アマゾン、ソニー 「創業の理念」が企業に成長をもたらす

米アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏は、創業初日の信念を現在も持ち続けている。危機に直面したソニーは、創業者が作成した設立趣意書に立ち返り、業績を回復させた。会社設立時の事業構想は、数十年を経ても経営上の重要な指針となりうる「礎石」と言える。

ジェフ・ベゾス アマゾン・ドット・コム CEO

It Remains Day One

世界の経営者が毎年、注目している 文書がある。それはアマゾンのジェフ・ベゾスが書く「投資家への手紙」である。2017年の「投資家への手紙」は次のように始まっていた。

「ジェフ、創業2日目ってどんな感じなのですか?」

これは最近、開かれた全社員集会で私が受けた質問です。何十年間も、私は皆さんに、今日が創業初日(it's Day 1)だと言い続けてきました。私が仕事をするオフィスが入っているビルの名前は「創業初日」(Day 1)です。

アマゾンで創業者ジェフ・ベゾスが社員に繰り返し言い続けているのは「今日が創業初日」ということである。またベゾス自身も自分にそれを言い続けている。何しろ彼はシアトルの本社にいる限り、「創業初日」と名付けられたビルに入っていくからである。

ベゾスの「創業初日」へのこだわりは徹底していて、彼の投資家への手紙は毎年、「今日はまだ創業初日」(It remains Day 1)という言葉で締めくくられている。また、アマゾンがNASDAQに上場した1997年の「投資家への手紙」も毎年添付されている。それは、創業初日に持っていた自分の信念を、常に持ち続けるというベゾスの強い信念を示すものだった。1997年の投資家への手紙には、次のように記されていたのである。「今日がインターネットの、そして我々がうまくやれれば、アマゾン・コムの創業初日です」。

創業初日のベゾスの信念として強調されていたのは、長期的展望、顧客への執着(Customer obsession)だった。そしてそれは、今もまったく変わっていない。ベゾスの毎年の投資家への手紙読んで強く心に残るのは、メッセージの首尾一貫性だ。「今日はまだ創業初日」とベゾスが言い続けるのも、その信念に基づいてアマゾンを経営するためだった。2016年の「投資家への手紙」には次のように記されている。「創業初日であり続けるためには、忍耐強く実験を行わないといけないし、失敗も受け入れないといけない。事業の種まきも行い、苗木を守らないといけない。そして顧客の喜んでいる姿を目にすれば、喜びは倍増する」。

1997年のアマゾンの上場時の株価は18ドル、売り上げは1億4780万ドル。1994年の創業から25年経過した2019年にアマゾンの株価は1940ドルを超え(2019年7月8日)、時価総額も9500億ドルに達している。売り上げ2329億ドル、社員数64万7500人(2018年)の堂々たる大企業である。だからこそ、ベゾスは創業初日、つまりスタートアップの気持ちを持ち続けることが大切だと考えるのである。そして実際に、アマゾンはスタートアップのように新しいことに挑戦し続けている。

Day Oneに回帰したソニー

アマゾンと同じように、Day Oneを認識したのがソニーだ。ソニーは「ソニーショック」と呼ばれた存亡の危機を克服し、2018年5月には最高益を10年ぶりに達成するほどに復活した。2019年5月末に開催された経営戦略説明会で演壇に立った吉田憲一郎社長の背景には、腕相撲をする創業者、井深大と盛田昭夫の有名な写真が映されていた。原点への回帰というメッセージがそこには込められていた。

転機は4年前にあった。2015年にソニーは、第2次中期経営計画の発表に備えて全世界のグループ会社の経営幹部が集うミーティングのテーマを「原点へのチャレンジ」とした。その時の議論の一部が2017年の経営方針説明会で披露された。

「外部環境の変化に対応するため、また、競争に勝ち続けて行くために、変えるべきものは勇気を持って変えていく。一方で、ソニーがソニーであり続けるために決して忘れてはならないことが創業の理念であり、今一度創業者が記した設立趣意書に立ち返る必要があると考えたからです」と当時の発表資料には東京通信工業設立趣意書の写真と共に記されていた。

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