魚の鮮度を保ったまま輸送する画期的システム 日本食を世界へ

魚を眠らせて鮮度を保ったまま輸送する画期的システムが、大阪府泉佐野市に完成。「ライブチェーン」構想を掲げ、ゆくゆくは世界流通も視野に入れている。日建リース工業の関山正勝社長に話を聞いた。

関山 正勝(日建リース工業 代表取締役社長)

複数事業の知見を融合
意外なイノベーション

関山正勝氏が代表取締役社長を務める日建リース工業の本業は、建設用の作業足場のレンタルや、建設現場に設置される仮設事務所の什器備品レンタル。今では介護用ベッドや車いすなど介護用品のレンタルや、平パレットやコンテナなどの物流機器のレンタルも手がけている。

このようにレンタルを本業とする企業が、なぜ、活魚センターの開設に踏み切ったのか。根底には、関山氏の「水産業の成長に大きく貢献したい」との思いがあった。その思いに至った背景について、関山氏は大阪活魚センター開所式冒頭の挨拶で「沿岸漁業資源の減少や漁師の高齢化など、参入するにあたって水産業界について学ぶほど、重要事項でありながら未解決の諸課題を抱えていることに気づかされ、活魚流通という新事業にその解決・改善の糸口を見出したのです」と語った。

二酸化炭素を海水に溶け込ませると、一時的に魚に麻酔がかけられることは昔から知られていたが、そのままでは数十分後には魚は死んでしまう。同社は、別な新規事業であった飲料水製造の知見を活かし、二酸化炭素麻酔をかけた魚の睡眠状態の維持と蘇生に成功。ここから誕生した活魚輸送システムが、「魚活(ぎょかつ)ボックス」だ。

魚が低活性化状態であれば、生きたまま長時間の輸送が可能になる。麻酔をかけて魚を眠らせておくことで、輸送中に魚が動き回ることがない。輸送後、魚を通常の水槽に戻すと麻酔状態から覚醒し、元気に泳ぎ出す。水槽の中で魚同士がぶつかるなどして負う傷も格段に減る上、新陳代謝も一時的に弱まり、海水温の上昇も抑えられる。睡眠装置やバッテリーなどを備えると、水質浄化設備なども最低限で済む。

従来の活魚車が容量の10%未満の活魚しか運べなかったところ、「活魚ボックス」の導入で、容量の30%の活魚が輸送可能になるという。それだけでなく、2トンフォークで上げ下ろしが可能なため、活魚輸送車という特殊車両に頼らずとも、一般のトラックを使っての路線便やJRコンテナなど、輸送手段や経路が格段に広がる。ひいては、「活魚の輸送コストを劇的に下げることができる」のだ。

2019年2月12日、活魚で流通させる「ライブチェーン」構想の拠点となる「大阪活魚センター」の開所式が執り行われた。

大阪活魚センター大型水槽

「漁業者の収入増
地方創生に貢献」

「大阪活魚センター」が開設されたのは、泉佐野漁協敷地内の一角。ここは大阪府下でも1・2位を争う水揚量を誇る漁港で、センターの総面積は2200m2。計70トンの水槽容量を備え、活魚を最大で1週間程度保管できる。

関山氏はこれを機に全国に同様の畜養槽を配置し、「魚活ボックス」を活用した「ライブチェーン」構想を展開していくと明言。魚を活きたまま運搬し、売れるまで畜養槽で活かしておくことができる。つまり、売り急がずとも常に鮮魚を美味しい状態で提供可能な輸送・販売ルートの確立である。これによって地方の小さな漁港で水揚げされる魚を、東京や大阪などの都会でブランド化することも夢ではない。つまり、生産者がこれまで以上に魚を高値で販売できる可能性の広がりを意味している。飲食店や鮮魚店は顧客に、より新鮮な水産物を提供することで他店との差別化が図れるというメリットもあるのだ。

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