぱく質、核酸複合体などを細胞の加工に使用するため、それらを一定の品質に保つ必要がある点を挙げた。これに加え、細胞製剤であるために、治験実施前から製品として市販する際と同じ製造設備を立ち上げなければならない。
「個別化医療ですが、現行の規制ではそれぞれの治療について新薬の製造承認を取る必要があります。ゲノム編集の治療では、遺伝子の改変や細胞培養のプロセスで共通部分が多い。包括的に承認してもらえる仕組みを考えていただけるとありがたい」と平井氏は要望した。
この後、国立医薬品食品衛生研究所薬品部部長の佐藤陽治氏をファシリテーターに全体討議が行われ、製造、品質管理面の課題を解消するための方策について意見が交わされた。古川氏は「J-TECの森氏のお話にあったように、製造販売承認後も臨床の実情に合わせて、ある程度の変更を見届けたうえで承認する方法は医療機器では行われている。再生医療等製品においても同じようなやり方があってもよいのでは」と話した。