空調を快適にする新素材 高い除湿効果、エネルギー効率を向上

東洋紡傘下の日本エクスラン工業は、様々なアクリル繊維や機能資材の研究開発を手掛ける。同社が開発した空調用デシカント材料(吸湿剤)のイノベーティブな特性とは何か。そして、国際的な共通目標であるSDGsへどうつながるのか。

西田 良祐(日本エクスラン工業 取締役)

空調に革新をもたらす
「高分子収着剤」

空調機器の除湿方式は、コンプレッサー方式とデシカント方式に大別される。前者は空気を冷やすことで水分を結露させて取り除き、後者は吸湿剤に吸収させて取り除く。後者で使用される吸湿剤をデシカント材料と呼ぶ。

日本エクスラン工業は、岡山大学工学部伝熱工学研究室と共に、革新的なデシカント材料「高分子収着剤」を開発した。同社取締役であり工学博士の西田良祐氏は、その特性をこう語る。

「一般に、デシカント材料にはシリカゲルやゼオライトといった物質が使用されています。当社の高分子収着剤は、それらが抱える短所を克服し、デシカント空調におけるエネルギーコストや環境負荷を大幅に低減します」

高分子収着剤は、相対湿度30%程度で吸湿力が頭打ちになるシリカゲルとは異なり、すべての湿度域で高い吸湿力を保つ。また、相対湿度が80%を超えるような高湿度域では、特に高い吸湿力を示す。総合的な吸湿力はシリカゲルのおよそ2~3倍となる。

吸湿力の高さは、除湿の効果を高めるだけでなく、冷房の効率も高める。体感温度を下げるには湿度を下げることも重要だが、通常、エアコンの冷房機能は温度のみを下げる。温度が下がると空気が収縮して相対湿度は上がるため、体感温度を下げるためには過剰な冷却が必要になる。夏場の省エネや冷えすぎ防止の知恵として、除湿と冷房の組み合わせが言われるのはこのためだ。高分子収着剤でより効率よく除湿すれば、冷房を無駄なく、快適に使うことができる。

また、高分子収着剤は乾燥性にも優れている。デシカント材料は吸湿後に乾燥させて再生する必要があるが、シリカゲルの再生には120~140℃の高温を要するのに対し、高分子収着剤は湿度差があれば30℃~80℃という低温での再生が可能だ。このため、組み込む機器に強力なヒーターを必要とせず、エネルギーコストや環境負荷が抑えられる。

さらに、有機系素材であり、構造が柔軟であることも特長だ。無機系素材であり、硬い構造を持つシリカゲルやゼオライトは、使用するにつれて徐々に崩壊し、吸湿力が低下してゆくことが知られている。

これらの優れた特性を持つ高分子収着剤を、空調機器に使用することで得られるメリットは多い。温湿度管理の品質向上はもちろん、ヒーターや耐熱構造の簡素化によって、製造コストや運用コストの低減も見込める。

特に注目すべきは、空調の根幹となる高分子収着剤の再生が、組み込む機器やシステムの廃熱で十分に可能なことだ。西田氏によれば、一般に利用しにくい温度域であり、大気中に垂れ流しにされがちな50~60℃の廃熱を活用できるという。エネルギーコストの低減にとどまらず、持続的な稼働に要するコストの一部を回収できる点で、非常に優れている。

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