2017年5月号

地域ブランドを世界へ届ける構想

米国に進出、伝統産業を未来へ ネットワーク・ノウハウが不可欠

中村剛大(山勝染工・中村商店店主)

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和装礼装服が時代とともに使われなくなり、危機に陥った伝統工芸の名古屋黒紋付染。プロデューサーである中村剛大氏は、父の死を契機に名古屋黒紋付染の世界へ足を踏み入れた。海外輸出の知見がない状態から、伝統を未来へ継承するために、競争の激しい米国アパレル業界へ挑戦している。

登壇者は右から、内野伸子(エム・クロス・インターナショナル・コーポレーション代表取締役)、片上裕紀(エム・クロス・コーポレーション代表取締役)、中村剛大(山勝染工・中村商店店主)、堀部満久(名古屋友禅黒紋付協同組合連合会会長)、山本聖(ふるさとグローバルプロデューサー育成支援事業事務局)

伝統を守るために、現地で求められる商品を作る

1919年創業の山勝染工は、400年ほど前に発祥した名古屋黒紋付染の技術をいかした、和装礼装服の製造業からスタートした企業だ。三代目の父が亡くなったことを契機に実家に戻った中村氏は、職人である弟・友亮さんと二人三脚で染め技術の伝承・継承に力を注ぐことを決意した。

「昔は、日本人の身近にあった着物ですが、いまは着る機会が減ってしまいました。しかし、日本の染技術だから出せる深い黒や、日本の独自文化であり家族の絆の象徴でもある家紋文化を未来に残し、次の世代へとつないでいくことは、とても大切だと思っています」。

一度、家業から離れた中村氏だからこそ、見えること、できることもあるはずだ。「伝統を守ることは、変化を続けること」を企業理念に掲げ、3年かけてアパレル企業とのコラボ商品の開発に勤しんだ。そして昨年、もっといろいろな商品を展開したい、販路を広げたいと考えていたときに、ふるさとグローバルプロデューサー育成支援事業の存在を知って応募。中小企業のアメリカ進出をサポートとするエム・クロス・インターナショナル・コーポレーションで研修を受けることになり、ロサンゼルスに赴き、アメリカ市場への日系企業の進出事例などを調査し、世界最大規模の展示会「MAGIC」への出展準備を行った。「MAGIC」は、世界のアパレル企業約4000社が出展し、11万5000人もの来場者が集う夢舞台。見た目の華やかさの裏で、シビアなビジネスのやりとりが繰り広げていられることを知った中村氏は、アウトバウントを成功させるには「チームづくり(ネットワーク)」と「ノウハウ」の2つが不可欠だということを学んだという。

「現地の消費者から求められる商品をつくるために、現地のバイヤーやトップデザイナーたちと何度も何度も意見を交わし、デザインだけでなく、サイズや価格などもトライ&エラーで修正を繰り返していきました。そして、商品の魅力を伝えるためには、現地の言葉で違和感のないツール(ウェブサイトやパンフレットなど)をつくるノウハウが必須です。日本人だけで考えるのではなく、現地の人と一緒に進めていかないとうまくいきません」。

和装礼装服が使用されなくなったことを受け、伝統産業を残すために、技術をいかしアパレルに挑戦している

本当の成功は研修の先に

1月にすべての研修プログラムを終えた直後、2月20日から開催された「MAGIC」のジャパンショップに参画するチャンスを得た中村氏は、黒紋付姿でブースに立って染めの文化と技術をいかんなくアピールした。現地デザイナーのアイデアで着物にポケットを付ける、靴やジーンズを履いても似合うように着こなす、といったアレンジに来場者の反応は上々。そして、開催期間中にストールの注文を受けることにも成功した。OJT研修の受入機関であるエム・クロス・インターナショナル・コーポレーション代表取締役の内野伸子氏によると、「アメリカという巨大市場への参入は、時間とお金がかかるため、中小企業にとってはハードルの高い話でした。ただし、アパレル業界では『ファストファッション』と『本物』の二極しか生き残れない時代の流れが来ているので、後者にあたる伝統工芸に強みのある中小企業にとっては、いまこそが最大のチャンスと言えるかもしれません」と言う。事実、今回の「MAGIC」でもジャパンブランドのブースにはエントランス正面の場所が割り振られ、主催者側がいかに大きな期待を寄せているかがうかがえた。

研修期間中であれば何度でも海外に行けるというふるプロのOJT制度をフル活用し、想定外の成果を上げた中村氏に対して、エム・クロス・コーポレーション代表取締役の片上裕紀氏も「出展するだけでも、数年もかかってやっと......という例が珍しくないですし、まして初回から商談が取れるケースは非常にまれ。中村さんは事業にかける熱量がすごく大きかったし、現地のバイヤーやデザイナーとの間にあった大きなズレを、何度も話し合うことで埋めていったことが良かったのでしょうね」と、賞賛を惜しまない。一方で、内野氏は、「(いまは天国にいるような気持ちでしょうが)これからが地獄。日本人はブランディングやイメージづくりが下手なので、アメリカに商品を出すことができても埋もれてしまう。このチャンスを成功につなげるには、現地のトップデザイナーとコラボして感性を借りるか、アメリカのアパレルブランドを買収するか、ふたつにひとつです」と、期待を寄せつつも海外進出の厳しい現状を伝えて戒めた。

中村氏の活動拠点である名古屋友禅黒紋付協同組合連合会会長の堀部満久氏は、「私たちのようなベテラン職人にはできないようなことを、プロデューサーである中村さんが若い力で成し遂げてくれて素晴らしいと思う。これを機に、名古屋黒紋付が発展していってくれればうれしい」と期待を寄せた。中村氏は、「新しい染め職人を一人雇用するためには、およそ1000万円の売り上げが必要だと試算している。当面は、この数字を目標として頑張っていきたい」と展望を語った。

 

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