京都市のキャッシュレス推進例から考える 訪日客消費拡大の活路

千年の都・京都でキャッシュレス環境整備の取り組みが加速している。外国人観光客の利便性を高めるとともに、販売機会損失をなくすことを目指す。京都市が取り組む先進事例を紹介する。

Visaとの連携でキャッシュレス化促進

2020年に向けて、さらなる増加が見込まれる外国人観光客。その多くが決済手段として使用しているのがクレジットカードだ。しかし、日本の現金主義は根強く、経済産業省が2018年4月に発表した「キャッシュレス・ビジョン」によれば、2015年の日本のキャッシュレス決済比率は18%と、諸外国に大きく遅れを取っている。政府は外国人観光客をスムーズに受け入れるため、2025年までに40%に引き上げることを目標に掲げている。

キャッシュレスの波は世界有数の観光都市である京都にも押し寄せている。京都市には毎年約5,000万人の観光客が訪れるが、番匠氏は「他主要都市と比較して、クレジットカードが使えない店が多かった」と前置きした上でこう続ける。

「5年前の調査において、京都市内の飲食店では、カードが使用できるにも関わらず、店頭にカードが使用できることを示すアクセプタンスマークの掲示率が約9%と低く、外国人観光客が買い物をしづらい原因の一つとなっていた」

こうした課題を解決するため、京都市は2015年12月にビザ・ワールドワイド・ジャパン(以下、Visa)と「地域活性化包括連携協定」を締結。決済に関する受入れ環境の整備、消費喚起キャンペーンの共催、Visaのネットワークを活かした京都の魅力発信の3本柱を軸に、さまざまなキャッシュレス推進事業を展開することで観光消費拡大を目指すこととなった。

京都市とビザ・ワールドワイド・ジャパンの地域活性化包括連携協定

出典:京都市発表資料より編集部が作成

 

「カード使えます」の掲示で
観光客の消費を喚起

キャッシュレス決済環境の拡充に向け、アクセンプタスマークの掲示促進は欠かせない。キャッシュレス決済が進めば、外国人観光客の利便性が高まるだけでなく、事業者にとっても人件費の削減やレジ精算時間の短縮といったメリットを享受できる。しかし、老舗かつ個人商店が多いという土地柄ゆえ、キャッシュレス決済に消極的な傾向があった。

「この土地で何十年、何百年も商売してきて、現金払いでうまくやってきた。今さら決済端末の導入費用や決済手数料を払わなければならないのか、という声もあり、事業者様との間に大きな隔たりがありました」と京都市観光協会誘致事業課、課長補佐の番匠氏は振り返る。

番匠 宏明氏 京都市観光協会 誘致事業課 課長補佐

一方、2015年頃から全国で外国人観光客向けの免税店が急増し、京都市でも申請業務のサポートや、多言語の指差しツールの配布など、積極的な免税店の登録支援をしていた。「この波に乗らない手はありません。単に決済端末を増やそうとお声掛けするのではく、カード決済に対する事業者様の意識改革を何よりも重視しました」。

そこで、TAX FREEのロゴが入ったものや京都の景観をイラスト化したものなど、思わず貼りたくなるような、京都の街に合ったアクセンプタスマークのデザイン制作を開始した。従来は店舗の入口に貼ることが多かったが、「売りたい商品の近くに貼ったほうがいい」との事業者の声をもとに、レジ横や商品棚、メニュー付近に貼りやすい小さなサイズを追加し、地域を巻き込みながらデザイン制作を進めていった。

アクセプタンスマークの普及に向けては、商店街やレストランと連携した消費喚起キャンペーンや事業者向けの啓蒙活動を継続的に実施してきた。

「たとえばハラルやヴィーガンに対応した食セミナーで、食の多様性に絡めて、決済の多様性の話をするなどの工夫を凝らしてきました」と番匠氏。さらに、アクセプタンスマークの使い方などに関する啓蒙チラシを延べ1万枚以上配布したことも述べた。Visaとの連携を開始して以降、京都市観光協会会員のキャッシュレス決済導入率は約20%上昇の84%に到達した。

「導入した事業者の3分の1は売上・収益増加を実感しているとの結果が出ています。さらに、京都の観光消費額は1.4倍以上に増加。2016年には目標を4年前倒して1兆円突破を達成しました」と取り組みの成果を述べた。

キャッシュレスを軸とした
観光先進事例から紐解く

現在は、京都観光のさまざまなポイントで、各事業者のニーズに合ったキャッシュレス決済の利用を進めるため、タッチ決済やQR決済等の多様な決済方法についての情報発信を目指している。タッチ決済については、世界文化遺産二条城で桜まつりに合わせて展開したタッチ決済を体験できるイベントが好評だった。

京都市のイベントでも活用されたタッチ決済機能付きリストバンド型ウェアラブル(色は異なります)

京都市観光協会とVisaで連携した2018年の「二条城桜まつり」では、未来の決済環境を体験できる桜吹雪メーカーを設置

「デモ体験機にタッチ決済をした瞬間、桜吹雪が舞い上がり、記念動画を自動撮影できるという企画で、有料(二条城の保全や修復費として)ながら1,556名にご参加いただきました。うち、617名の海外の方に参加いただき、その約35%の方が、タッチ決済を利用しました」と振り返る。

また、事業者の自発的な取り組みをサポートすることで先進事例を創出していく取り組みにも力を入れている。その一例が観光人力車を運営するえびす屋のタッチ決済の導入だ。

「一区間あたり2名で4,000円のご利用が多い中、タッチ決済を導入したことで区間の延長を希望する外国人観光客が増加し、順調に売上単価が伸びているそうです」

最後に、番匠氏は「カードが使える店舗を増やすだけでなく、美術館、博物館や体験施設等でICTを活用した情報発信と合わせて、事前ウェブ決済などを推進し、京都の多様なコンテンツのキャッシュレス化を含めた多様なニーズに対し、応えていける持続可能な受入れ環境の整備をしていきたいと考えています」と展望を語った。

 

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