後継者のベンチャー魂に火 事業承継はカッコいい創業スタイル

事業承継は後ろめたいことではなく、時代が求める"かっこいい"創業スタイルのひとつである。2018年6月に設立された「一般社団法人ベンチャー型事業承継」の提言が若き"アトツギ"たちの野心を呼び覚まし、創業のカルチャーを変えようとしている。

山野 千枝(ベンチャー型事業承継 代表理事)

総務省の予想では、2025年に国内の社長の64%が70歳以上となり、うち3分の2が後継者不在に陥るという。

「まったく後継者候補がいないわけではなく、現社長が子どもに遠慮して後継ぎの話をしていないか、こんな厳しい時代に任せていいものかと決めかねているケースが少なくないと思います。社長になる志やセンスを持った若い後継者は日本中に存在しているはず。少なくとも大阪には大勢いましたから」と、一般社団法人ベンチャー型事業承継の山野千枝代表理事は語る。

同法人は、若手後継者が、家業が持つ、有形無形の経営資源を最大限に活用し、リスクや障壁に果敢に立ち向かいながら、業態転換や新市場開拓といった挑戦をすることで永続的経営を目指し、社会に新たな価値を生み出すことを「ベンチャー型事業承継」と定義している。「ベンチャー型」とはいっても、必ずしもIPOやスケールアップを目的としているわけではない。地域に根を張って永続のために小さなイノベーションを重ねることを重視している。

2016年の初夏に「一行でいいから『ベンチャー型事業承継』という言葉を入れてほしい」と山野氏が経済産業省に提言。2017年7月に発表された中小企業庁の「事業承継5ヶ年計画」には、ベンチャー型事業承継という言葉や概念が盛り込まれた。

そして今回の法人発足のニュースが東京から全国に流れることにより、大都市圏のみならず地方にいる後継者たちの起業家魂にも火をつけようとしている。

後継者支援に「ワクワク感」を

新たなベンチャーのジャンルとして、関西地域で先行して広まった「ベンチャー型事業承継」の生みの親とも言える山野氏は、コンサルティング会社や大阪市の中小企業支援拠点で、数々の経営者たちと会ってきた。そして、ユニークな新ビジネスや革新的な経営の事例を探すうち、いわゆる新進気鋭の創業社長たちに引けをとらない、ユニークな発想力や優れた行動力を見せる、"ベンチャー型"の二代目・三代目の後継者たちがいることに気が付いた。「成功している人の共通点は、20代のうちに家業からはみ出す事業にチャレンジしていること。ごくごく小さなことでもいいんです。たとえば、自動車部品の工場の跡継ぎが、A4チラシ3枚のカタログを持って得意先を回ることから通販ビジネスに乗り出して、いまやネット通販事業として大きな成果を上げている例もあります」

一方で、大学の教壇に立って「後継者ゼミ」を主宰してみると、親が商売を営む学生たちの多くが「ベンチャー社長のほうがかっこいい」「後を継ぐなんて恥ずかしい」といった後ろめたい気持ちがはびこっていることを感じた。

また、メディア発信にしろ、支援策のプログラムにしろ、ベンチャー向けのものは夢を実現するために挑戦するかっこいい打ち出しのものが多いのに対し、事業承継となると、相続税対策をはじめとした手続き関係のことばかり。これでは不況に強い財務体質や長期的な経営視点、社員や地域に貢献する企業風土など、世界的にも認められているファミリー企業の強みやポテンシャルを知る前に嫌気がさしてしまう。

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