eラーニング無料講座を184本公開 地方創生に特化

全国各地での地方創生事業が加速する中、それを担う人材の不足が課題となっている。一方で、地方創生人材の育成に特化したeラーニング無料講座「地方創生カレッジ」を活用する自治体・企業・地域金融機関等が増えている。本連載では、講座や新プログラムの紹介、受講者の学び・成果をお伝えしていく。

多様な人材の活躍を推進する
地方創生に特化した無料プログラム

超高齢社会を迎えている日本は、人口減少に歯止めがかからない上、東京圏への一極集中という課題を抱えている。そのため、全国の地域社会の担い手不足による地域経済の縮小や、「まち」の機能低下により生活サービスの維持が困難になっている地域もある。こうした現状を踏まえて政府は、「稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする」「地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる」「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」「ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる」という4つの基本目標に加え、「多様な人材の活躍を推進する」「新しい時代の流れを力にする」という2つの横断的な目標を掲げ、地方創生に関するさまざまな施策を進めている。

そうしたなかで2020年12月、2024年度までの地方創生施策の方向性を示す第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2020改訂版)が打ち出された。同戦略には、横断的な目標の1つである「多様な人材の活躍を推進する」ため、各地方公共団等における多様な人材の確保をサポートする施策として、地方創生を学ぶ機会の創出が掲げられた。その具体的な学習プログラムが、誰もが無料で学べる「地方創生カレッジ」だ。

3万1000人を超える受講者に
連携・共有の機会を提供

「"地方を変えるための"知識が身につく」とうたう「地方創生カレッジ」は、2016年12月の開講以来、第一線で活躍する専門家による動画講座が約184本(2021年3月末時点)も無料公開されている。例えば、「地方創生の課題と新しい地域振興策」「失敗事例に学ぶ文化と地方創生」といった基礎的な概論から、「コミュニティを基盤とした観光地域づくり」「伝統野菜などを基軸にした地域活性化」といった個別具体的な事例に踏み込んだ専門性の高い講座もある。eラーニングを主体としているため、PCやタブレット、スマホさえあれば、居住地やワークスタイルにかかわらず、誰でもどこでも自分のペースで実践的な知識を学べるのが魅力だ。

現在の受講者数は3万1000人を越え、関東・中部・関西地方を中心に、北海道から九州・沖縄まで、そのネットワークは全国に広がっている。なかには海外からの受講者もいる。職業別で見ると、金融機関、地方公務員が各2割強を占めるほか、民間企業の受講者も多く、その他にも教員、コンサルタントといった多様なセクターで働く人々が地方創生に関心を寄せている。

図1 地方創生カレッジ受講者属性

出典:地方創生カレッジ事務局

 

また、「地方創生カレッジ」は単に最新の知識を得るための場ではない。有識者を交えた「地方創生交流掲示板」や、全国の実践事例や地方創生専門人材の紹介など、知恵の共有を図る仕組みが用意され、地方創生に関する総合的なプラットホームとなっている。各地域の戦略策定や管理を担う人にとっても、現場の第一線で中心となって活躍したい人にとっても得るものが大きい仕組みだ。

現場に生かせる実践的な学び
実地研修や集合研修の機会も

「地方創生カレッジ」の「成果」はどのような形で表れているだろうか。受講者へのアンケートによれば、カレッジでの学びが生かされた場面として、「地方創生に関する専門的知識・スキルの習得」「地方創生に関する企画や地域活動の具体化・内容の充実」「地域経済に関する分析や実態把握・課題研究」を挙げる声が多く、地方創生に関する実践的な活動に活用されていることが伺える。なかには、「カレッジの事例を参考にして、地元のジビエを使った屋台をイベントで出店してみた」「新産業技術による地方創生についてベンダーに企画提案をする際、カレッジで習得したスキルをもとに地方の特性を織り交ぜて理解してもらうことができた」といった声もある。また、「職員研修に良さそうな講座を受講し、その講師を招聘した研修を実際に行った」など、職場の人材育成に生かしている受講者もいるようだ。

図2 地方創生カレッジでの学びや実際の業務等への活用の状況に関するアンケート

出典:地方創生カレッジ事務局

 

「地方創生カレッジ」のコンテンツはeラーニングが中心だが、一部ではスクーリングによる実地研修も取り入れた「官民連携講座」も開催している。モデル地域を選定し、各地で地方創生に携わる官民の関係者を集め、eラーニングによる学習と地域課題を解決するための実践的なワークショップを組み合わせた講座を通して、地方創生事業を担う人材の育成に努めている。今後は「官民連携講座」以外でも、実地研修や集合研修等の導入を検討しているといい、そうなればいっそう実践的な学びの機会となるだろう。「地方創生カレッジ」の成果がどのような実務や地域活動に活かされているか、その具体的な事例は今後の月刊「事業構想」誌面上で随時詳しくお伝えしていきたい。

全国的に見ても、地方創生に関する専門的な研修や講座が受けられる施設や制度が整備されていないなか、場所と時間を選ばず、かつ無料で受講できる「地方創生カレッジ」は、非常に貴重な機会だといえる。産官学の立場を問わず、各地の課題解決や地方創生の現場で自身のキャリアを生かしたいと考える人や、そうした人材を育成する必要に迫られている人まで、さまざまな層による利用が考えられるだろう。

この「地方創生カレッジ」をきっかけに生まれた種が各地で花開き、日本の地方創生を牽引する力となることを期待したい。