2019年1月号

地方発ITイノベーション

「IT融合」先進地の広島県 研究会から実用化の成果続々

前田 香織(広島市立大学 大学院情報科学研究科 教授)

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「ものづくり産業」が集積する広島県では、ITとリアルを融合したイノベーションの創出が重要なテーマとなっている。そこで、最新の IT 技術や多種多様なデータを「異分野の産業」と組み合わせる「ひろしまIT融合フォーラム」を発足。この場から、全国初のユニークな挑戦が生まれている。

「せんみつ」という言葉に代表されるように、新規事業は1000のうち3つしか成功しないと言われる世界であり、とにかく数多くのアイデアを生み、実行に移すことが重要だ。広島県と広島市では実行に移すアイデアを生む仕掛けの一つとして「ひろしまIT融合フォーラム」を2013年にスタート。さらに、広島県では2018年から、最大10億円規模を投資するAI・IoTを活用した実証プラットフォーム「ひろしまサンドボックス」も用意し、優れたアイデアを形にできる土壌を整えた。これまでの道のりについて、「ひろしまIT融合フォーラム」の会長を務める前田香織氏は次のように振り返る。

前田 香織(広島市立大学 大学院情報科学研究科 教授)

「発足当時、すでに様々なジャンルで"IT技術の利活用"という言葉が盛んに出るようになっていたものの、異分野と組み合わせた"IT融合"にまで至った例はまだまだ少ない状況でした。地域の産官学金の関係者が相互に連携しながら異分野のマッチングが生まれる場をつくることが、製造業や農林水産業を中心とする広島の地場産業の振興や新ビジネスの創出にも寄与するのではないかと考えたのです」

フォーラム立ち上げからの5年間で、ITビジネスの裾野は急速に広がった。ITが販売、生産、品質管理、財務など幅広い分野で浸透したことに加え、スマートフォンの急速な普及や、通信環境等のインフラが整ったからだ。「今では、製造業の経営者のみならず、農業、介護福祉、アパレルといった分野からの参加者も増えています。ITのためのITという印象が薄れ、自分たちの現場でITを生かし、手つかずにしていた課題の改善を始めてみようという機運が高まっています」(前田氏)

ジャンルを越えたチームで
実用化を目指す研究会

また、会員が医療・福祉、農業、ものづくり、公共などの分野ごとに集まって意見を交わす研究会が併設されている点も、本フォーラムの大きな特徴だ。新たな価値を創造するアイデアや、現在の生産性・付加価値等の向上に繋がるアイデアを創出し、実用化するための研究テーマを掲げ、採択されれば資金的援助も受けられる。2018年度からは、広島県の実証プラットフォーム事業「ひろしまサンドボックス」に事業プランを提出することを目標に掲げて、5つの研究会が活動している。

たとえば、2016年度に採択された「養蜂業の効率化・自動化を目指すためのIoT/AI活用についての研究」は、養蜂農家・はつはな果蜂園を中心とする4社の共同提案だ。ハチミツ生産のためには、島しょ部も含む県内様々な箇所に設置された蜂の巣箱を週に1度は開き、産卵が止まっていないか、蜂の活動が鈍っていないかなどを確認しなければならない。この作業を"IT融合"で効率化することで高品質の広島産ハチミツを守りたいという願いに、AI開発のベンチャーであるアドダイス(東京都)が応え、養蜂業支援システム(Bee Sensing)の開発に至った。

蜂の巣箱とITを融合させることで養蜂業の効率化を実現。広島県外の養蜂業者からの期待も高い

「センサーで測定しているのは、温度と湿度です。外気温に関係なく巣箱の中の気温が一定に保たれていれば、設置場所まで行かなくても蜂が正常に活動していることが分かります。また、働き蜂が花みつを採ってきた後、濃縮するために羽で扇いで水分をとばすので、湿度の変化からハチミツの集まり具合がわかるのではないかということを検証する研究会を実施されました」(前田氏)。データが多く集まるほど異常感知や収穫予測の精度が高まるため、凸版印刷(東京都)がマーケティングを、広島銀行が販路開拓をサポートし、同システムを他の養蜂業者向けに販売している。

実用化に向け、年度を越えて継続している案件もある。プラスチックブロー成形を得意とする広合化学等のグループから提案された「センサー活用による作業現場における環境データの収集とデータを利用した生産能力の向上」というテーマは、2017年度に採択され、翌2018年度に前年度の研究成果をヒントに実装に向けた研究へと進展した。工場内の成型機にセンサーを後付けし、温度・湿度・照度・気圧などを測定して、異常前後の機械の動き方とトラブル関係性を探っている。自動車部品メーカーからの価格低減努力、品質要求レベルアップ要求に応えるべく、トラブルの事前察知やメンテナンス計画、生産性の向上に役立てたい考えだ。

行政一丸の支援で
広島発の"IT融合"を世界へ

4カ年計画でスタートしたフォーラムが、2018年度で5年目に突入。2017年春に出来た「イノベーション・ハブ・ひろしまCamps」で人材を発掘。「ひろしまIT融合フォーラム」というプラットフォームでユニークなアイデアが最初の一歩を踏み出す。そして、広島県が有するエコシステムを活用して、「ひろしまサンドボックス」でアイデアのブラッシュアップから実証実験、さらには商用化までの道筋をつくるという流れは、県市の垣根を越えて行政一丸で取り組んできた成果だ。

広島県によるITを活用した新事業創出に向けた施策

 

「農業技術センターや工業技術センターといった相談窓口もありますが、分野をまたいだアドバイスは難しい。その点、フォーラムは"IT融合"という違う分野のマッチングを前提に、行政という中立的な立場で横串を挿せるのが良かったのだと思います」と前田氏。IT関連の相談件数が増えていること、研究テーマのレベルが上がっていること、非採択だったアイデアが他の事業コンテストに再チャレンジする例が出ていることなどからも、広島全体で"IT融合"の熱量が高まっていることは疑う余地がない。

「とはいえ、あまり地域に固執することなく、県外からもデータや知見を集めて、農業やものづくりといった広島らしい分野での"IT融合"を創出し、それを日本全国に、できればワールドワイドに展開していってほしいですね」

 

前田 香織(まえだ・かおり)
広島市立大学 大学院情報科学研究科 教授
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