2018年7月号

地域特集 北海道

22歳でホテル5軒を経営 気鋭のホテルプロデューサーの構想

龍崎 翔子(L&G GLOBAL BUSINESS取締役、ホテルプロデューサー)

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22歳にして5軒のホテルを経営する新進気鋭のホテルプロデューサー、龍崎翔子氏。今年4月、北海道に新たなホテルをオープンした。ユニークなキャリアと、ホテルビジネスの可能性を語った。

4月に北海道層雲峡にオープンしたホテルクモイ。古びた旅館を再生したホテルで、水タバコを楽しめるスペースやビリヤードが並ぶプレイラウンジ、暖炉のあるシアタールームなどが整備されている

龍崎 翔子(L&G GLOBAL BUSINESS取締役、ホテルプロデューサー)

2018年4月、北海道の大雪山の麓にある道内有数の温泉街、上川町層雲峡で一軒の古びた旅館が「ホテルクモイ」としてリニューアルオープンした。黒岳ロープウェイの前に位置し、バスターミナルにもほど近い便利な立地のそのホテルは、層雲峡で異色の存在だ。

温泉宿といえば「癒し」をテーマにした和風の内装を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、「ホテルクモイ」に一歩足を踏み入れると、ヒビの入ったコンクリートやメタリックなステン素材が目に入る。エントランス横にあった食堂はビリヤードが並ぶプレイラウンジに、フロント前のロビーは暖炉のあるシアタールームに変わり、ホテル内で水タバコを吸えるスペースも用意されている。

「ONSEN2.0」と称してこの新感覚ホテルをプロデュースしたのは、現在22歳、東京大学経済学部に在籍している龍崎翔子氏。龍崎氏は19歳でホテル企画・運営のスタートアップ、L&G GLOBAL BUSINESSを立ち上げ、ホテルプロデューサーとして同社を率い、ほかにも北海道の富良野、大坂、京都、神奈川の湯河原に計4軒のホテルの経営に携わっている。

「ホテルクモイ」は、龍崎氏のユニークなキャリアと繋がっている。まずは、その歩みを振り返ってみよう。

工業製品のようなホテルに不満

「小学生の時、半年間だけアメリカに住んでおり、最後の1ヵ月で両親とアメリカ横断ドライブをしました。後部座席に乗っているだけだった私は、毎日のホテルを楽しみにしていたのですが、どの都市も部屋は変わらない。同じようなサービス、内装、設備に漠然とした不満を感じていました。それが私の原体験です」。小学5年生のとき本を通じてホテル経営という仕事を知り、目指す職業が決まったという。

「飲食やアパレルの世界では、エンタメ性や独自の世界観を商品や空間に反映させることが多いですよね。でも、ホテル業界ではまずありえない。どこも工業製品のようだし、モノづくり感がない。もっと土地の雰囲気を感じられる、旅の高揚感を引き立てるようなホテルを作りたいと思うようになりました」

大学に入ったばかりの頃には京都の自宅でAirbnbのホストを始めていた龍崎氏。他にも、ホテルでのアルバイトやインバウンド系ビジネスの手伝いを通して、ホテル経営を学んでいった。

本格的にホテル経営を始めようと物件を探す中で出会ったのが、北海道の富良野にあったペンション。もともと観光地としての北海道と富良野にポテンシャルを感じており、ペンション自体もゲレンデに近く、夏、冬楽しめる好立地だったため、購入を決意。当時19歳で、母親を代表取締役としてL&G GLOBAL BUSINESSを設立した。

ポジティブな予定不調和を起こす

自分のホテルを立ち上げるにあたり、特に意識したのは「その場所の空気感を織り込む」ことだった。

「日本の街はどこも、自然、食の美味しさ、人の温かさを特徴に挙げます。しかし日本中どこでもそうなので、その街の魅力や雰囲気は十分には伝わりませんよね。この3つとは違う切り口で、その土地や町をプレゼンするようなホテルを作ろうと考えました」

富良野と隣町の美瑛にヨーロッパ的な雰囲気を感じていた龍崎氏は、その「空気感」を演出するために、ホテルのコンセプトを「瀟洒」に決めて内装を統一。加えて、英語対応、Wi-Fi完備など設備やサービスも現代的にリニューアルし、2015年、「petit-hotel #MELON」としてオープンした。

当初、スタッフは母親と龍崎氏のふたり。限られたリソースでいかに宿泊者の満足度を高めるのかに頭を捻り、試しにホテルのなかに無料のバーを作った。すると、バーで宿泊者同士が盛り上がり、仲良くなっていく姿を見て、龍崎氏は気づく。

「旅行者は、旅先で予想外の楽しい出来事、ポジティブな予定不調和を求めている」

そこでバーなど共用スペースの機能を強化したところ、宿泊者同士の会話が以前よりも増え、それに伴ってリピーターも増えていった。

ホテルよりも安く、ドミトリーなどの大部屋があるゲストハウスでは、宿泊者同士のコミュニケーションが生まれやすい。一方、従来型のホテルでは、ほかの宿泊者と会話をする機会はほとんどない。そのなかで「petit-hotel #MELON」は、ゲストハウスや民泊のようなソフトな魅力も併せ持つソーシャルホテルとして新境地を拓いたのだ。

龍崎氏は、この最初のホテルでの経験が、その後のホテル経営での指針となったと語る。

16年には京都で「HOTEL SHE, KYOTO」、17年には大阪に「HOTEL SHE, OSAKA」をオープン。大阪では共用スペースに宿泊者が使えるキッチンを設けたほか、ラウンジでイベント時にはDJがプレイし、サードウェーブのコーヒースタンドも出店しており、クラブのような雰囲気になっている。また、「アナログカルチャーの入り口を作る」というテーマで全客室にレコードプレイヤーを設置して、レコードの視聴・購入も可能にした。

こうしたアイデアはすべて、起業から3年を経て固まってきた「ホテルはメディアである」という考えに基づいている。

「ホテルは宿泊客と町、人、文化が出会うメディアなんです。ホテルを通して町の空気感を伝え、いろいろな背景を持つ人の出会いの場となり、文化を提案する。私はどの町でもよそ者だけど、ホテルビジネスを通じて、結果的に地域に貢献できればいいと思っています」

17年にオープンした「HOTEL SHE, OSAKA」

共用スペースに宿泊者が使えるキッチンを設置

「アナログ文化の入り口を作る」がテーマ

龍崎氏が19歳でオープンした「petit-hotel #MELON」

尖ったコンセプトを打ち立てる

そして、龍崎氏がプロデュースを手掛ける5軒目の宿泊施設「ホテルクモイ」。前身となる旅館のオーナーとは龍崎氏が富良野で奮闘している時からの知り合いで、高齢により旅館をたたむという話を聞いて、事業を請け負った。

「層雲峡はバブル期に大型宿泊施設が次々に建ち、バブル後に観光客が引いてしまったという、地方によくある温泉街です。でも、日本離れした独自の景観は根強い人気があって、宿泊者は富良野の2倍。その3分の1は外国人旅行者です。その割に層雲峡は外国人や若い人が喜ぶようなホテルが少ないので、まだ伸びる余地があると判断しました」

ひなびた温泉街で、どう勝負するのか。ホテルのコンセプトを決めるにあたり、龍崎氏ならではの視点が取り入れられた。

「層雲峡は『秘境』でブランディングしようと当初考えていました。しかし、秘境は日本中にありますよね。そのなかで層雲峡らしさは何かと考えた時に雲海、霧、温泉の湯気、滝しぶきなど、層雲峡にユニークな光景に共通するのは水蒸気なので、水蒸気を全面に押し出そうと決めました」

ブランディングで「水蒸気」に焦点を当てるホテルはほかにないだろう。さらに水蒸気からイメージを膨らませた龍崎氏は、視覚的にも神秘的な雰囲気があり若者にも人気なシーシャと呼ばれる水タバコの導入を決定。北見町にあるシーシャカフェとコラボレーションし、ホテル内で水タバコを楽しめるようにした。

層雲峡で、というより日本全国のホテルのなかでもほかにないようなコンセプトだが、龍崎氏は「観光地の商圏で、尖って差別化する」という同社の方針に自信をのぞかせる。「独自の立ち位置を決めて世界観を作ることができれば、宿泊者がSNSなどで自発的にPRしてくれて、それを見た方がまた泊まりに来てくれますから」

将来はホテル以外にも挑戦

現在、L&G GLOBAL BUSINESSはホテル5軒約200室を運営し、社員はパートを含めて約60人。「ホテル業界出身の人はあえて採用していません。異業種のノウハウを持つ人を重視しています」といい、メーカーや金融、人材、インフラ、不動産などバラエティに富んだ業界から、続々と挑戦者が集まっている。

「2020年までに15軒のホテルを作ることが目標です。ただ、L&Gはホテルだけの会社とは考えていません。膠着したシーンに新しい動きを創り出すということに、別の業界でもチャレンジしたい」と龍崎氏。22歳の若き経営者の前には、無限の可能性が広がっている。

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