医療を「日本を救う」輸出産業に ビジネスで社会を変える

医療の輸出産業化に挑み、2016年秋にはカンボジアに救命センターをオープン。また、国内では、東京・八王子で病院を中心とした「医療のまちづくり」を推進。KNI・北原理事長は、「総合生活産業」としての医療を目指し、挑戦を続けている。

東京・八王子にある北原国際病院。内装は、温かみのある空間デザインになっている

―先生は、「現行の国民皆保険制度の撤廃」が日本を崩壊から救う、と主張されています。

北原:日本型の国民皆保険を維持するには2つの条件が必要です。1つ目がピラミッド型の人口構成、2つ目は右肩上がりの経済成長です。戦後の日本はその2条件を満たしていたので、この制度が上手く機能したのです。

しかし、少子高齢化が進んだ現在、この前提条件は失われました。それでも現行の皆保険を維持しようとすれば、現役世代の社会負担率のとめどない上昇を押さえるために、総医療費の圧縮は不可避です。

また、現制度を続けるなら、2030年には、医療・介護産業に必要な従事者数は944万人となり、製造業、卸売・小売業を抜いてトップになると予想されます。家族も含めれば2000万人、国民の6人に1人が医療で食べていかねばならない計算になり、総医療費の圧縮だけで国民皆保険を維持しようとすれば、この最大の産業の従事者も、それを養う現役世代も共にワーキングプアになりかねません。

国が医療の価格を統制し、全国一律のサービスを保証する現行の皆保険制度は限界を迎えており、今こそ医療のビジネス化が求められているのです。

北原 茂実(医療法人社団KNI 理事長)

「施し」では社会は救われない

―21年前の病院開設時から、医療の輸出産業化に挑んできました。

北原:少子高齢化で日本の医療が財源不足に陥ることは、最初からわかっていました。人件費以外の医療コストの圧縮は絶対必要ですが、それでも国内では財源が不足するというのなら、国外に求めるしか手はありません。

私は医療・社会におけるこれらの問題を解決するために、1995年、東京都八王子市に北原脳神経外科病院(現・北原国際病院)を開設しました。そして、病院の理念として「世のため人のため、より良い医療をより安く」、「日本の医療を輸出産業に育てる」の2つを掲げたのです。

―海外での取り組みについて教えてください。

北原:私は「施し」では人も社会も救えない、と考えています。

従来のODAではその場限りの支援にしかなりません。我々は医療を持続的に利益が出るビジネスにつくり替え、患者、医療者の双方を救うと同時に、その国の社会開発にも貢献しようとしているのです。

私は社会と医療は並行して進化すべきものと信じており、その進化を3つのステージに分けて考えています。

 

ステージ1は新興国の状態で、医療には日本の国民皆保険のような公平な供給システムと、自国民に必要な医療を自身の手で供給できる地産地消性が求められます。

ステージ2は先進国の状態で、医療には輸出産業化が求められます。少子高齢化で経済が停滞する中、医療が赤字を垂れ流し続ければ誰もこの赤字を補てんできず、医療も国も滅びかねないからです。

最後にステージ3は、まだ見ぬ未来の社会で、そこで医療に求められるのは本体の合理化と重厚長大型産業からの脱却、そして「総合生活産業」への変容です。ステージ2の国々が増えて市場競争が激化すれば、輸出産業化では問題を解決できなくなるからです。

社会のステージと医療のステージにミスマッチが起こると、不幸が生まれます。日本はと言えば、実は社会はステージ2なのに、医療は皆保険に依存するステージ1で、そのミスマッチがこの国の社会と医療の停滞の原因です。

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