2021年7月号

地域特集 群馬県

群馬県知事インタビュー 群馬から世界に発信する「ニューノーマル」

山本 一太(群馬県知事)

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「群馬県を20年後にニューノーマル社会でのトップランナーにする」という目標を掲げて、「新・群馬県総合計画(ビジョン)」を策定した山本一太知事。誰もが幸福を実感できる自立分散型社会を構築するため、デジタル化の推進を軸にしながら、「快疎」を目指すとともに、「始動人」の育成などに取り組んでいる。

群馬県知事 山本一太氏
取材は、新型コロナウイルス感染症対策をとり、ソーシャルディスタンスを十分に保ち行われた(2021年4月27日)

「始動人」の育成などにより
自立分散型社会を創る

――知事が目指す群馬県の将来像について、お聞かせください。

私が目指す群馬県の将来像は、「年齢や性別、国籍、障害の有無等にかかわらず、すべての県民が、誰一人取り残されることなく、自ら思い描く人生を生き、幸福を実感できる自立分散型の社会」です。この実現のために、「新・群馬県総合計画」をつくりました。この総合計画は、群馬県の20年後の目指す姿からバックキャスト思考で描いた「ビジョン」と、今後10年間で重点的に取り組む具体的な政策をロードマップ化した「基本計画」の2段構成になっています。

図表 新・群馬県総合計画(ビジョン)

出典:群馬県

 

「ビジョン」は、デジタル化の推進による新しい価値の創造と、SDGsによる安全性と持続可能性の追求という2つを基軸として、20年後の群馬県に自立分散型社会を構築するというもので、3つのキーワードがあります。

1つ目は、「快疎(かいそ)」です。新型コロナウィルスの感染拡大により、世界全体で「ニューノーマル」への転換が不可避になりました。そうした中で、今までの「弱み」が「強み」に変化する好機になると考えています。東京にはない、ゆったりとした、ゆとりのある空間。より精神的な安定感のある空間。こういうものをしっかりと作っていこうというのが「快疎」です。

2つ目は、「始動人(しどうじん)」です。社会の未来を考えた時に人材育成より大切なことはありません。何が起こるかわからない変化の激しい世界では、自分の頭で考え、生き抜く力を持った人が必要です。未踏の領域にも踏み込む勇気を持った人。それが「始動人」です。

3つ目は、「官民共創コミュニティ」です。昨年12月、県庁舎の32階に、官民共創のイノベーション創出拠点「NETSUGEN (ネツゲン)」をオープンしました。ここでは、大学、NPO、民間企業、行政などのいろいろな知恵を融合して、新しい時代の流れを生み出していきます。

群馬県庁32階に設置された、官民共創スペース「NETSUGEN(ネツゲン)」。新事業や地域づくりに挑戦する人が集まるイノベーション創出拠点

行政、教育、産業など、あらゆる分野で、デジタルを活用してさまざまなことができる環境を整え、官民共創コミュニティで新しい価値観、考え方や産業を生み出す流れを作り、そこで始動人が才能を発揮して活躍する。群馬県を、こういった持続可能で安全な社会がつくられるとともに、多様な人々がそれぞれの目的を遂げられ、幸せを感じられるような自立分散型社会にしたいと考えています。

DX推進で、日本最先端クラスへ

――その実現のためにどのようなプロセスをお考えですか。

群馬県はデジタル化が非常に遅れています。そこでこの3月に「群馬県庁DXアクションプラン~日本最先端デジタル県へ~」を策定しました。県庁ではようやく押印不要率や電子決裁率が9割を超えましたが、これを10割にします。教育面では、県内35市町村と連携して、群馬県内の小中高校でひとり1台のパソコン無償貸与を今年度中に実現します。このようなデジタル化を今後3年間でしっかりと進めて、全国自治体のデジタル化ランキングでトップ5に入ることを目指します。

産業政策では、スタートアップ企業やベンチャー企業が生まれる環境整備や、それぞれの企業がイノベーションを起こせるような体制を整え、始動人育成のための教育イノベーションにも注力します。また、群馬県には外国籍の方もたくさんいらっしゃるので、この4月に「多文化共生・共創推進条例」をつくりました。多文化共生を進めて、外国人県民の方々にも力になっていただきます。

こうしたことを複合的に進めながら、「NETSUGEN」を中心に地域課題を解決する新しい知恵がどんどん生まれる流れをつくり、20年後には自立分散型社会を実現したいと思っています。

 

―――産業政策におけるデジタル化について、詳しく教えてください。

目的はたった1つです。それは、新しい価値を生み出すイノベーションを発揮できる企業を増やすことです。新しい価値が創造されるような土壌をつくるために、県の産業経済部ではスマートファクトリー創出支援や産業技術センターでの5Gの実証実験などにより企業のデジタル化を後押ししています。また、県庁でCDO(チーフ・デジタルトランスフォーメーション・オフィサー)を務めていた女性を、4月1日付で県政のDX業務全体を統括する部長級の「DX推進監」に任命しました。今後はいろいろな企業がデジタルを活用して新しい価値を創造できるような流れをつくっていきたいと思っています。

SDGsで持続可能で安全な社会を構築する上でも、デジタル化は重要です。群馬県ではカーボンフリーに注力するため、2050年に向けて「温室効果ガス排出量ゼロ」をはじめ、「災害時の停電ゼロ」、「プラスチックごみゼロ」など、「ぐんま5つのゼロ宣言」を掲げています。菅政権も世界の潮流に合わせた「グリーンリカバリー」を打ち出しています。特に群馬県は再生可能エネルギーへの大きな可能性を持っているので、エネルギー政策も含めて、デジタルを活用した産業を育てて盛り上げたいと思っています。

群馬には、ハイブリッドな
世界を築く条件が揃っている

――人口減少について、どのようにお考えですか。

まず、人口減少はマイナスにしか働かないという発想は転換すべきです。快疎が地方の強みになるからです。群馬県は首都圏の近くにありながら、豊かな自然に囲まれて暮らすことができます。新鮮で美味しいものがたくさんありますし、物価は安い。ニューノーマル社会における地方の再定義の中で、群馬県は非常に良いポジションにあると言っていいでしょう。

ただし、労働人口はしっかりと維持しなければいけません。特に我々がターゲットにしなければならないのは、30代、40代の働き盛りの世代です。群馬県でスローライフを送りながら、テレワークやワーケーションで働くというニーズは高いと思います。そこで移住戦略を見直し、テレワークやワーケーションを盛り上げるための環境整備を進めてきました。その結果わかったことは、人間はデジタルだけでは生きられないということでした。

今、いろいろな教育イノベーションの試みが行われています。オンライン授業は、コロナ禍の中で子どもたちに学ぶ機会を与える重要なシステムですが、教育はそれだけで十分だとは言えません。やはり学校に行き、生身の触れ合いや実体験があって初めて教育と言えるのではないでしょうか。

キーワードは「ハイブリッド」です。ウィルスが広がっている時はオンラインを活用し、落ち着いたらリアルで学ぶというようにハイブリッドで対応していく。個人も組織も、こうしたハイブリッドな仕組みに対応できるかどうかが生き残る鍵だと思います。

私は群馬県をハイブリッドな生活に適応した地域にしたい。これまでの群馬県は首都圏に近いというだけで何とかなってきました。その結果、産業指標も経済指標も中くらい止まりでした。これからの時代、そんなことでは生き残れません。このままでは間違いなく衰退の道をたどるでしょう。

しかし、発想を変えれば群馬県には大きな可能性があります。人気の観光地があり、製造業が盛んで、東京に近くて新幹線もある。群馬県にはハイブリッドな世界を築く条件が整っています。

コロナ後の輸出を見据え、
農畜産物の独自価値を分析・PR

――インバウンド施策や、海外への販路開拓について、お考えをお聞かせください。

コロナ禍は永遠に続くわけではありません。コロナを制圧できれば、インバウンド戦略や農畜産物の輸出戦略が再び必要になります。

その時にスムーズにスタートが切れるように、国内最大級のものづくり企業の常設オンライン展示場「GUNMA VIRTUAL EXPO」をつくりました。24時間365日、気になる企業を見つけ、情報を得て、オンライン商談ができます。このほかにも越境ECなど、"その時"に向けた準備を進めています。

国内最大級のものづくり企業の常設オンライン展示場「GUNMA VIRTUAL EXPO」のトップページ

昨年、コロナ禍によって中国の習近平国家主席の来日が中止になりましたが、あの時の目玉のひとつが農畜産物の輸入解禁・条件整備だったのです。中国への輸出が可能となれば、全国でそこに入り込もうとするでしょう。

だから今、準備をしておかなければならないのです。私は国会議員時代に外交政策に携わっていました。中国の外務大臣の王毅さんとは面識がありますし、タイの外務大臣にも2回お会いしています。国会議員時代のこうした実績は、群馬県の農畜産物を新しいマーケットに浸透させる上で強みになると思っています。

強みを活かす時が来るまでの準備として、知事直轄のブランド強化プロジェクト「G-アナライズ&PRチーム」を立ち上げました。このチームの役割は、群馬県の農畜産物を分析して独自の価値を見出し、それをPRしながら、良いサイクルになるような流れを作ることです。いざインバウンドが戻ってきた、輸出戦略が必要になったという時にすぐに動けるよう、準備を進めています。

アニメ「ぐんまちゃん」で
群馬県のブランド化を推進

――今後、特に重視される戦略は何でしょうか。

2つあります。まず、ブランドを磨くこと。富岡製糸場と絹産業遺産群は、世界遺産に登録されて数年は観光客で賑わいましたが、今や観光客数は右肩下がりで激減しています。ブランドは磨き続けることが大事です。ターゲットをしっかり定めて、緻密な戦略を立てて取り組まねばなりません。

もう1つは発信力です。私の野望は群馬県に独自の新しい地方メディアミックスシステムを構築することです。そのために県庁32階にNETSUGENと合わせて動画・放送スタジオ「tsulunos(ツルノス)」をつくりました。既存メディアにばかり頼っていては生殺与奪を握られてしまいます。自立分散型社会で独立自尊を貫くには、地方自治体が自ら物事を回せる体制を整えることが大事です。

群馬県動画・放送スタジオ「tsulunos(ツルノス)」。ここを核に様々な媒体と連携し、県の魅力や情報を発信

群馬テレビやエフエム群馬、上毛新聞社、彼らがメディアとしての政治的中立性をしっかりと堅持しながら、tsulunosとうまく融合して、独自の発信力を持つメディアミックスシステムをつくりたい。これは群馬県のブランド化に直接つながる戦略です。まずはtsulunosで全国1位の自治体ネットメディアを目指します。 

実は、tsulunosのコンテンツの大半は外注せずに県庁職員が制作しています。県庁にクリエイティブ集団を作るというのがブランド戦略の1つだからです。

また、今回のブランド戦略の中で、群馬県のマスコットキャラクターの「ぐんまちゃん」をアニメ化するのですが、中途半端なものにならないように2.4億円を投資しました。そうしたら、企画チームが頑張ってくれて、アニメ「クレヨンしんちゃん」を手がけた監督とプロデューサーを連れてきたのです。このアニメにいろいろなキャラクターを登場させて、群馬県をブランド化します。「ぐんまちゃん」に火が付けばメディアミックスのレベルを上げる推進力にもなるでしょう。放送は秋を予定しています。お楽しみに。

 

山本 一太(やまもと・いちた)
群馬県知事

 

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