「伯方の塩」の新事業 安全で自然な食にこだわる

独特のサウンドロゴで全国的に有名な「伯方の塩」は、愛媛の企業がしまなみ海道の島々で製造している。工業的な製法によらない「自然塩」を求める消費者運動から誕生した伯方塩業は、新規事業でも安心・安全、そしておいしい食の追及を始めた。

野間 保(伯方塩業 GOENプロジェクト プロジェクトリーダー)

テレビCMでおなじみの「は・か・た・の・塩」を生産・販売している伯方塩業は、愛媛県に本社を置く企業だ。同社のシェアは、一般市販用塩では全国でもトップクラス。しまなみ海道沿い、愛媛県今治市の伯方島と大三島に製塩工場を持つ。

ナショナルブランド商品「伯方の塩」を製造する伯方塩業の設立は1973年。草の根の消費者運動から誕生した。高度経済成長期の日本では、急速に工業化が進み、様々な消費者問題が生じるようになっていた。1968年には、消費者保護基本法が成立。消費者が、自身や家族の安全と健康を守るための活動を全国で展開した時代だった。

1970年代に入り、国策として従来の塩田は廃止されることとなり、塩田でつくる塩がすべてイオン交換膜を用いた化学工業的製法でつくる過精製塩に切り替わることが決まった。なお、この製法を塩つくりに利用するのは、日本が世界で初めてだったという。

塩という、生存に不可欠な食品を一律に新製法の製品に切り替えることを不安視する人々は全国にいた。1960年代~70年代にかけて、大量生産された食品による健康被害がたびたび生じていたという背景もある。また、塩田でつくられた塩はにがりを含み、塩かどのない穏やかなが特徴だが、過精製塩の味は塩辛いだけのもの。親しんだ味が失われることへの不安もあった。ことに瀬戸内海沿岸部は古くから製塩が盛んな地域であり、塩田は身近な存在だった。そこで松山市在住の消費者を中心に伯方島に残された流下式塩田を残す消費者運動が展開され、各方面の協力を得て、5万人の署名を集め、国会や関係省庁に陳情を行った。

伯方島の塩田を残すことはできなかったが、厳しい条件付きで自由販売塩としての製造・販売認可を得て、塩田でつくる品質に近い塩をつくることができるようになった。その製造・販売を担う事業体として誕生したのが伯方塩業だ。ちなみに資本金は有志による1口10万円の出資、今でいうクラウドファンディングのような形で集められた。設立間もない1973年12月には、伯方の塩の発売にこぎつけている。

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