キャッシュレスが地域を変える 自治体に求められる決済インフラ

政府の「日本再興戦略」は2020年の東京五輪開催に向けてキャッシュレス決済を普及させ、利便性・効率性の向上を図る方針を示している。それによって、インバウンドによる消費拡大など、地域活性化への効果が期待される。

松田 典久(ビザ・ワールドワイド・ジャパン取締役 次席代表)

2020年東京五輪に向けて進むキャッシュレス環境の整備

人口減少時代を迎える中、政府は新しい産業の軸としてツーリズムを育てる「観光立国」政策を進めている。東京五輪が開催される2020年には、訪日外国人旅行者を4000万人とし、その消費によって8兆円規模の市場を生み出すことが目標だ。

訪日外国人旅行者数は順調に増加しており、昨年は2000万人を突破した。その一方で、インバウンドによる消費拡大に関しては、外国人旅行者がATMやカード支払いをスムーズに利用できるようにすることが不可欠となる。

「欧米の旅行者の間では、旅行先のATMで現地通貨を引き出す習慣が定着しています。しかし、日本には海外のカードが使えるATMは限られていて、不便な状況が続いています。また観光庁の調査によれば、『日本ではクレジットカードの利用や両替がしにくい』という外国人旅行者の声が少なくありません」

ビザ・ワールドワイド・ジャパン取締役次席代表の松田典久氏は、日本のATMやキャッシュレスにおける国際化の遅れを指摘する。米国に本社を置くVisaは、そのブランドを使ったペイメントサービスや世界最大規模の電子決済ネットワークを提供している。

日本では、カード支払い(クレジット、デビット、プリペイドの3種を含む)が個人消費支出に占める比率は17%にとどまり、韓国(73%)や中国(55%)、米国(41%)など他の主要国と比べてかなり低い(2014年時点、出典:Euromonitor 2014 card Volumes)。国内のカード支払いは年々、増加しているが、その進捗度は遅く、特に公共部門の電子決済はなかなか進まない。

図1 個人消費支出に占めるカード払いの比率

出典:Euromonitor 2014 card Volumes

インバウンドマーケティングのカギは地域のキャッシュレス化

このような中で「日本再興戦略」の2014年改訂では、2020年の東京五輪開催に向けてキャッシュレス決済を普及させ、利便性や効率性の向上を図る方針が示された。これには、①訪日外国人増加を見据えた海外発行クレジットカード等の利便性向上、②クレジットカード等を消費者が安全利用できる環境の整備、③公的分野での電子決済利用拡大、という3項目が含まれる。

「政府の戦略では2020年という具体的な目標を掲げていますから、今後は国内のキャッシュレス環境は急速に整備が進むでしょう。さらに、政府の『まち・ひと・しごと創生本部』による戦略では、これを地方にも広げるとしています」

ビザ・ワールドワイド・ジャパンの調査によれば、東京を訪れた外国人旅行客の間では、商品単価が安い小規模店でカードが利用しにくいという声が上がっている。これには例えば、町のラーメン店や蕎麦屋、観光地の土産物店、そして様々な入園料や拝観料などが含まれる。また、カードが利用できなければ、旅行中の支出は財布に入っている現金によって制約される。

「日本人でも例えば、海外旅行に行き、せっかくの機会だからレストランでボトルワインを奮発して頼みたいと思っても、現金しか使えない店とわかればグラスワインだけにするかもしれません。万が一のために、現金は残しておこうという気になるのです」

政府が掲げるインバウンドによる消費拡大に向けては、国内のキャッシュレス環境整備が急務だ。個々の店舗でカード支払いを可能にするには、端末の設置が必要となるが、現在はスマートフォンでのカード読み取りや決済も可能になり、小規模店でも対応しやすくなっている。さらに、政府はキャッシュレス化への補助金政策も進めている。

図2 2020年に向けたキャッシュレス化の政策連携

図3 政府・自治体向け電子決済ソリューション

公共分野に秘められた電子決済の可能性

カードを使った電子決済の普及には、訪日外国人旅行者の利便性向上や消費拡大以外にも、様々なメリットが存在する。松田氏によれば、その3つの基本的なメリットとしては「迅速性、経済性、安全性」が挙げられる。

迅速性では例えば、高速道路の料金所や店舗レジでの決済処理時間の短縮がある。経済性と安全性では、現金の扱いが減ることから、管理コスト削減や盗難、紛失防止のような効果がある。「電子決済には、他にも様々なメリットがあります。いつどこで何に使われたのかを把握しやすいという透明性や情報収集性、災害時にも被災者に給付しやすいという機動性などがその例です」

一方、公的分野における電子決済も、日本ではまだこれからだといえる。これには税金の徴収や政府の調達、市民への給付があり、電子決済の利用が拡大すれば、効率性向上が期待できる。さらに高齢化社会における住民のプリペイドカード利用では、様々な活用法が考えられる。「プリペイドカードは少額の買い物でも使え、財布の小銭を探す必要がなくなりますから、高齢者にも利用しやすいと思います」。

またデビットカードを利用する度にメールが届くサービスを活用して遠隔地に住む家族の安否確認に利用することも行われている。2020年に向けて電子決済が普及すれば、その利用の仕方も急速に拡大するはずだ。

 

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