テクノロジー、ニーズ起点を脱却 未来からビジネスを構想する

医学・行政・ビジネスの3つの観点から医療・ヘルスケア業界における新戦略を考察する本連載。今回は事業アイデアを発想する起点・目のつけどころを考察する。一般的には新技術(テクノロジー)や顧客の欲求(ニーズ)が考えられがちだが、もうひとつの重要な視点が「未来」だ。

なぜテクノロジードリブンで
考えてしまうのか?

今回も前回に引き続き、「ヘルスケアビジネスの新規事業の考え方」についてお話しします。

事業開発の際には「誰の・何を・どのように解決するか」を考えるのが一番重要であるということは、本連載だけでなく各所で聞いたことがあるでしょう。しかし、こと医療・ヘルスケア領域だとそれが忘れられていることが多いように感じています。

その理由には、昨今のスタートアップブームもあり、スタートアップが取り組む医療・ヘルスケア事業を報道するメディアが増えてきていることも一因だと考えています。これらの報道では得てして「オンライン診療」「AI医療機器」「クラウド電子カルテ」「AI問診」などのように、事業をカテゴリで分けて報じることが多く、こうした報道に接しているとついテクノロジーやカテゴリから事業を発想するマインドセットになってしまうのではないでしょうか。医療・ヘルスケアに限らず、他の新規事業開発においても、「テクノロジードリブン」ではなく、現場の意見を聞きながら「ニーズドリブン」で開発するほうがいいという話があちこちで何回もされているにもかかわらず、です。さらに、上場企業や大企業の取り組みは前述の新興メディアなども大きく取り上げないためか、その領域の専門の方以外にはあまり知られていません。ニュース等で注目される事業と実態には乖離があると言えそうです。現に、日本で「AI医療機器」として承認された医療機器は2020年10月末時点で12件ありますが、その内訳はオリンパス(サイバネットシステム)が4つ、富士フイルムが3つで、大企業が多くを占めています。

ここでお伝えしたいのは、必ずしもテクノロジーやカテゴリを起点に製品・サービスを考える必要はないということです。AIだからできることであればもちろんAIは必要ですが、AIがなくてもよいのであれば、必ずしもAIは必要ありません。例えば、「AI問診」という用語はあたかもAIが医師と同じように診断してくれるように感じますが、現時点で医師と同じような診断を行うAI医療機器はありません。AIのようなソフトウェアが予防・診断・治療に該当する機能を果たす場合は薬機法上「医療機器」に該当し、ソフトウェアの場合でも「プログラム医療機器」となりますが、前述のAI医療機器12件はすべて、MRIやCTなどの医療用画像の診断を「支援」するためのものです。日本では、AIを使って病気を「診断」してくれる機器・サービスはまだないのです。

医療におけるAIの価値とは?

現状の多くの「AI問診」が行っているのは、医療機関での「問診の効率化」です。問診とは、医師が患者さんから病歴を聞き、医師が内容を要約・整理してカルテに記載する作業です。患者さんは医師が整理しやすいように症状や経過を話してくれるわけではないので、話をまとめたり、うまく聞き出すのに時間がかかります。これを、タブレット等を活用して問診項目を選択してもらい、選択結果をAIが専門用語や文章に変換してカルテに出力することでカルテへの入力や問診時間の効率化を図っているのが現状の多くのAI問診です。似たようなサービスに、来院前にスマホで問診に答える「Web問診」があり、20社以上の企業が何年も前から提供しています。

つまり、解決したい課題が「医師の電子カルテ入力や問診時間の効率化」ということであれば、必ずしも「AI問診を作る」というやり方ではなくてもいいかもしれません。AI問診であれば、「AIだからできること」が必要だということです。医師の電子カルテ入力や問診時間の効率化という課題に関しては、子育てなどで働けていない看護師がオンラインで対応するといった方法でもいいかもしれません。やはり、「誰の・何を・どのように解決しようとしているか」ということが重要です。

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