「獺祭」旭酒造の戦略広報 島耕作とのコラボで豪雨復興をPR

桜井 博志(旭酒造 会長)

旭酒造は2018年7月7日、西日本豪雨の影響で本社蔵が浸水・停電しました。その影響は甚大で、「獺祭」の一升瓶30万本分を廃棄する可能性があり、復旧までに約60万本の製造ができない恐れがあることが分かりました。被害額は15億円程度、製造再開には2カ月~2カ月半かかる見通しでした。

豪雨発生直後は本社前にたくさんのメディアの方が押し寄せ、被災状況の説明を求められました。そこで、2日後の9日に岩国市役所で記者会見を開催。まずはメディアの先にいるお客さまに「とにかく最善を尽くしますから信じてください」と伝えました。

島耕作とのコラボが実現

そこから復興に向けた取り組みが始まりました。8月10日には温度管理の関係で通常の獺祭として販売できなくなった純米大吟醸に、岩国市出身の漫画家・弘兼憲史さんが描いたラベルを巻いて「獺祭 島耕作」として発売しました。全国で一斉に65万本を発売したのですが、半日で完売してしまいました。

「獺祭 島耕作」誕生のきっかけは、弘兼さんからの見舞いの電話でした。ちょうど私は、地元に対して「何ができるんだろう」と考えていたところで、コラボを思いついたんです。

このラベルを付けたのは、獺祭ブランドとしては世に出すとブランド棄損になってしまうけれど、純米大吟醸の範疇にはある酒。均一1本1200円とし、そのうち200円を西日本豪雨の被災地域に義援金として寄付しました。

一度決めたことは迅速に進めようと、都内での記者発表会を8月2日に設定し、7月末にはラベルの印刷に入りました。最終工程のラベル貼りは会見当日までスタッフが手貼りするなど、ドタバタの中、何とか間に合わせることができました。

この会見は、豪雨被害から約1カ月後のタイミングでした。相次ぐ大規模災害の発生に世の中の混乱が収まらない中、被災企業からの明るい話題ということで『WBS』(テレビ東京)など多くのメディアに取り上げていただきました。周囲からは「パブリシティ効果があったでしょ」とよく言われますが、災害による損失は10億円以上にものぼったので、ダメージが大きいことには変わりがないです。

記者発表のニュースは全国的に大きな反響があり、発売日には店舗で列をつくって買い求めるお客さまの姿も見られました。社員も「旭酒造って特別な会社なんだ」と感じたことでしょう。私自身、獺祭が全国で評価をいただけていることを肌で感じることができるいい機会になりました。

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