コンプレックスが唯一無二の個性となり、世界で輝く

TIME誌が選ぶ世界の「次世代リーダー」に選ばれ、NHK紅白歌合戦の審査員を務めるなど、国内外で活躍が目覚ましい西村宏堂。その堂々たる立ち振る舞いや発言は唯一無二の存在感を放つが、西村自身が自分に自信が持てるようになるまでには長い年月がかかったという。大きな劣等感に苛まれていた西村が世界を舞台に発信するようになるまでの道のりに迫る。

文・油井なおみ

 

西村 宏堂(メイクアップアーティスト、僧侶、LGBTQ+活動家)

自分を変えられるのは
環境よりも『自分自身』

西村宏堂が自らのセクシュアリティを特別なものと意識したのは3歳の頃。

「幼稚園のおもちゃ箱にスカートが入っていたんです。それを1枚は履き、もう1枚は頭にかぶって長い髪に見立て、お姫様ごっこをするのが好きでした。お絵描きも好きで、先生から『みんなと一緒に外で遊ばなくていいの?』と声をかけられても、『いいの』と言ってひとりでいました。やりたくないことをやるくらいなら、寂しくてもひとりでいた方が幸せだったんです」

慶長の時代から続く寺の長男として生まれた西村は、檀家が父に「男の子が生まれて安心ですね」などと言うのを耳にし、自身も友達から「髪を剃らないの?」などと聞かれて育った。

「私は髪を長くなびかせたいのに髪を剃るなんてとんでもない。お絵描きが好きなのに周りは外遊びやスポーツを勧めてきたり、お寺を継がないのかとプレッシャーをかけてくる。それでも岩のようにぐらつかないところは子どもの頃からありました」

2021年にTIME誌が選ぶ世界の「次世代リーダー」21人の1人となり、その著書は8か国語で翻訳されるなど、西村の堂々たる活躍ぶりはワールドワイドに広がっている。自我がしっかり確立していた幼い頃のエピソードに納得するが、実はそのまままっすぐに育ってきたわけではないのだという。

「自分の体が男性ということに違和感はないんですが、心は男性でも女性でもあるような気がしていました。と同時に、完璧な男性でも完璧な女性でもないんだとも感じていたんです。小学校に上がると、『女の子っぽい』とばかにされるようなこともあって、自分は同性愛者だから友達と仲良くできなくて恥ずかしい人間なんだと、そういう後ろめたさも抱えていました」

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